「美味しさ」と「楽しさ」を育む畑づくりの原点
「お待ちしていました!」明るい笑顔と元気な声で私たちを迎えてくれた菊池さんは、主に野菜とハーブを生産しています。今回はその数十種類のハーブを育てている菊池さんの畑にお邪魔しました。
「ここは6月頃になるとハーブの花が沢山咲いて、すっごく気持ちが良いんですよ!」と嬉しそうに話す菊池さんは、ハーブの葉が生い茂り、花が咲いた時の風景を想像しながら、畑づくりをしているそうです。
寒い時期には静けさを感じさせる畑も、ハーブの花が咲く初夏には華やかな景色が広がり、そこに訪れる人が自然の中で楽しんだり、ワークショップなどで新しい体験ができる場所に。菊池さんは、“畑”という場所を農作物を生産するという機能だけでなく、人に楽しんでもらえる場所にしたいという想いを持ちながら農業をしています。
現在は、畑の土づくりについて豊富な知識と技術を持つ土の専門家・土壌医検定の資格も取得されていますが、農業の世界に足を踏み入れたのは2015年頃。そのきっかけとは一体なんだったのでしょうか?
−−本日は宜しくお願いします!まずは、菊池さんが農業を始めたきっかけについて教えていただけますか?
菊池さん:はい!よろしくお願いします!私が農業をはじめたのはシンプルに言うと農の魅力に惹きこまれたからだと思います。はじめは家庭菜園からスタートしたのですが、それは両親の介護を通して健康を意識したことがきっかけの一つでした。
−−そうした状況の中で、健康に対する意識はかなり高くなりそうですね。
菊池さん:そうですね、両親の介護をしていた時期の私は、とにかく「健康に良い食事とは何か」を強く意識していました。
そんな意識を重ねるうちに、行き着いた先の一つが有機野菜でした。農業をしている現在は視野が広がったことで考え方も変わり、“有機でなければいけない”とは言いきれないと思うようになりました。でも、経験や知識が無かった当時の私は、有機農業や無農薬野菜だから健康に良いと捉えていました。
ところが、有機野菜を購入しようとすると意外と手が出しづらいと感じたんです。他の野菜に比べて高価で、どこで買えばいいのかもよくわかりませんでした。実際のところ「本当に安全なの?」「何を基準に安全っていっているんだろう??」など、どんな情報を信じていいのかもわからなくて、色んな悩みがつきまといました。
そうやって考えれば考えるほど購入へのハードルは高くなっていきましたね。
−−確かに有機野菜は健康にいいものという漠然としたイメージはあります。健康に良い食事という意識が農業へのきっかけになっていたんですね。
菊池さん:はい、でも初めは“農業をやる為に”というつもりはなく、ただベランダのプランターで土いじりをする程度でした。当時、介護の合間に土に触れることで癒されたことを覚えています。その後、母、父と両親を見送り、気持ちが沈んでいた頃、ぽかりと空いた時間で「何かしないとまずいな」という想いがありました。
そんなタイミングでポストに届いたのが、“お世話付き農園”のチラシでした。「よし!これは、まずやってみよう!」とチャレンジする事にしたんです。
今思い返すと、未経験でもやってみようと思えたのは、プランターで土いじりをした経験や、有機野菜を購入することへのハードルが高くなっていたことも後押ししたんだと思います。
実際にはじめてみると野菜の成長を見たり、土に触れることは驚きや発見ばかりで、とにかく楽しかったです!
−−未経験からはじめて、土壌医検定の資格も取得されているので、勉強する事も沢山あったと思います。もちろん色々と大変なご経験をされていると思いますが、菊池さんがお話している表情からも本当に楽しんでいるのが伝わってきます!
菊池さん:楽しいですよ!もちろん農業をするうえでは基本的な知識も必要ですし、もともと理系ではないので勉強は本当に大変です(笑)。。
でも、DOJOYラボを一緒に立ち上げた「ないとう農園」の内藤さんや「ヨサクファーム」の愛敬さんから学ばせてもらったり、色んな人に支えてもらって今があるっていうことをすごく実感しています。
ちなみにDOJOYラボの“JOY”は「楽しむ」という意味にもかかっているんです。私「楽しむ」という気持ちを大事に思いながら農業をしているので、DOJOYラボでも「土を楽しむ」ことは大事にしながら、色々とみんなで楽しめる企画も考えているんですよ!
一緒に取り組む仲間と多くの方々が支えてくれているからこそ、きちんと結果が出せるようにしたいと考えています。でも、考えすぎてしまいダメになることがあるので気をつけています(笑)。
−−やはり菊池さんは楽しむことをすごく大事にされているんですね!でも、考えすぎてダメになる”とはどういったことでしょうか?
