2021.03.23. | 

[Vol.1]器が料理人を刺激し、料理が器の魅力を引き出す。有田焼のブランド力向上に繋げるクレアツォーネのブランディング戦略

企業や商品の潜在的な価値や可能性をクライアントから引き出し、ブランドとしての魅力を高めていくという素敵な仕事をしているご夫婦がいます。株式会社クレアツォーネの草野信明さんと、草野真美子さん。最近では、有田焼と伊万里焼の5つの窯元のブランディングを手がけ、海外への輸出につなげるためのWebサイト「SAGAMA」も完成しました。陶磁器は、食には絶対に欠かせないもの。まずは、「SAGAMA」というプロジェクトについて、お二人にお聞きしていきます。

プロジェクト「SAGAMA」とは

お話を聞かせて頂いた代官山にあるクレアツォーネのオフィスはいたってシンプル。なのに無機質さを感じさせないのは、お二人がこれまでブランディングに携わってきたオブジェや照明、陶磁器などが飾られていて、それらの質感や温度感が心地よく調和しているからかもしれません。

一つ一つの作品について「これは?」と詳しいお話を聞いてみたくなりますがグッと飲み込み、今回はWebサイトが完成して間もない「SAGAMA」のお話から。

 

真美子さん:「SAGAMA」は、佐賀県にある有田焼と伊万里焼の5つの陶磁器ブランドを、中国、台湾向けに輸出するための佐賀県のプロジェクトです。

アジアで市場を開拓し、輸出につなげることがゴールですが、輸出を成功させるためには、自分たちのことをしっかりとプレゼンテーションする必要があります。そのため、まずは自分たちのミッションを含め独自性を明確にするなど、ブランディングするところから始めていきました。

 

信明さん:なぜプレゼンテーションが大事かというと、国内のビジネスではすぐに具体的な値段や送料についての話に入れるのですが、海外では、ブランドの世界観やアイデンティティを最初に聞かれることが多いんです。

でも、これまで主に国内で仕事をしてきた窯元さんたちはそんなことを聞かれることにも慣れていませんし、ましてや答えたことはありません。なのでまずは、自分たちが自分たちのことをよく知り、ブランドについて語れるようになるために、ブランディングに時間をかけていったのです。

 

真美子さん:佐賀ではこれまでも大規模なプロジェクトがあり、それらに参加したことがある窯元さんもいるのですが、何から何までお膳立てされていたそうなんです。なので今回は、自分たちで発信し、自分たちで売り出すことを目指して一緒に走り始めました。

 

 

己を明確にし、相手を知り、伝える方法を考える

ブランディングしていくために、実際にはどんなプロセスを踏んでいったのでしょうか。

 

信明さん:ブランディングの軸は、顧客との約束であり、社会的使命や存在意義でもある「ミッション」と、あるべき姿である「ビジョン」、価値観である「バリュー」を設定することから始めていきます。いわゆる企業哲学ですね。

そのため、ブランドごとに月3〜4回、合計15回の面談を重ねました。

 

真美子さん:3回は佐賀まで行きましたが、コロナ禍ということもあって後はオンラインで。9月から12月はブランディングマラソンといえるくらい(笑)、ずっとブランディングに時間を費やしていました。

というのも、最初は皆さん慣れていないので「有田焼です」「昔からやっています」しか出てこないんですよ。でも実際には、それぞれが違う商品ですし、背景も違います。なので「もう少し自分のことをわかっていきましょう」というところから始めました。

 

信明さん:長いところでは7代、短いところでも3代は続いていて、語れるだけの長い歴史を持っているんですよ。

 

真美子さん:その歴史を再認識してもらうために、昔はどんな場所だったのか、というところからお聞きするのですが、皆さんご存知ないんです。でも、こちらが調べたことを投げかけていくと、「確かにそうでした」と。

そうやって少しずつ記憶の中に眠っていたものを思い出してもらいながら、最初はぼやけていた「どんなブランドなのか」という輪郭をはっきりとさせていきました。

 

信明さん:回を重ねるごとに皆さん変わっていって、ミッションを含むブランドアイデンティティについて語れるようになってきましたね。

己というものを明確にすることができたら、今度は相手を知る作業に入っていきます。相手とは、バイヤーさんでありユーザーのことです。ブランドの価値や独自性を理解し、共鳴してくださるのかどうかを見極めていきながら、取り引きしたいところをリストアップしていきました。

 

真美子さん:そこまでやって、やっと「じゃあ、どうやって伝えていきましょうか」というところに入っていけるようになるんです。

 

 

魅せるためだけではなく、“売る”ために

伝えるためのデジタルコンテンツの一つが、先日オープンしたばかりのWebサイト「SAGAMA」。とてもスタイリッシュなのに、生活空間の中に陶磁器が配置されている、ショールームのような見せ方がとても印象的です。

窯元ごとにブランドを紹介したムービーのクオリティも高く、職人による一つ一つの手作業の細やかさや丁寧さ、そして芸術的な技にグッと惹きつけられます。

 

真美子さん:ブランドサイトは、どうしても一つ一つの商品の細かなこだわりや技術ばかりを伝えがちになります。売るためではなく、魅せるためだけのサイトだからです。

でも今回、私たちはそれとは違う切り口で、キチッとものが動く、輸出につながるプロジェクトにしたいと思いました。なので、どういうところに器を置いてほしいか、どういう風に使ってほしいかが伝わるように、器のある空間の全体像が見える作りを意識しました。

 

SAGAMAのWebサイトには日本語がなく、英語と中国語(简体中文、繁體中文)の3種類の言語に限られているのも大きな特徴です。せっかく作るのなら日本語でも、と思いたくなるところですが、あくまでもアジア市場開拓のため、というブレない姿勢がここからも伝わってきます。

 

とはいえ、一枚一枚の写真、そしてブランドごとのムービーが伝える美しさに言葉の壁はありません。ぜひサイトを訪れてみてください。

3/30(火)公開予定の次回は、有田で出会ったというちょっと変わったレストランについてお話を聞いていきます。そしてその先にある、Mo:takeヘッドシェフの坂本英文(さかもと・ひでふみ)との出会いもどうぞお楽しみに。(つづく)

 

– Information –
株式会社クレアツォーネ
https://creazione.jp

SAGAMA
https://sagama.jp

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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