2019.08.16. | 

[Vol.2] 「美味しいもの」を「選ぶ」世の中に。生産者の想いの温度感を発信するイベントを開催

中目黒に八百屋「HACARI」をオープンしたyolozの片山由隆さんと、HACARIに関わる生産者やワイナリーが集合したイベント「Food Meet Up!!」。前回に続き、生産者の方々の想いについて、そしてイベントでフードコーディネートを担当したMo:takeヘッドシェフの坂本英文から料理の秘話について話を聞きました。

八百屋で売れる健康な卵を作りたい

卵娘庵(らんこあん)の代表取締役、藤井美佐(ふじい・みさ)さんは2015年に「ひよこさんちの直売所」という個人商店を立ち上げました。自然あふれる環境のなか、平飼いと呼ばれる方法で鶏を放してのびのびと育て、そこで生まれた卵の販売や、玉子を使ったとびきり美味しい加工品を製造販売しています。養鶏から加工まで、一気通貫で行なっている卵屋さんです。

 

藤井さん:卵娘庵は設立して6年目になります。もともと夫の両親が卵屋さんを営んでいて、私は営業を手伝ったりしていました。でも飼料が高騰したり、イノシシの被害に遭ったり、設備投資が必要になったり、いろいろ重なって農場を辞めなければという状況になってしまったんです。それで、一度仕切り直した方がいいという声が上がって、私が代表を務めることになりました。

 

農業も経営もわからないままだったという藤井さん、それでも走り出すことを決めたのは、卵娘庵に可能性を感じていたからでした。

 

藤井さん:「卵が美味しい」というお客様からの声が大きかったですね。お客様やバイヤーさんが卵娘庵の卵を喜んでくれたし、「売れているよ。美味しいよ」って言ってくれる人がたくさんいました。これはやめられないなと思ったんです。

 

お話を聞いていて、卵娘庵の卵のことがもっと知りたくなりました。一体、どんな卵なのでしょうか。

 

藤井さん:一般的に、鶏はケージで飼われていることが多いのですが、卵娘庵では「平地平飼い」を採用して、敷地で放し飼いをしています。鶏たちがしっかり走り回るので、卵のカロリーも低くなるという特徴があります。雑味がなく、臭みもありません。「平飼い」にするだけで、ケージで飼っている鶏と同じエサにしていても、卵の味は変わってくるんです。

私たちは、常に「鶏ファースト」ということを伝えているのですが、鶏が健康に育たないと、美味しい卵はできないんじゃないかと思っています。日本では今、卵を分類すると加工品扱いになってしまいますが、あくまで鶏も農産物だと思ってほしいです。私は八百屋で売れる卵を目指しています。

卵アレルギーの方が多いのも、鶏のストレスが関係あるのではないかなと思っています。鶏に負担をかけず、しっかりと運動をさせて、免疫力のついた健康体の鶏を育てたいと思っています。

 

今回のイベントでは、卵娘庵のことを知ってもらうきっかけになればと藤井さんは話します。

 

藤井さん:卵娘庵への私たちの想いを発信することで、「こういうところの卵を食べたい」と思ってもらえたらうれしいですね。だから今回も、岡山から、大事なイベントだと思って張り切ってやって来ました!

 

 

ぶどうに産地から来てもらい、東京で美味しいワインを造る

2016年、東京の下町、門前仲町にできた小さなワイナリー、深川ワイナリー東京。上野浩輔(うえの・こうすけ)さんはその醸造責任者です。深川ワイナリー東京では、人が生産地まで足を運ぶのではなく、“ぶどうに来てもらう”という考え方で、東京産の美味しいワインを造っています。ワインの醸造を身近に見て、知って、体験してもらうようにと醸造風景を見ながらワインが飲める試飲所のほか、工場見学などさまざまなアイデアも実践しています。

そんな深川ワイナリー東京が当初、門前仲町での醸造を決めたのは、こんな理由からでした。

 

上野さん:代表から「ぶどうさえあればワイナリーができる」と言われていたんです。まずワイナリーの場所として江東区を選んだのですが、江東区はガラスと木材の産業の町だったんですね。それで、「そういうところでワイン造りをしたら面白そうだね」という話になって。今では、江東区では僕たち以外にもワイナリー1軒、そしてビール屋さんが4軒あるんですよ。

 

「鮮度を落とさず東京にぶどうを持ってくることができるんですよ」と話す上野さん。それでも、実現するのを心待ちにしていた時期がしばらく続いていたそうです。

 

上野さん:私自身、ワイン醸造を20年ほど続けているのですが、まだ始めた頃は、「ぶどうの産地でないとワイナリーは難しい」と言われていました。その理由は、流通の面で日数がかかるなどいくつか課題があったからなんです。

今は、収穫した翌日、翌々日にはぶどうが東京に届くんですよ。しかもすごいのが温度調整で、夏は9月くらいまで暑い日が続くと思いますが、それでもぶどうを運ぶトラックが温度を絶妙に調整してくれるんです。流通の進化ぶりには感心しています。すごいなあって。

 

「東京にぶどうを持って来られる。そのことに気づいたらもうすぐにでもやりたくなったんですね」と上野さん。醸造家としての情熱をのぞかせます。

 

上野さん:地方でワインを造っていた時は、いかにぶどう品種の個性を出すか、という部分に力を入れていいました。街中でワイナリーをはじめると、ぶどうの個性にこだわるだけでなく、食との距離が近く感じられるようになりました。シェフ、料理、ホテルなど消費される場所が近い。そこに魅力を感じています。

