長居も大歓迎!“自称”藤野のアンテナショップ『カドナリ』
編集部が『カドナリ』を訪れたのは5月末。一歩足を踏み入れると、個性豊かで温かみを感じるインテリア、そして木材がふんだんに使われた室内にぬくもりを感じます。オープンしたばかりなのに、ずっと町に溶け込んできたような、そんな雰囲気が漂っている気がしました。そう感じるのは、「藤野」へのこだわりがお店の至るところに感じられるからかもしれません。
−−まずは店長の髙橋さんと、髙橋さんに伴走して支えてきた井上さんにお店のことを伺えればと思います。ここは、本当に素敵なお店ですね!メニューもコーヒーやお茶、アルコール類からランチプレート、子ども向けのカレーもあって、世代を問わず楽しめそうですね!ここは「藤野を感じられること」にすごくこだわっているんですよね?
髙橋さん:はい!ここは「“自称”藤野のアンテナショップ」を掲げています(笑)!なので、ひとつひとつのメニューに、藤野を感じてもらえるようにしています。
たとえば3種類あるドリップコーヒーの1つには、カカオ豆やコーヒー豆を輸入販売している「藤野良品店」で炭火焙煎されたケニアのコーヒーを使用しています。
藤野良品店のお二人に何度も相談をしながら、美味しく、そして皆様にご納得いただけるように準備してきました。また、飲み物を淹れるマグカップは、地元の陶芸家・山田隆太郎さんの作品を使わせてもらっています。
髙橋さん:ランチプレートも、藤野にある3つの飲食店とコラボしたプレートを提供しています。お惣菜屋さんの「司麻Deliプレート」、多国籍料理店『里+(さとぷらす)』さんのカドナリオリジナルカレー「“里+”プレート」、創作中華料理店のエビチリが味わえる「“大和家”プレート」どれも地元の新鮮な食材をふんだんに使ったメニューで、本当に美味しいんですよ!!
−−身体も心も元気になれそうなメニューが並んでいますね!私も、「“里+”プレート」をいただきました。シャキシャキとした新鮮な野菜に、ぴりっと効いたスパイスが少しエキゾチックで食欲をそそりますよね!HYPHEN TOKYOとして井上さんも、地域性は意識されましたか?
井上:僕たちはもともと“コーヒースタンドを起点とした場づくり”が得意領域です。でもそうした場づくりをする上で「そのお店と地域との関係性そのものをどうデザインしていくか」ということもやはり意識していますね。
もともと人とのつながりを大事にしている藤野という地域らしく、この『カドナリ』は地域との関係性をすごく体現していると思います!だからメニュー構成にも、その土地らしさやつながりが、すごく良いカタチで反映されたなと感じています。
−−なるほど!地域のつながりを体現しているというのがメニューからもうかがえますね!テーブルや椅子のデザインも個性があって素敵だなぁと思いますが、つながりやその土地らしさへのこだわりは、店内装飾にも活かされているのでしょうか?
髙橋さん:はい!井上さんと「メニューだけでなく、お店全体をこの地域の方と一緒に作り上げていきたいよね!」と話していました。そこで、テーブルとカウンターのハイチェアーは藤野で無垢板のテーブルや椅子を作っている『MORIMO』さんに、ステージ上のカラフルな椅子は藤野で長く無垢板のテーブルや座り心地を追求した椅子を作られている『BC工房』さんに『カドナリ』でぜひ使わせて頂きたいとお願いしました。
そうして柄選びからはじまり、当店オリジナルのテーブルと椅子を制作してもらいました。素材にもこだわっていて、『MORIMO』さんに作っていただいたテーブルは、ナラ枯れ材という地産の木材を使用しています。放置すると自然災害にもつながるといわれている、枯れてしまったナラの木を切って、素材として使っているんです。虫食いの穴があるんですけど、こういう自然に出来たものは、世界にひとつしかないデザインだと考えています。地元の木材にこだわっていて、壁やベンチは津久井産材という近隣の木材を使っています。
−−素敵ですね!なんだかとってもホッとするのは、地元の木材に囲まれているからでしょうか?椅子もすっごく座り心地がいいんですよね。
髙橋さん:いいですよね!椅子を作ってくれたのは、BC工房の鈴木さんです。鈴木さんはとにかく「座り心地が良い椅子が一番いい」という想いをずっと持って作られてきたそうです。その想いにすごく共感しました。まさに『カドナリ』に必要な椅子だと感じました!
