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Food Future Session
2025.04.22. | 

【Vol.1】共用空間の活用で未来につなぐ。“まち”に参加するカフェ「HALO」が生まれた理由

「ここの場所でカフェをやりたい」「この空間でコーヒーを気軽に提供できたら」そんな想いをもっていても、どんな風に実現していいのかわからないもの。そんな人たちのために、カフェの立ち上げや、オペレーション設計、ときには運営もするYuinchuの「HYPHEN TOKYO(ハイフントウキョウ)」というブランドがあります。

そんな「HYPHEN TOKYO」が、建築設計事務所のインクアーキテクツから依頼を受け、協業するというスタイルで新たなカフェを立ち上げました。

今回は、インクアーキテクツが店舗設計などのハード面を、そして「HAYPHEN TOKYO」が家具選定から運営までのソフト面を担い、設計者と事業者が連携し、それぞれの専門性を活かしながら2024年12月、東京は中目黒の閑静な住宅街エリアにカフェ『HALO(ハロー)』が誕生しました。

 

 

『HALO(ハロー)』は、築50年の賃貸マンション1階の一角をリノベーションして生まれたカフェ。ハウススタジオも併設されているので、カフェのみならず、イベントや撮影などさまざまな用途で活用できるレンタルスタジオの機能も備えています。
これから色々な目的に合わせた場として、人々のコミュニケーションの接点をつくる場にもなりそうです。

ここで少し気になるのはお店までのアクセス。『HALO』は、祐天寺、中目黒駅、目黒駅からそれぞれ徒歩15分の立地なんです。
飲食店を運営する場合のアクセス条件としては一般的に、“不向き”といわれる距離だと考えられています。
では、なぜここにカフェが誕生したのか?

そんな疑問を胸に、『HALO』の店舗設計を手がけたインクアーキテクツの金谷聡史(かなたに・さとし)さんと、店内の家具の選定やオペレーション設計、店舗運営を担う「HAYPHEN TOKYO」を率いるYuinchuの代表・小野にお話を伺います。

Vol.1では『HALO』がどのような経緯で、どんな想いで誕生したのかをお聞きしました。

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VOICE:#02_【取材後記】『街に参加する共用空間』中目黒エリアに誕生したカフェ『HALO(ハロー)』

「まちに還元したい」オーナーの想いがプロジェクトの起点に

−−インクアーキテクツさんのホームページでも紹介されていましたが、この場所は築50年の賃貸マンション「ハイツ自然園」のリノベーションによるリニューアルプロジェクトということで、「50年後も魅力的であり続ける場所にする」というミッションを掲げてらっしゃいますよね。その中でやはり、ここにカフェをつくるということは必然だったのでしょうか?

 

金谷さん:そうですね。このプロジェクトはオーナー様と初めてお話した時に「何か“まち”に還元したい」という想いを伺ったところからはじまりました。
「HALO」がある中町通りは今でこそ閑静な住宅街ですが、以前は八百屋さんなど個人商店が立ち並び、賑わいがあったエリアです。

ところが、高齢化が進むと商店が無くなってしまい、賑わっていた当時を知る「ハイツ自然園」のオーナー様は、以前と比べて賑わいを失いつつあるこのエリアに住んでいることで寂しい思いをすることもあったそうです。
そこで、自分の物件を活用することで少しでもかつての賑わいを取り戻せないかという考えに至ったようで、私たちにご相談をいただいたんです。

 

−−賑やかだった“まち”の良さを感じていたからこそ、オーナー様もはじめから“まちに何かしたい”というエネルギーをお持ちだったんですね。

金谷さん:そうなんです。でも、そのお話を頂いて、私自身も最初は実際には何をどうすれば“まち”に還元できるのか、分からない状態でもありました。
当初は既存の集合住宅の建て替えの相談を受けていたんです。でも、昨今は様々な物価が高騰している中で、建築費も例外なく高騰しています。
そこで、他の選択肢として、必ずしも建て替えをしなくても、リノベーションを施すことで、本質的な何かができることもあるんじゃないかと考え、色々と模索した結果、リノベーションなら費用は新築の7割で済むので、残りの3割で“まち”に対して何かできるのでは?という仮説に辿り着いたんです。

そうして、この仮説を元にオーナー様に「この場所から、“まち”に還元できることは必ずあると思うので、何ができるか一緒に考えましょう!」と提案させていただいたんです。

 

小野:それは、すごく良い提案ですね!