菊池さん:うーん、性格的に考えすぎてしまうところがあります。そうすると必要以上に考えに縛られすぎて、好きだったはずのものも嫌になっちゃって…。
美味しく食べて欲しいと言いながら、考えすぎて楽しむどころか、嫌々育てた人の野菜を食べたいと思わないですよね?だから、私はそうならないように、自分が楽しんでいるということをすごく大切にしています。
これまでも、すごく緻密に考えてやっていくというより、農業が楽しいから必要なことは学びながらやるというスタンスでした。
そんな風に取り組むうちに、自然と知識がついてきたというか、経験しながら学んでいる感覚なんです。
−−楽しめるかどうかというのが、原動力なんですね!実際に考えすぎて楽しめないという経験もあったのでしょうか?
菊池さん:ありましたよ!特に先ほどお話しした「健康を意識していた時期」は食についてすごく考えていました。でも健康に良いものを食べよう、食べなきゃいけないっていう頭になってしまうと、本来美味しいはずの食事も薬のような役割に変わってしまう。。。結果的に、楽しんで食べることが全くできなくなってしまっていたんです。
美味しい、楽しいと思って食べるものと、食べなきゃいけないって思って食べるのとでは、全然感じ方が違うということを、その時の経験で学びました。
だから、農業も自分が楽しいかどうかをとても大事にしながらやっています!!
−−なるほど!自分が楽しいこと、楽しむことを大事にされているから、私たちにも菊池さんの楽しさが伝わってくるんですね!お話を聞いているだけで楽しくなりました!!
正解がないから面白い。畑も子どもの遊び場!
−−菊池さんが農業をしていて、面白いと感じるのはどんな時ですか?
菊池さん:私は化学肥料と農薬、除草剤を使用しない方法で作物を育てる有機栽培というスタイルで農業をやっているのですが、自然を相手にする分、同じことをしても違う結果になったり、正解が一つではないからこそ、そこに面白さを感じています!
もちろんうまくいかないことも度々あるんですけど、ハーブ畑の空いている区画に、整理しきれず余っていた野菜の種をまいておいたら、思いがけず良く育ってくれたという事もありました。そこは子どもたちが遊びながら学べるような、ちょうどいい畑になったという嬉しい偶然もあったりします。
−−そんな風に偶然子どもたちの遊び場になることもあるんですね!
菊池さん:そうなんですよ!今回は本当に偶然です!この空いている区画がもったいないな…くらいの気持ちでしたが、大根や人参、からし菜、枝豆などの野菜がしっかり育ってくれました!そしてそこが子どもの「遊び場」になったことで、私に新たな視点をくれました!!
もしこれが販売するための野菜だったら話は違うのですが、ここは偶然出来上がった場所、なんでもありの畑として、子どもたちが自由に土に触れて野菜を観察して、収穫もして…学びながら楽しむ「遊び場」として機能しています。
−−自然と触れ合うことが、子どもたちにとっては学びや遊びになるわけですね。
菊池さん:はい、例えば大根を抜くことでも、子どもたちは自分で試行錯誤しながら学んでいくんですよ。初めは葉っぱを引っ張るだけだったのが、次第にどうすれば根っこをきれいに抜けるかを考えるようになって、どの大根が収穫のタイミングとして良いのかを見分けられるようになったりするんです。
そんな風に子どもたちが畑という「遊び場」をとおして、学んで成長していく姿を目の当たりにすると、失敗を繰り返しながら何度も挑戦できる環境がいかに重要かを実感します。
畑で遊ぶ子どもたちを見て、自分の畑は野菜を作るだけの場所じゃなくて、来た人が楽しくなったり、ワクワクしたり、色んな体験が出来る場所にしたいと改めて思いました!
“遊び場”で収穫体験
「良かったら大根を収穫してみませんか?」菊池さんのご厚意に甘えて、畑という名の“遊び場”で収穫体験をさせていただくことに。「この大根が良さそうですね」菊池さんがオススメしてくれた大根に手をかけ、いざ収穫体験へ!
編集部には、人生で一度も大根の収穫をしたことがないというメンバーも。人生初となる大根の収穫体験とあって高めのテンションのまま、大根に手をかけます!
ところが、思いっきり腕に力を入れて、大根を垂直に引っ張ってみても、簡単には抜けません。。力任せに大根を引っ張っただけでは収穫出来ないということを学びつつ、次は大根を少しずつ回転させながら抜いてみることに…..すると今度は、“スポンッ!”と収穫することができました!
