仕事と暮らしのグッドループがまわるような職業を作りたい
阿部さん:私がTUMMYで行ってきた、「畑の魅力を伝える」という農家さんのブランディングワークは、自分が関わったことで、毎日食べる野菜がより美味しく感じられる幸せな仕事です。家族で一緒に味わえたら、さらに幸せ。自分の感性を生かしながら、農家さんの役にも立ち、自分のやりがいにもなっています。今、この仕事で、お金を稼いで生きていけるモデルが作れると確信していて、これを職業として確立させ、自分と同じように働ける人を増やしたいと思っています。今はあらゆるものが東京に集中していますが、この仕事なら、東京に縛られなくても、地方でもきちんとお金を稼ぎながら家族との暮らしを大事にすることができると思うんです。
こう考えるのには、阿部さんの頭に「食への課題意識」に加え、「女性の働きにくさ」というテーマもあるからだそうです。
阿部さん:女性が、と表現するのが正しいのかわかりませんが、家族と充実して生きていきたいと思った時に、仕事とトレードオフになるケースが多く、おかしいなと思うんです。私もいつか自分の生まれ育った山口県に帰りたいけれど、田舎には魅力的な仕事がなかなかない。同じように、田舎に帰りたいけど仕事がないことに悩んでる女性が周りにもいるんです。だから、住みたい場所に家族と一緒に住み、顔の見える相手の役に立つことで稼ぐことができ、暮らしと仕事のグッドループがまわるような職業を作りたいと思っています。それが、TUMMYという組織で動くのではなく、それぞれが自走し、自分の住みたい場所で、家族ともバランスを取りながら、気持ちよく自由に働いているというのが理想ですね。だから、ゆくゆくは、地域で暮らしやすくするための事業もやっていきたいです。
顔が見える関係性で、この農家さんに対して、こんな貢献をして、お金が稼げたという感覚を得ながら生きる人が増えたらいいと思うんです。自分が何を食べて、どう幸せに生きるかということに対して、考えずに生きている人が多いような気がするので。
地域のおいしいものは、地域に閉じ込めてしまおう
そもそも食の仕事に進むきっかけとなった、中高生の頃に出会った食べ物の謎は、解明されたのでしょうか。
阿部さん:極端なことを言うと、地域単位で鎖国をするのがいいと思うんです。今は地域のいろんなものを中央集権的に東京などの大都市に集めて、再分配するという仕組みになっています。それによって便利にはなっているけど、その過程で廃棄が起きるし、鮮度も落ちているんです。そして、地域の美味しいものが地元に落ちていかない仕組みにもなっていて、もったいない。でも、ミシュランがあるように、美味しい食のために人は動くので、地域のおいしいものは地域に閉じ込めてしまえば、地域に人が来てくれる流れをつくっていけます。これは地域の成長戦略としてもいいと思うんです。つまり、自給権を取り戻すというのが解なのかなと思っています。
食材に愛着をもって向き合うことが文化になれば、それでいい
yasaiccoのサービスは、どう展開していくのでしょうか。
阿部さん:yasaiccoは、あまりにもひどい食生活をしていたような自分や同世代の人に気づきを与えたい思いで、ファーストパンチとして始めたんですが、最終的には、みんな自分が気持ちのいい田舎で暮らすのがいいと思っているんです。東京に偏ってる人たちがもうちょっと田舎に行き、その地域で好きな農家さんを見つけ、そこで食べていくという形が理想です。yasaiccoはもちろん事業として軌道に乗せたいと思いますが、食材に愛着をもって向き合うことが文化になっていれば、やらなくてもいいかなとも思っています。yasaiccoの仕組みを売って、農家さんが自分で野菜を届けられるようにしてもいいなと思いますし、自分がやり続けなければというこだわりはないんです。
「自分の分身を作りたいんです(笑)」とふざけるように笑っていた阿部さんですが、「野菜ってかわいい!」と無邪気さ100%で生きる阿部さんのような人が増えたら、日本の農業のイメージももっと明るく、楽しいものに変わっていくだろう……。そう思わずにはいられないインタビューでした。
– Information –
yasaicco
TUMMY株式会社