 

金谷さん:ありがとうございます!そうしてリノベーションをすることになり、「何かまちに還元したい」というオーナー様の想いは、集合住宅の共用空間を充実させることで実現できるのではないかということでプロジェクトが進んでいきました。
ここで一つ共用空間を充実させることについて、少し解像度をあげてお伝えすると、共用にあたる「common」とは、複数人の方々が共有しているものや場所のことを意味します。
その意味を踏まえて、集合住宅のラウンジやお庭などの共用空間を“まち”に開いていくこと、つまりそこの住人だけでなく誰もが利用できる場にすることが「まちに還元する」ことになると思ったんです。

そして、その場所をそういう「場」として機能させるためには、やっぱりカフェが必要だと思っていました。

 

“装置”であり“インフラ” ー場づくりでカフェが選ばれるのはなぜ?

−−なるほど!そのイメージはわかりやすいですね! 「まちに開くこと」=「誰もが利用できる場」という場が、色々な過ごし方ができるカフェであれば地域の人々の接点として機能しそうですね!

金谷さん:そうですね!共同住宅の共用空間としてのラウンジは、居住者だけの場というイメージをされるかと思いますが、今回、私がイメージする共用空間はそうではなくて、居住者だけでなく、地域の人など様々な人が過ごせる場にするという感覚なんです。
そうすることで、必然的に地域と繋がり、地域に参加する共用空間になると思ったんですよね!

そういったことを踏まえて、共同住宅とエリアを継続して同時に育てていく仕組みとして、共用空間のラウンジを誰もが出入りするカフェにできたらと思いました。そして時には参加し、様々なことに触れ、思い思いの時間を過ごせる“場”といった “ヒト、コト、モノ、トキの関係性をデザインし続ける状況をつくれる”と考えたんです。

 

−−そのエリアを継続して育てていく仕組みというのが、今回のこのプロジェクトで掲げたミッション「50年後も魅力的であり続ける場所にする」にもリンクしますね!

金谷さん:はい!このプロジェクトを通して“まち”を育てること、この共同住宅の存在価値を伝え、そういった役割を実現する為に必要で最適なものとは何か、それを考えた末にたどり着いたのがカフェでした。
そして当時は運営も当社でやるつもりだったのですが、どこから着手していいか分からず、どうしようかと考えていました。
そんな中、知人から「絶対にこのプロジェクトと相性がいいから!」と言われて紹介していただいて出会ったのが、小野さんです!
その後、こちらのハイツ自然園に視察兼ミーティングに来ていただき、このプロジェクトに対する自分の想いを伝えたところ共感してくださり、Yuichuさんと一緒に進めることになったんです。

 

小野:はい!すぐにお邪魔しましたね(笑)!
ちなみに金谷さんは、もともと自分の携わるプロジェクトでいつかカフェをやりたいという考えを持っていたんですか?

 

金谷さん:ありましたね!これは、「建築業界あるある」だと思うんですけど、建築学生の頃から「カフェ=地域とつながる、地域の価値を高める」というイメージがあるんですよね。
建築学生の課題制作を見ると8、9割は何かしらにカフェが盛り込まれているんです。
建築業界に根付く「カフェはコミュニティ形成につながるもの」という認識から思いついたのかもしれません。

 

小野:それは、僕もなんとなく実感がありますね。僕も建物や地域の活性化などを手掛ける方々の視点から、カフェがその役割のキッカケになるのではと考える事業者さんは多い印象があります。

僕らの「HYPHEN TOKYO」も、コーヒースタンドというものが「場」を動かすための“装置”として考えています。
何もなかった「場」にコーヒースタンドを設置することで、目的が生まれ人々が集まる「場」に変わります。
そういう意味では、“まち”や施設に作るカフェも同様に、その場所を価値あるものにするための大切な“インフラ機能”のひとつであると思っています。

 

−−お二人のそれぞれの視点は違っても、場づくりにおけるカフェやコーヒースタンドが価値ある「場」に変えるための装置的な役割をするという考えをもってらっしゃるのは面白いですね!確かに消費者目線でも、カフェというだけで、誰でも利用できる公園のような感覚を持っていますよね。それがマンションの1階だとしてもカフェはカフェだから居住者ではなくても入りやすそうですね。

 

カフェのニーズが不確実な中で見出した「複合的活用」という解

−−そうしたご縁で連携してカフェを立ち上げていかれるわけですが、もともとこの地域に無かったカフェという場を立ち上げることに対して、何か懸念点や「地域にカフェが求められている」という実感はありましたか?

