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Food Future Session
2021.06.29. | 

[Vol.1]営業畑から、リアルの畑への転身 しゃべる農家のスキルとは【べジパング × Mo:take】

「Food Future session」という壮大なタイトルのもと今回からスタートする、×Mo:take の座談会。
初回は、長野県原村で、自分たちで希少品種のとうもろこしを独自農法で生産し、地元の特産品を目指してブランディングした『八ヶ岳生とうもろこし』の販路を切り開いている株式会社べジパングの折井祐介さんと、柳沢卓矢さんとの対談です。

お二人にとっても、Mo:takeの小野正視と坂本英文にとっても、食は仕事でもあり、生きていくうえでの毎日の営み。日々、食と向き合いながら、食についてどんな未来予想図を描いているのか、食に関するテーマで自由に語りあってもらう座談会を通して、その地図をちらりとのぞかせていただきました。

今回の座談会には、事前に複数のトークテーマをおみくじ形式で用意。登場4人それぞれに1枚ずつ引いてもらい、引いたテーマについて、4人で話していただきました。

今回4人が選んだテーマはこちら。

ー食と向き合う時間の最大化/折井さん
ー時短についてのトピック/坂本さん
ースキルと食で広がる可能性/柳沢さん
ー自らつくれること、つくれることの重要性/小野さん

 

しゃべれる農家=コミュニケーションスキル

小野:それぞれが選んだテーマをパッと見て・・・まずは、「スキルと食で広がる可能性」からいきましょうか。

 

柳沢さん:僕からですね(笑)。

 

小野:まずは、柳沢さんから自己紹介をお願いできますか。

 

柳沢さん:僕たちは「HAMARA FARM」という名前の農園で「八ケ岳生とうもろこし」を生産しながら、生産した野菜を販路に乗せるための会社、「株式会社ベジパング」を経営しています。

今、「スキルと食で広がる可能性」というテーマから、過去の経歴で得てきた自分のスキルを考えてみたんですけど・・・というのも僕、実は以前は普通の会社員で、東京のトヨタで営業をやってたんです。

 

坂本:え!? そうなんですか?

 

柳沢さん:はい、農業とはまったく違う“営業畑”というところから、リアルの畑に(笑)

 

一同:(爆笑)

 

柳沢さん:営業をやっているうちに、人が作ったものを「これはおすすめですよ」と営業するよりも、自分自身が作り出したもので喜んでもらいたいな、と思うようになったのが農業を始めたきっかけです。だから、今べジパングでやっていることは、営業で培ったスキルを活用しているだけなんです。

 

小野:スキルというと具体的には。

 

柳沢さん:営業って人とのコミュニケーションなんですよね。コミュニケーションをしてお客様のニーズをつかめば結果が返ってくる、というわかりやすい仕事です。営業の仕事でお客さんと話すのが大好きだったので、そのコミュニケーションスキルを生かして「しゃべれる農家」になってやろうと思ったんです。

 

 

お客様の価値につながることを的確に発信する

 

小野:しゃべれる農家!

 

柳沢さん:僕たちの農園は長野県の原村という小さな村にあって昔からの農家が多い地域なのですが、その8割以上が農協出荷の農家なんです。だからみんな、自分たちの作った野菜がどこで売られて、誰が食べてるかも知らないって言うんですよ。それは昔から、作った野菜は農協に出荷するのが当たり前だったからなんですけど。

 

折井さん:製造ラインと同じ仕組みですよね。ラインにさえ載せれば、その先は勝手に運んでいってくれますから。

 

柳沢さん:皆さん農協に買い取ってもらうだけでありがたいと思っているので、自分たちの野菜に付加価値がつけられるなんて思ってないんです。でも僕は車の営業をしていた経験から、いい野菜を作って、その価値を相手に汲み取ってもらうことさえできれば、その価値はものすごく上がることがわかっています。

なので、営業の時のノウハウを農業に落とし込めたら、地域が豊かになって、食という価値が広がっていくかなと感じたんです。車の営業のスキルと食が広がる可能性は一見関係なさそうだけど、しゃべるスキルを生かして食の価値を上げられるかなと。農家の人たちに、自分たちが作っている野菜の価値を知ってほしいと思いました。

 

