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Food Experience Story
2026.09.30. | 

【Vol.2】「食に勝るコミュニケーションのツールはない」|SHIBUYA QWS 米山孝生

SHIBUYA QWSでコミュニティマネージャーを務める米山孝生さん。

Vol.1では、長野に生まれ、群馬で育った少年時代から、東急へ入社し、鉄道、ゴルフ場、商業施設など、さまざまな仕事を経験してきた道のりを伺いました。

その中で、今の仕事の仕方につながっている経験として米山さんが挙げたのが、大阪での営業経験でした。

関東では、ある意味「東急」の名刺で商売ができた。でも関西では、それだけでは相手の懐に入れない。そこで米山さんは、一対一でどう信用してもらうかを考え、仕事以外の時間も含めながら、一人ひとりとの関係をつくっていきました。

そんな中で、大きな役割を果たしていたのが「食」だったといいます。

今回は、子どもの頃に親しんだ味の記憶から、大阪で人との距離を縮めていった食卓、そして現在、地域の生産者や食に関わる人たちと接する中で大切にしていることまで。

米山さんが語った「食に勝るコミュニケーションのツールはない」という言葉を手がかりに、米山さんにとっての「食べること」と「人とつながること」の関係を伺います。

食は「腹を満たすもの」だった

編集部:そもそも米山さんは、昔から食に興味があったんですか?

 

米山さん:どうだったかな。子どもの頃から食に特別な興味があった、という感じではなかったと思います。うちはそんなに贅沢ができる家庭でもなかったですし、ずっと野球をやっていたので、食べることといえば、まずは「腹を満たす」みたいな感覚でしたね。

 

編集部:野球をやっていたら、まずはお腹いっぱい食べることだったんですね(笑)。

 

米山さん:そうですね(笑)。まずは量、という感じでしたね。

 

編集部:そんな中でも、今でも覚えている家庭の味はありますか?

 

米山さん:ありますよ。母親がよく中華丼を作ってくれたんです。いろいろな具材を入れて、最後に片栗粉でとろみをつけるやつ。あれはよく覚えていますね。

あとは、親が長野出身なので五平餅を作ってくれたり。僕自身は群馬の昭和村で育ったんですけど、あの辺りはこんにゃく畑も多くて、母親がこんにゃくまで手づくりしてくれていました。

 

編集部:こんにゃくって、家で作るものなんですね!

 

米山さん:作っていましたね。母親が作ったこんにゃくを食べていたから、あとで市販のものを食べると「全然違うな」と思いました。手づくりのものはもっとしっかりしていて、煮た時の味の入り方も違うんですよ。

 

運動会のお弁当に、当たり前のように松茸ご飯

お母さんの手づくりこんにゃくのように、当時はごく当たり前に食べていたものも、今振り返ると、その土地ならではの食だったといいます。

 

編集部:ほかにも、今振り返ると「土地ならではだったな」と思う食べ物はありますか?

 

米山さん:あと、松茸ですね。

 

編集部:松茸ですか?

 

米山さん:当時は、あんなに高級なものだって知らなかったんですよ。山へ行けば採れたから、カゴいっぱいに持って帰ってくるような感覚だった。

 

編集部:カゴいっぱいですか。今の感覚だと、ちょっと想像できないですね(笑)。

 

米山さん:そうなんですよ。小学校の運動会のお弁当も、「栗ご飯と松茸ご飯、どっちがいい?」みたいな(笑)。

 

編集部:運動会のお弁当に、松茸ご飯が普通に選択肢としてあったんですね。

 

米山さん:そうですね。だから子どもの頃は、それが特別なものだという感覚がなかったんだと思います。

 

編集部:今聞くと、とんでもなく贅沢ですね(笑)。

 

米山さん:でしょ。でも当時は、それがいくらするのかなんて知らない。大人になって値段を見て、「何これ、ゼロがいくつ付いているんだ」って(笑)。

 

編集部:当時は、それが特別なものだとは思っていなかったんですね。

 

米山さん:そうですね。当時は「贅沢なものを食べている」なんて感覚は全然なかったですよ。山へ行けば採れるものだったし、松茸ご飯も普通に食べていましたから。今になって考えると、ずいぶん贅沢な話ですけどね(笑)。

子どもの頃は「食に特別な興味があったわけではない」と話していた米山さん。

けれど、こうして記憶を辿っていくと、お母さんの中華丼や五平餅、手づくりこんにゃく、そして山で採れた松茸と、家族や育った土地と結びついた味がいくつも残っていました。

では、そんな米山さんにとって、食が「人とつながるもの」になっていったのは、いつ頃からだったのでしょうか。

 

相手の「ホーム」に入ると、会話が変わる

編集部:ではここから大阪時代のお話しも伺えればと思いますが、大阪では食事の時間をどんなふうに使っていたんですか?

