「おいしい!」と言われて勘違い! すべてはそこから始まった
学校の調理実習以外は料理をした記憶がなかったという蓮池さん。学生時代に行った山梨県のキャンプ場で、ひょんなきっかけから料理の楽しさに目覚めたようです。
蓮池さん:子どもと一緒に活動するキャンプイベントにリーダーとして行ったのに、初日に捻挫をしてしまって。動けないなら、ご飯づくりを任せたいとお願いされて、料理担当になったのです。キャンプ場にあった料理本を開いては、いろいろなものを作ってみました。そこでみんなが「おいしい!」と言って食べてくれたことが嬉しくて。
短時間で人を笑顔にできる料理の面白さに目覚めた蓮池さんは、大学卒業後すぐにビストロに勤務し、本格的に食の道に進みます。経験が少ないまま食の世界に入っていくことに不安はなかったのでしょうか。
蓮池さん:「おいしい」と言われたことで、勘違いしちゃったんですよ(笑)。今考えると笑っちゃうんですが、でも、勘違いって重要なのかもしれませんね。自分の作った料理で喜んでもらえたという、キャンプ場でのあの体験が、自分の原点になっています。
ビストロで2年間働き、料理教室の講師を務めた後、今度は栃木県にある自然体験施設で料理を担当することになります。
おいしいものの背景には、美しい自然があることに気づいた
栃木県にある自然体験施設で働き始めた蓮池さんは、レストランのメニュー開発、キャンプ料理のワークショップなど、様々な仕事を任されるようになりました。
蓮池さん:その施設では、アウトドアを楽しみながら美味しく食べられる料理を考えたり、作ったりしました。そして、昆虫採集や山菜採取などをする森遊びガイドの仕事も任されたんです。はじめは料理以外の仕事に抵抗もありましたが、その経験がきっかけで、生態系や環境に興味を持つようになりました。環境を見ていると、食べ物がおいしくなる理由が見えてくるんです。例えば、水をたくさん蓄えることができるブナが生い茂る森があり、そこに雨や雪がたくさん降るから、山菜がおいしくなるんです。こんな風に、自然の循環の中でおいしいものが育つことを肌で感じられました。
とても楽しく働いていた蓮池さんですが、アウトドアの仕事なので、体力的にはとてもハードだったそうです。10年後も続けられる仕事をしたいと考え、ケータリングや雑誌へのレシピ提供など、少しずつ仕事の幅を広げていったそうです。そして、フードデザイナーとして独立することを決めたそうです。
興味の赴くままに……ライフワークも仕事に
独立後はフードデザイナーとして多方面で活躍しながら、「おいしいものの背景には美しい自然がある」ことへの興味の赴くままに、あらゆる地域の海へ山へと出かけることがライフワークに。
蓮池さん:いろいろな地域へ行きましたが、美味しい山菜が採れる長野県栄村には度々訪れています。山菜の生態は本当に面白くて、世界の山菜ハンターになりたいくらい(笑)。自然環境を生かして作られる保存食にも惹かれています。葉唐辛子、柚子胡椒、梅干しなどをずっと作り続けています。
そのライフワークがきっかけとなり、近年では食のスペシャリストとのチームで行う仕事も増えてきました。例えば、蓮池さんも含め3人で取り組む∴H3 Food Designの仕事もそのひとつです。
蓮池さん:あらゆる地域の食材や土地、脈々とうけつがれてきた知恵に素晴らしいポテンシャルはあるものの、地域の人が気がついていなかったり、活かしきれていなかったりすることが多いですよね。私たちは買い手よし、売り手よし、世間よし&環境よしの「3方よし」の考え方を軸に、食をテーマにしたソーシャルデザインをしながら、課題を解決していく仕事をしています。商品開発、食をテーマにしたイベントなど、様々なご相談をいただいてます。クライアントの表面ではわかりきれない真の問題を見出し、一緒に解決することとも言えます。
※∴H3 Food Designの名前は「3方よし」に由来。
独立して働きながらも、ライフワークをきっかけにプロジェクトチームで取り組む仕事につなげていくなど、仕事の幅をどんどん広げてきた蓮池さん。次回は、今後取り組みたいこと、そして、Mo:takeやMo:takeMAGAZINEとのコラボーレション構想についても伺います。(つづく)
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