折井さん:僕も実は旅行会社の営業だったんですよ。一緒に何かやろうとなった時に、お互い同じタイミングで会社を辞め、 “営業畑”からリアル畑に移りました(笑)

 

一同:(爆笑)

 

折井さん:寡黙でいいものを作る職人さんは尊敬しているんですけど、良さが伝わらないと自己満足で終わっちゃいますよね。それはすごくもったいないと思うので、これからの農業は、いかにお客さんにとっての価値につながることを的確に発信するかがテーマだと思っています。

 

 

月面着陸バリ!?の商品開発スキル

小野:僕も同じ考えで、食を広げるために必要なスキルはコミュニケーションだと思っています。僕にはいいコンテンツを作ってくれる坂本シェフというパートナーがいますが、その価値を最大化させるためには、経営スキルだったり、伝えるコミュニケーションだったりが必要です。それがないと、本当の価値を届けられないと思うんです。

例えば僕らが今持っている空間で何かを催した人たちには、「空間や場がよくなるためには、おいしい食事、ドリンクがあるといいよね。食は欠かせないよね」ということを伝えています。食の可能性を広げていくためには、食に専門的に関わっている人はもちろんのこと、食とは直接関係のない人たちにも伝えていかないといけないですから。

 

坂本:「料理ができる」ということは、料理人のスキルとしては当たり前のことです。そう考えると、僕のいちばんの特徴やスキルは、その人たちの考えや思いを具現化する、ということだと思います。

去年、折井さんと柳沢さんが育てている「八ケ岳生とうもろこし」のうち、間引いて畑に戻すしかない“次男”と呼ばれるとうもろこしを使って「もろこしシェイク」という新しい商品を開発したんです。まさにあの事例こそが、僕が一番長けていることなのかなと思っています。

(なお、”次男”と呼ばれる理由については、こちらの記事をぜひご覧くださいhttps://motake.jp/magazine/morokoshi01/

 

折井さん:「もろこしシェイク」は僕から見ると、とうもろこしの月面着陸ぐらいすごいことでしたね(笑)。とうもろこしをスイーツとして食べるという新しいカテゴリを作り、廃棄になるものがスイーツとして生かされるというのは、本当に素晴らしくて面白い企画でした。

 

坂本:生産しているとうもろこしへの思いや、使い道のない“次男”をどうにかしたい、という話を折井さんたちから聞いて、その背景のストーリーを汲み取り、今回は”次男”の良さを生かした最適な商品へと変えていったのですが、それも、これまでにいろんな人と出会い、いろんなことを経験してきたからこそできていることだと思っています。

 

小野さん:坂本さんは、アイデアを具現化してくれる率の高さが、ほぼ10割なんですよ。

 

坂本さん:自分で言うのもなんですけど、最近、小野さんからの「NO」がないですね(笑)

 

7/1(木)に公開予定の次回は、美味しいものをただ食べることから、現地に行ってその環境の中で食べることでどんな違いが生まれるのか、“体験と食”について話が展開していきます。どうぞお楽しみに!(つづく)

– Information –
http://hamarafarm.com/

 

Food Future session ゲストプロフィール

折井祐介(おりい・ ゆうすけ)
株式会社ベジパング兼HAMARA FARM代表
高校卒業後、カナダの短大に留学。帰国後、東京で個別指導塾の講師と遺跡発掘のアルバイト生活後、地元に戻り結婚式場、大手旅行代理店に就職。2011年に旅行代理店を退職し就農。「HAMARA FARM」を設立。2015年に生鮮野菜卸会社の株式会社ベジパング設立。夢はトレジャーハンターになること。

柳沢卓矢(やなぎさわ・たくや)
株式会社ベジパング取締役・HAMARA FARM代表
Mark&Burns Consulting合同会社代表
東京の専門学校で会計士の知識を学び、大手自動車メーカーの営業として就職。後に故郷長野へ戻り同自動車メーカー、大手音響機器メーカーでキャリアを重ね、折井氏とHAMARA FARM・株式会社ベジパングを設立。2018年には東京でパッケージやVMD、税理士と共に財務やFPを含め提案するMark&Burns Consulting合同会社を始めた。侍が好き。愛読書は新渡戸稲造の「武士道」。

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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