−−本当に座り心地も良くて、自然に囲まれた店内も居心地がよいのでつい長居してしまいそう(笑)!
髙橋さん:僕は何よりもここで皆さんにゆっくりしてほしいと思ってるんです!だからこの椅子って、この空間にすごくマッチしていると心から思っています!すごく良い出会いだったなと!
20年勤めた会社を退職し、「不安」でもカフェ開業に踏み切った理由
−−これまでお店の魅力について伺ってきましたが、髙橋さんはそれまで、20年間、同じ会社に務める会社員だったんですよね?そんな髙橋さんが、なぜカフェをはじめたのでしょうか?
髙橋さん:そうですね。僕は普通の会社員で、藤野から池袋まで通勤していました。でもそんなある日、上場企業の代表を退任して、今は藤野で資本主義の枠にとらわれない暮らしのカタチを実現しようと『虫村(バグソン)』という村をつくっている中村真広さんから「カフェをやらない?」と誘われたんです。それがきっかけでこの街でカフェをやることになったんです。
−−なるほど!中村さんとはどういったご関係だったんですか?
髙橋さん:中村さんとはもともと、パパ友として付き合っていて、バンドも一緒に組んでいるという間柄でした。
普段から親しくしていましたが、このカフェのお話しが出るまでは、全く中村さんが何の仕事をしているか、素性も知りませんでした!きっと変な人なんだろうなと(笑)。
−−パパ友であり、バンドメンバーの中村さんからのお誘いだったんですね!しかも素性を知らなかったとなると、驚きますよね!ちなみにバンドも中村さんからのお誘いですか?
髙橋さん:いや、僕がバンドやろうぜって誘ったんです(笑)。
僕は昔からドラムをやってたので、藤野でも何かやりたいなって思ってたんですよね。それで、パパ友だった中村さんがギターをやっていると聞いたので、ちょっと誘ってみようかなって、声をかけました!初めてスタジオに入ったときはお互い久しぶりだったので、これ大丈夫かな?って思ったんですが、2回目からは、ふたりともめちゃくちゃ練習してきたんです!!
『これは俺もちゃんと練習しなきゃ』と思ったのと同時に、本当に楽しくて「これはいけるな!」と思いました!
僕の中では、中村さんがパパ友でもありながら、バンドで同じ時間を共有していく仲間のような存在になっていました。
−−素敵なお話しですね!そうして髙橋さんの当時の仕事の相談もするようになったんですか?
髙橋さん:いや、仕事の相談というわけではなかったんです。
でも、自分のやりたいことや会社の中で起こしたいことを、組織の中でどう実現するのかとか、理想と現実の乖離に対する心の矛盾というか。自分の中でモヤモヤしている感情を打ち明けるようにはなっていましたね。
そんな話をしているうちに、当時、中村さんも藤野の駅前でカフェを立ち上げるという計画がはじまっていたんです。そして「そんなに悩んでいるなら、もう思い切ってカフェやっちゃいます?」って誘われたんです(笑)!
−−え!?そんなライトな感じで!?その時、率直にどう思われました?
髙橋さん:まぁ冗談だろうと思ってました(笑)!
でも何カ月か経ってから中村さんが作っている虫村に行ったとき、中村さんから「真剣に考えてくださって、会社を辞めていただけるのであれば、本気で一緒にやっていきましょう!」って言われたんです。
その本気のアプローチを受けて、僕も胸が熱くなりました。そうして「わかりました!一緒にやりましょう!」ってお伝えして、カフェの店長への道のりがはじまりました。ただ、これまで普通の会社員だったので、飲食はもちろん全てにおいて全くの未経験からのスタートでした。今考えると、自分としても思い切ったすごい方向転換で、よく今日があるなぁと思います(笑)!
−−うわぁ、すごい勇気だなって思います!20年近く働いた会社をパッとやめて、未経験のカフェの業界に飛び込むって、怖くなかったですか?