金谷さん:そうですね、正直、地域にカフェが求められているかはなんとも言えない状況でした。
そもそもここのハイツ自然園がある場所は、第一種低層住居専用地域というエリアで住居兼店舗しか建てられないんですよ。つまり、昔よくあった2階は住居、1階は商店という形ですね。
なので、簡単に店舗を作ることができないんです。

 

小野:僕もこのエリアにニーズがあるかは分からなかったけど、仮にニーズがあるなら、Yuinchuには、場の複合的な活用ノウハウがあり、状況や環境に合わせた様々な提案ができるので、インクさんをサポートできるのではと思っていました。
実際やってみないとわからない部分も多いので、例えばリスクヘッジとして、カフェにレンタルスタジオを作れば「もし、カフェとしての需要や成長が著しくなくても、スタジオ利用としてBtoBにつながるかもしれない」など、様々な角度から金谷さんとお話し、議論しました。 そこまで話したうえで、少しでも可能性があるならやってみようとなってスタートした感じでしたよね!

 

金谷さん:そうですね!様々な角度の議論をしていただき、心強かったです!
それと当時は、住宅街にあるカフェに対して私の勝手なイメージですが、個人のライフスタイルに合わせて柔軟にやっているというイメージがありました。
それが悪いわけではないのですが、今回のプロジェクトの場合は「インフラと“まち”の構造に組み込む」という観点から、個人都合で店が閉まることは許されない。
そう考えた時、当初、飲食店の運営をしたことがなく、なおかつ飲食業未経験の私たちの設計事務所でやれるのか?という不安があり、正直ハラハラしていました。
結果的には、コーヒースタンドやカフェ運営が豊富なYuinchuさんが運営に入ってくれたのでクリアになりましたけど(笑)!

 

−−それだけチャレンジングな状況の中で無事に『HALO』が立ち上がったんですね!
決意を固めてからは割とスムーズにいったのでしょうか?

小野:そうですね!スムーズというか、僕らが参加することが正式に決まる前の割と早い段階から金谷さんと同じ目線で議論もできていたので、足並みは揃っていたと思いますね。 むしろ、あのタイミングでの同じ目線の議論がなければ『HALO』は誕生していなかったかもしれないですね(笑)!

真面目な話、今回のようにYuinchuがゼロイチから関わり、インクさんのような共存パートナーさんと一緒に作っていく時にはその事業者さんには、「僕らにしかできないやり方の話は、なるべくしないようにしますね」と必ずお伝えしています。
簡単にいうと僕らYuinchuにしかできない仕組みではなく、Yuinchuから他の事業者に運営が変わっても、“今まで通り変わらず運営できる状態”を作ったほうがいいということですね。この辺りの共通認識があったのも、やり遂げられた一因かもしれないですね。

 

金谷さん:そうですね!
エリアを継続して育てる仕組みづくりという本質的なもののためにも、建築計画には、カフェの運営のことだけでなく、レンタルスタジオとして運用した場合の動線も設計に取り入れましたし、目線を合わせることができていたのは本当にありがたかったですね!

 

築50年の共同住宅から、「“まち”に開かれた共用空間」として生まれたカフェ『HALO』。
人と人、人と“まち”をゆるやかにつなぐこの場所は、かつての賑わいを思い出させながら、これからの時間を育んでいくための、小さな起点となりそうですね。

さて、次回Vol.2では、『HALO』のデザインがどのように生まれたのか、設計する上での考え方やこのプロジェクトを通して2人が感じた場づくりの在り方について、深く見つめていきます。

 

– Mo:take VOICE –

– Information –
店舗名 :HALO(ハロー)
場 所 :東京都目黒区中目黒5丁目7−33
営業時間:9:00〜16:00 ※不定休

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HYPHEN TOKYO

ライター / Mo:take MAGAZINE 編集部

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