獲れたての大根を手に、土の香りと自然を感じながら「大根の収穫体験って面白い!!」と興奮気味にメンバーが話すと、現場は笑顔につつまれました。
畑は、野菜を作るだけの場所ではないという菊池さんの言葉どおり、大根の収穫体験を通しても学びや楽しさ、嬉しさを共有する”遊び場”であることを実感しました。
耕さないからこそできる、土づくり
−−本日お邪魔しているハーブ畑は暖かい季節になればハーブの花も咲く畑になるそうですね!この場所を選んだ理由やこだわりもあったのでしょうか?
菊池さん:この場所、よく見ていただくと三角形の畑になっているんです。一般的には三角形だと、畑を耕すためのトラクターが使いにくいといわれるのですが、私はハーブを広く育てる場所が欲しかったのと、ゆくゆくは“耕さない方法(不耕起栽培)”でやりたいと思ってたので、トラクターが入れるかどうかはそんなに気にしてなかったんです。私にはむしろ、この形が「面白い!!」って思えたので、ここをお借りすることにしました。
−−“耕さない場合”と“耕す場合”ではどういった違いがあるのでしょうか?
菊池さん:色々な見方があるので、どちらが良い悪いではもちろんないのですが、耕さないと、植物が生えた状態、土が植物に覆われた状態を保つことができます。それによって土が保護されて、ある程度の湿度が保たれます。すると微生物が増えたり、そこに虫や小動物がきたりと全体の生物多様性が豊かになります。そうやってゆっくりと土が作り上げられていくんですよ。
また、植物を育てることで土に栄養を蓄えたり、水や空気の通りを良くする「緑肥作物」というものとして利用することもあります。将来的には耕さなくてもハーブを育てられる畑にするために、自然の力を活かしながら土の状態を整えています。
一昨年この緑肥作物を育てた場所では、それを粉砕してそのまま土の上に被せておきました。時間が経つにつれて、その下の土は柔らかくふかふかになっていき、良い状態で苗を植え付ける季節を迎えられました。
−−なるほど、畑を耕さないことで土にも色々と良い影響を与えるんですね。
菊池さん:そうですね!でも土づくりのためという理由だけではなく、やっぱり私自身が一番大事にしているのはまずは自分が「気持ちいいと思える畑」にしたいということ。そして、それが私の場合は「土が緑に覆われている状態」だったんです。“何かのために”と考えすぎると”ダメ”なので(笑)。
そんな思いから、春になってここにカモミールの花が咲いていたらいいな、とイメージをして苗を植えました。その後は、また別のハーブを植える計画をしていて、毎年少しずつ違う風景が楽しめる場にしていきたいと思っています。
それから、いろいろな植物が生えていることで、子どもたちの遊び方が自然と広がっていくんですよ!これも耕さないことで、多様性が生まれるからこそできることかな、と思っています。何も教えなくても、自分たちの目で見て学んだり、遊び方を見つけたり、そうした子どもたちの姿を見るのが、やっぱり私はすごく好きなんです!
だからこの畑に来ると「楽しいな、心地いいな、気持ちいいな、癒されるな」って色んな感情で過ごしてもらえるように、これからもいろいろ工夫していこうと思っています。
「おいしい」と「楽しい」を感じる畑を作りたい
−−農業をはじめたきっかけや畑における場づくりについてのお話を伺ってきて、改めてこの場所が菊池さんの色んな想いが詰まった場所なんだなっていうことを実感します。楽しいお話をたくさん聞かせていただいたのですが、最後に、今取り組んでいることやチャレンジしてみたいことがあれば教えてください!
菊池さん:私は「これはダメだから、こっちが良い」という否定的な発想から良さを伝えるのではなく、もっとポジティブに農業のことや美味しさをお届けできたらと思っています。
そのためには美味しさや楽しさを体験してもらうことが一番だと思っているので、実際に畑に来ていただき、私たちの想いと体験を一緒にお届けしていきたいですね。
例えば、「これが、こんなに美味しいんだ!」という驚きの体験をしてもらえれば、日常での野菜の選び方や食べ方に対する小さな気づきが得られて、食を楽しむことや美味しさを追求するきっかけになると思うんです。
この畑も2年目を迎えて、1年目に植えたハーブが大きく育っていきました。春にはまた新しい芽が出てくる予定で、それぞれのハーブの花が咲いていきます。
ただ作物を育てるだけじゃなく、訪れる人たちが歩きながら「これ何だろう?」と興味を持っていただいたり、お花畑にいるようで気持ちが晴れやかになったり。そんな風に癒されるような場所にして、「美味しい」「楽しい」と感じてもらえる場づくりにこれからもチャレンジしていきたいと思います!
−−暖かくなったら「菊池さんがイメージした風景がこれなんだ!」という答え合わせができるわけですね!ぜひその頃にもここにまた伺いたいと思いますので、今からすごく楽しみにしています!本日は、ありがとうございました!
-Information-
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