髙橋さん:当然ですが、不安はありました。でも、自分の中ではずっとどこかに、今の会社で出世を目指してなにを成し遂げるのか、このまま60歳になって、家族と笑顔で豊かに過ごすための選択肢だったら、他にもあるんじゃないか?っていう気持ちもあったんですよね。
髙橋さん:お誘いを受けて、今ここで「やる」と言わなければ、きっと後悔すると直感的に思ったんです!僕がやらなかったら、きっとこのカフェは他の誰かによって誕生したと思いますし、もちろん素敵なお店になっていたと思います。ただ、そうなった時に「僕は楽しくここでコーヒーを飲めるのか?いや、無理だ!」そんな風に思ったんです。
中村さんはプロフェッショナルな方だし、知り合いもたくさんいて、その中で自分も成長できて、いろんな人とつながれるんじゃないか。カフェの運営という挑戦で、家族ともっと楽しい時間を過ごすために得られるものがあるんじゃないかと考えたんです。
そうして、本当に目まぐるしいスピードで2025年1月に退職、2025年4月に『カドナリ』をオープンするという環境にガラッと変わりました。
−−すごいスピードですね!もともと今回のお誘いがなくても、退職は考えていたのですか?
髙橋さん:いや、全然考えてなかったですね!次は管理職という感じで、社内でのキャリアのことを考えていました。でも挑戦に踏み切れたのは、本当に人に恵まれているというのが大きいです!手助けしてくれる方もいて、きっと頑張ればなんとかなるだろう!と思えたので不安ながらに思い切ってチャレンジすることができました。
−−人のつながりが背中を押してくれたんですね!でもこの挑戦は、ご家族にとってもすごく重要な決断になると思いますが…ご家族の方はこの決断をされた時どうでしたか??
髙橋さん:そうですね。カフェに挑戦してみたいということを妻にはじめて話そうとした時のことは忘れませんね。僕が「話があるんだけど…」と切り出したら、何かを察していたのか「嫌だ」と部屋に行ってしまって…。
でもそのあとはちゃんと話を聞いてくれて、今では裏方の業務から内装なんかも、いろいろ協力してくれています。妻はもちろん子どもたちには本当に感謝してます。
最近は一時的に家族の時間が減ってしまっているので、これからメリハリを付けて家族との時間も作っていければと思っています。
−−家族が応援してくれるのは嬉しいことですよね。こうしてカフェ開業への土台が整っていったんですね!
子どもの進学を機に、縁もゆかりもない藤野へ
−−冒頭のお話であったように『カドナリ』から藤野というエリアの魅力を感じますが、髙橋さんご自身は藤野の出身なんですか?
髙橋さん:これがですね、、、5年前くらいに教育移住で藤野に引っ越して来たので、もともとは縁もゆかりもないんです!
−−そうだったんですね!藤野はシュタイナー教育という教育方針に魅力を感じて、移住される方もいらっしゃると聞きました。髙橋さんも教育移住だったんですね!
髙橋さん:そうですね!シュタイナー教育って、競争よりも子どもの個性を大切にして、その子らしいペースで成長させてあげようという教育だと思っています。そういう考え方に僕たち夫婦がすごく共感して、藤野に移住することにしました。子どもが通う学校の看板には「自由への教育」と書いてあるのですが、それを僕自身は“自分の選択や歩みに責任を持つ、それが自由へつながっていく”と解釈しています。
大人の世界に当てはめると、自由の選択や歩みに責任をもつというのは、環境の変化へのリスクや周囲からの評価に影響するとか考えたり、自分の選択に責任を持っていないからこそ、簡単に不平不満も口にしてしまうんだと思うんです。
−−確かに大人になると難しい部分はありますよね。ただこうしてお話を聞いていると大人にこそ必要なことだと思いました。髙橋さんの挑戦もこの考えの影響が少しあったのでしょうか?
髙橋さん:ありましたね。ここの子どもたちは教育を通じて、自分の選択に責任を持つような努力をしています。そんな子どもたちの親である自分たちは、努力をしなくていいのか?親としてもっと頑張らないといけないのではないか?と思っていたんです。
また、以前住んでいた場所でも、子どもがシュタイナーの幼稚園に通っていました。そこがまた面白くて、保育料を親が自分で決めて支払うんですよ。なぜその金額なのか、大人自身が考えないといけない―そういう責任ある「自由」というものに影響を受けた気はしますね。
−−お子さんのための移住を通して、髙橋さん自身が「自由への教育」に刺激を受けて、新たなチャレンジにつながったんですね!
藤野でカフェをスタートさせることを決意した髙橋さん。
次回はさらに深ぼりして、その道程について伺っていきます。
髙橋さんの未経験ならではのエピソードは、新しい世界に挑戦したい人の励みになるのでは?次回Vol.2もお楽しみに・・!
– Information –
カフェ&イベントスペース『カドナリ』
所在地:〒252-0184 神奈川県相模原市緑区小渕1707 創和ビル 1F
営業時間:8:30〜20:00
アクセス:JR藤野駅を出てすぐ