2020.03.17. | 

[Vol.3] 都会で野菜を育てるだけではない。URBAN FARMERS CLUBが目指すもの

NPO法人アーバンファーマーズクラブ(UFC)のメンバーは活動を通し、自分さえよければいいという考えを少しずつ手放し、みんなのこと、社会のこと、未来のことを考えるようになっていくといいます。代表理事の小倉崇さんが考える、UFCの未来とはーー。

コーヒー豆のかすを有効活用
地域の資源を循環させていく

渋谷駅の南側エリアにある「渋谷リバーストリートファーム」で小倉さんに話を聞かせていただいたのは平日の午前中。端材を使いDIYで作ったというプランターのすぐ側で、渋谷ブリッジに入居する保育園の子どもたちが元気に駆け回っていました。

 

小倉さん:保育園の子どもたちにとって僕は、完全に野菜のおじさんになってますね(笑) 手入れをしていると子どもたちがワーって寄ってきて「今日は何をやってんのー?」と話しかけてくれるんです。

施設側からも「園でも何かやってみたい」と声をかけてもらい、昨年は実験的に園の室内で育ててみたのですが、今年は外にプランターを置いて一緒に育てましょうと話しています。

どの畑もそうなんですけど、作業をしていると本当にたくさんの人に話しかけられます。こういう活動は、地域の人たちの理解がないと難しい部分があるのですが、だんだんと地域の人に受け入れられている実感がありますし、マルシェを楽しみにしてくれる人たちも増えてきましたね。

 

渋谷や自由が丘エリアでコーヒー店を展開している「オニバスコーヒー」からは、「毎日出るコーヒー豆のかすを何かに利用したい」と相談を受け、コーヒーかすを主体にした堆肥を作ったといいます。

 

小倉さん:オーナーの坂尾篤史さんは、毎日出るコーヒー豆のカスをゴミとして廃棄することに問題意識を持っていました。堆肥が出来上がって見ると、コーヒーにはカリやリン酸が多いので、私たちがいつも使っている堆肥よりもタマネギが明らかによく育っています。

同じように、表参道に多い落ち葉も土づくりに利用できますし、家庭から出る生ゴミも堆肥にできるんですよね。東京で暮らしていると、東京には何も資源がないと思うかもしれないですが、実は身の回りから出るものって結構資源だったりするんですよね。そんな循環を作っていければいいなと思っています。

 

 

若い人たちにこそ知ってほしい
「土と種さえあれば、食べていける」

野菜づくりから始まり、身に着けるオーガニックコットン作り、そして循環する仕組み作りへと活動の幅も奥行きも深くなっているUFCですが、どうやったら若い人たちにももっと参加してもらえるかが、これから取り組んでいく一つの課題だといいます。

 

小倉さん:今メインで活動してくれている人たちは30〜40代の人がメインです。なので、ある程度仕事も確立していて、自分で働き方や時間などをマネージメントしている人が多いという印象です。でも、経済的にも時間的にも余裕がある人たちだけが活動に参画していても、ちょっとリアリティに欠けると感じています。

僕たちがやりたいことは、すべての都市生活者にとって、自分たちで食べたい野菜を自分たちで育てることがデフォルトになった社会にすることです。でも、20代の子たちは包丁を握ったことがない子も多いですし、そもそも食べることにも無自覚だったりします。そんな子たちに、どうやったら実感を持って僕たちの活動を伝えられるかな、と考えています。

一方で、仕事が辛いのに我慢して働いていたり、仕事が見つからず食べることにも困る20代もいたりするわけです。そういう人たちも「とりあえず土と種さえあれば、野菜を食べていくことはできる」ということ知れば、気持ち的にもちょっと楽になるだろうし、育てる過程を楽しんでいくと、社会の見え方が変わるんじゃないかなと思いますね。

 

UFCのWebサイトを開くと、「未来を、耕そう」というキャッチコピーが目に飛び込んできます。未来とは、誰もが自分が食べるものを自分で育てることができる社会のこと。その入り口は、一粒の種かもしれないし、小さな植木鉢一つかもしれない。でもそこには、大きな可能性が秘められているのです。

 

 

「渋谷ルッコラ」に見る
都市農業の可能性

「渋谷リバーストリートファーム」でメインに育てられているルッコラ。ルッコラは花を咲かせると小さな小さな種がたくさん採れるので、メンバーが自宅に持ち帰れば、そこからさらに増やしていくことができます。それだけでなく、小倉さんはここで育てているルッコラで“あること”を目指しています。

 

小倉さん:味や特徴が代々受け継がれてきた品種が固定種というのですが、3代同じ土地で同じ作物を育てると固定種と言われます。例えば、「練馬大根」がそうですね。この畑でも固定種を育てることは可能なので、「渋谷ルッコラ」という固定種を作ることを目指しているんです。

 

八百屋やスーパーに並ぶ野菜の中に、固定種の種から育った野菜はほとんどないといわれています。なぜなら、固定種の野菜は、形や大きさ、色などにバラツキが出るからです。それは、自然なこと。でも、消費者は形がキレイで、同じ色や大きさの野菜を求めます。その結果、人為的に掛け合わせた「F1種」と呼ばれる種ばかりになってしまいました。

 

小倉さん:プロの農家の人たちは、消費者が求めるものを作らなければ生きていけないので、固定種で育てることを彼らに求めるのは難しいと思います。

でも、僕たちのように農業を生業としていない人は固定種をつないでいける。僕たちの方がかえって、次世代、そしてさらに未来のためにやれるべきことがあるんじゃないかなと思っています。それこそが、都市農業の可能性ではないでしょうか。

 

F1種が生まれたのも、私たちが便利なものや安いもの、効率がいいもの私たちが求めてきた結果です。同じように、優しさや思いやりに欠けた社会になったのも、私たちが「自分が」「自分が」と自分だけを考えるようになったからです。

そんな私たちでも、小倉さんたちUFCの活動を通じ、時間や手間をかけて野菜を育て、自然のままならなさを体感することで、助け合い、共有しあって生きることに喜びを感じられるようになっていけるのではないでしょうか。

入会金1,000円を払えば、誰でもUFCのメンバーになれます。最初はメンバーの活動を見ているだけでいいですし、最初から積極的に関わるのもありだと思います。UFCがこれからさらにどんなインパクトを社会に与えていくのか、私も新加入メンバーの一人として、見守っていきたいと思います。

 

– Information –

NPO法人URBAN FARMERS CLUB
https://urbanfarmers.club
https://www.facebook.com/cultivatethefuture/

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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