 

米山さん:大阪ではこちらから「この店に行きましょう」と言うより、相手に連れて行ってもらうことのほうが多かったですね、そうして自然に相手のホームに入っていくことができて、関係も築きやすいんです。「美味しい店、紹介してくださいよ」って言うと、相手も「じゃあ今日はあそこ行こうか!」ってなるじゃないですか。

自分の知っている店を紹介する時って、ちょっと自慢したくなるでしょ(笑)。

 

編集部:確かに。「ここ知ってるんだぞ」って(笑)。

 

米山さん:そうそう(笑)。今でも覚えているのが、大阪のお寿司屋さんに連れていってもらった時のことです。ビールのつまみに、何かを揚げたものが出てきたんですよ。

「これ何ですか?」って聞いたら、「当ててみ!」って言われたんです。

食べたらめちゃくちゃ美味しい。でも何か分からない。「教えてくださいよ」って言ったら…「鯛の鱗や!」って言うんです。

 

編集部:鯛の鱗!?

 

米山さん:そうなんですよ!「この店しか出してないねん」みたいなことを言われて、「すごいお店知ってますね!」って返すと、相手もちょっと誇らしそうな顔になるわけですよ(笑)。

 

編集部:そういう食事の時間では、どんな話をすることが多かったんですか?

 

米山さん:仕事の場だけでは出てこない話をすることが多かったですね、相手が好きなものを一緒に食べながら話していると、やっぱり普段の仕事を軸にしたコミュニケーションではでてこない会話になりますね。

 

編集部:食事の場だからこそ見えてくる、その人らしさみたいなものもあるんですか?

 

米山さん:そうですね。食事って、何が好きなのかとか、普段どんなことを考えているのかとか、そういう話が自然と出てくるので、相手のことを知るという意味でも、食ってすごく強いんですよね。そういう経験をしていると、食に勝るコミュニケーションのツールって、ないんじゃないかなと思います。

 

カレーの匂いひとつで、知らない人とも話せる

編集部:大阪で「食はコミュニケーションのツールになる」と感じたように、今のQWSでもそう感じることはありますか?

 

米山さん:ありますね。例えば、ここで誰かが家からカレーを持ってきて食べているとするじゃないですか

あれ、匂いがした瞬間に、こっちまで完全にカレーを食べたくなるでしょ(笑)。

 

編集部:なりますね(笑)。

 

米山さん:そうすると、全然知らない人でも「それ、カレーですか?」「美味しそうですね」って、自然に声をかけられるんですよ。

 

編集部:食べ物があると、知らない人にも声をかけやすくなるんですね。

 

米山さん:そうなんですよ。「それ何ですか?」っていう一言から入れるじゃないですか。そこから「家で作ったんですか?」とか、「どんなカレーが好きなんですか?」とか、少しずつ話が広がっていく。

 

編集部:仕事の相談みたいな目的がなくても、食があるだけで会話が始まる。

 

米山さん:そうですね。だから別に、高級な料理じゃなくてもいいんですよ。誰かのお弁当からカレーの匂いがする。それだけでも「美味しそうですね」って声をかけるキッカケになるし、そこから人と人が話し始めることがある。

食って、そういうところが面白いんだと思います。

 

人に勧めるなら、まず自分が美味しいと思えるか

食が人と話し始めるキッカケになる一方で、米山さんは、自分から誰かに食やお店を勧める時にも大切にしていることがあるといいます。

 

編集部:誰かにお店や食べ物を勧める時、米山さんは何を大事にしているんですか?

 

米山さん:一番は、自分が美味しいと思うかどうかですね。商業施設で飲食店に関わっていた時もそうでしたけど、自分が美味しいと思っていないものを、人に「美味しいから食べてみて」とは言えないじゃないですか。

有名だからとか、みんなが知っているからということではなくて、自分が本当に「これを食べてほしい」と思えるかどうか。知る人ぞ知るような小さなお店でも、「ここのこのメニューを食べてほしい」というものがあったら、人に教えたくなるんですよ。

 

編集部:そういうお店を人に紹介する時って、どんなことを考えているんですか?

 

米山さん:やっぱり、「この美味しさを知ってほしい」っていうのはありますよね。それと、そのお店には続いてほしい。結局、店がなくなったら自分も食べられなくなるから(笑)。

 

編集部:なるほど、それはすごく分かりやすいです(笑)。

 

米山さん:飲食店って、後継者がいなかったり、店主が高齢になって続けられなくなったりして、なくなっていくところもあるじゃないですか。

せっかく美味しいものがあっても、知られる機会がなければ、そのままなくなってしまうかもしれない。だったら人に紹介して、そのお店を知ってくれる人が増えて、お店が続いてくれたら、自分もまた食べられる。結局、自分もまた食べたいし、お店にも続いてほしい。人に紹介するのは、そんな感じですね(笑)。

 

「美味しい」で終わらせず、次の可能性へつなぐ

編集部:お店だけではなく、地域の食材や生産者の方と関わる中でも、誰かに紹介したり、つないだりすることはあるんですか?