東京でも下町でワインを造ることを通して、ぶどうの産地へワイナリーを観に行くのではなくて、「田舎からぶどうに来てもらう」ということを伝えていきたいですね。今回のイベントは、東京という場所柄、美味しいものも人もたくさん集まっていて、調和が上手に取れているなと思っています。僕たちもいろいろな地域からぶどうを持ってきて、それを一つのワインにしたいと思いました。

 

そんな上野さんですが、今後は地産地消の商品開発も手掛けていきたいそうです。

 

上野さん:門前仲町の赤札堂というスーパーの屋上でぶどうの苗を100本植えて、去年からぶどう作りを始めています。ゆくゆくはで赤札堂を利用するお客さんや地域の方々に集まっていただいて、ワークショップを開きたいですね。収穫に結びつけて、そのぶどうで仕込んだワインを造りたいです。

その他に、今、江東区の他の商店街の工務店さんなどからも、ビルの屋上でぶどうを作りたいという声をいただいています。みんなが働いているビルの上でぶどうを作って、それを地域の特産品として売りたい。新しい街づくりとして考えていきたいです。

 

 

こだわりが込められた食材の美味しさを楽しんでもらうために

今回のイベント「Food Meet Up!!」の料理をコーディネートしたのは、Mo:takeヘッドシェフの坂本英文です。生産者の想いを発信するというのが今回のイベントの趣旨ですが、その集合体ともいえる料理はどんなふうに生まれたのでしょうか。まずは主催した片山さんから伺いました。

 

片山さん:坂本さんは、食材に対して「美味しい」と思った時に、見栄え重視というよりは、生産者のストーリーまで料理に展開させて表現してくれる人。だから、すべておまかせしました。今回のイベントのコンテンツは料理と生産者です。食べることを楽しみながら生産者と消費者の方がコミュニケーションを取る、直接話すということを一番してほしかったんです。

それに普段の食べ方よりも、もっと美味しく食べられる方法があるということを知ってほしかった。スーパーと同価格で美味しいもの食べられるなら、そっちの方がいいですよ、といったことを伝えたかったんです。

 

この片山さんの想いを受けて、坂本はいつものケータリング料理とは違う手法を使ったそうです。

 

坂本:そんなに調理という調理はしませんでした。素材を食べてもらうプラス、より美味しく食べてもらうために少し調理をしたくらいです。今回はうずまきビーツ、黄色いビーツなど、普段、あまり買えないような珍しい野菜もありました。ビーツって火を通して食べるのが一般的なんですけど、今回、みんなすごく新鮮だった。だから、泥臭いところも活かす感じで、新鮮なまま食べてもらおうと、火を通さず美味しく食べるという方法を選びました。

豆腐は淡白で調理もしやすいから、いろいろなものに変化させられるけれど、今回は豆腐の美味しさを知ってもらうべく、そのまま食べてもらいたいと思いました。醤油麹、梅かつお、生姜醤油、塩を準備して、「自分でこういう風に食べたい」ということを参加者の方にゆだねる形で、体験型で食べてもらいたいと思いました。

 

さまざまな食材が並んだ今回のイベント。コーディネートするなかで坂本はそれぞれのこだわりに驚かされたそうです。

 

坂本:まずは嘉平豆腐店さんのお豆腐ですね。スーパーで買うお豆腐って大豆の味って感じられないと思っていたし、それが当たり前だと思っていました。でも、今回のお豆腐は「大豆」そのもの。このままでも十分美味しいので調理はしたくないと思いました。そして卵娘庵さんの卵は濃い。今回の出し巻き卵はお醤油を一切使わず、塩と出汁だけで作りました。

料理って、素材をいかに美味しく食べてもらうか?の手助けをすることだと思うんです。

料理の世界では、料理人と調理人の違いがあるのですが、調理人は技術をもった人のことを言います。料理人というのは、こういう趣旨の場にどういう料理があればいいかというのをプロデュースする役割をもった人。手をたくさん加える時もあれば、引き算をして手をあまり加えないときもあるんですよ。

このイベントを通して、産直野菜の鮮度のよさを体感してほしかった。それを知ってもらうためには調理の手間を減らすことが今回は重要でした。

 

普段生活しているとなかなか出会えないような産直の野菜や、生産者の方々の想いにふれる。片山さんたちの存在を通して、こうした場はこれからも少しずつ増えていくのだろうと感じたイベントでした。そして、誰もが、自分が食べる食材や生産者さんたちの想いに興味を持って、美味しい食材を選ぶ日が当たり前になることを楽しみにしています。

 

-Information-

 

株式会社yoloz

東京都港区虎ノ門4-3-1 城山トラストタワー 21階 WeWork 城山トラスト

https://www.yoloz.co.jp/

 

HACARI

東京都目黒区中目黒4-4-10

 

卵娘庵

岡山市南区箕島 2967-1

http://hiyokosan.net/foods.html

 

深川ワイナリー

東京都江東区古石場1-4-10高畠ビル1F

http://www.fukagawine.tokyo/

https://www.instagram.com/fukagawawinery/

 

嘉平(かへい)豆腐店

新潟県燕市吉田上町3-5

https://www.kaheitofu.com/

ライター / たかなし まき

愛媛県出身。業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。人の話を聴いて、文章にする仕事のおもしろみ、責任を感じながら活動中。散歩から旅、仕事、料理までいろいろな世界で新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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