 

米山さん:ありますね。地方には、まだ十分に生かされていない食材や、その先の可能性がたくさんあると思うんですよ。農家さんが作ったものでも、規格に合わなければ市場に出せないものがある。例えば曲がったキュウリだって、曲がっているから味が悪いわけじゃないですよね。

 

編集部:そういう食材に出会った時は、どうするんですか?

 

米山さん:まず、「この食材から何ができるだろう」と考えてくれそうな人がいたら、つないでみます。食材だからといって、料理して食べることだけがゴールじゃないと思うんですよ。違う人が見たら、「こんな使い方ができるんじゃないか」と、自分たちでは思いつかなかったアイデアが出てくるかもしれない。

だから、食材そのものを紹介して終わりではなくて、違う人の視点が入ることで、その先の可能性が広がったら面白いと思うんです。

 

編集部:最初から「こう使ってほしい」と決めてつなぐわけではないんですね。

 

米山さん:そうですね。むしろ、自分では答えを持っていないからこそ、違う人に見てもらう意味があるんだと思います。売れなければ、作らなくなってしまうものもある。続けられなければ、その食材や、それを作る技術自体がなくなってしまうこともありますよね。

だから単に「こんないいものがあります」とPRするだけじゃなくて、違う人とつながることで、新しい使い方や届け方が生まれたら面白いと思うんです。

 

編集部:米山さんが「食」は面白いと感じるのは、ほかにどんなところですか?

 

米山さん:「食」って、いろいろな形に変えられますからね。そこが面白いんだと思います。一人で食べるのか、家族で食べるのか、友人と食べるのか、仕事仲間と食べるのか。それだけでも、食事の意味ってずいぶん変わると思うんですよ。

朝なのか、昼なのか、夜なのか。ラーメンなのか、居酒屋なのか、高級なフレンチなのか。誰と、どんな時に食べるかによって、いくらでも形が変わるじゃないですか。そう考えると、食の可能性って、ある意味では無限大なのかもしれませんね。

 

 

子どもの頃は、まず「腹を満たすもの」だった食。

けれど記憶を辿っていくと、お母さんの中華丼や五平餅、手づくりこんにゃく、そして山で採れた松茸と、家族や育った土地につながる味がいくつも残っていました。

大阪では、相手の好きな店へ足を運び、同じものを食べながら話すことで、仕事の場だけでは聞けなかった話に触れることもありました。

今のQWSでは、お弁当から漂うカレーの匂いひとつが、知らない人に「それ、美味しそうですね」と声をかける入口になることもあります。

そして、自分が本当に美味しいと思ったものは誰かにも知ってほしい。地域の食材に出会えば、「これを使って何ができるだろう」と考えてくれそうな人につないでみる。

美味しいものを食べることだけで終わらず、そこから人が出会い、新しい何かが始まることもある。

「食に勝るコミュニケーションのツールって、ないんじゃないかな」。

米山さんがそう話す背景には、特別な食事だけではなく、これまで人と向き合ってきた、さまざまな食の時間がありました。

次回は、そんな米山さんが55歳で飛び込んだSHIBUYA QWSについて、さらにお話を伺います。

コロナ禍で人がほとんどいなかった頃から、現在まで。米山さんはそこで、どのように人と人をつないできたのでしょうか。

そして、「どんな人にQWSへ来てほしいですか?」という問いから見えてきた、米山さんが考えるQWSという場所について伺います。

→Vol.3はこちら

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米山 孝生 profile

SHIBUYA QWS コミュニティマネージャー。東京急行電鉄株式会社(現・東急株式会社)入社後、鉄道事業、リゾート事業、リテール事業などを経験。2020年10月より渋谷スクランブルスクエア株式会社へ出向し、SHIBUYA QWSの運営に携わる。現在は企業、自治体、大学、スタートアップ、クリエイターなど、多様な人や組織をつなぎながら、新たな共創が生まれる場づくりに取り組んでいる。

– Information –
SHIBUYA QWS

ライター / Mo:take MAGAZINE 編集部

モッテイクマガジンでは、イベントのレポートや新しい食のたのしみ方のアイデアを発信します。そして、生産者、料理人、生活者の想いをていねいにつないでいきます。 みんなとともに考えながら、さまざまな場所へ。あらゆる食の体験と可能性をきりひらいていきます。

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