SERIES
コーヒースタンドを起点とした場づくりの舞台裏
2025.07.23. | 

[Vol.2]つながりと変化の起点に。“ほっとひと息つける場所”─カフェ『カドナリ』

「森と湖と芸術のまち」藤野に、今年4月にオープンしたカフェ&イベントスペース『カドナリ』。Vol.1では、20年の会社員生活を経て、カフェという未知の世界に飛び込んだ髙橋秋彦さんのストーリーを辿りました。

Vol.2では、カフェ開業に向けた準備の日々、そしてオープン後に少しずつ見えてきた「場」のかたちを探ります。“ほっとひと息つける場所”のその先にある、出会いや挑戦のはじまりを、髙橋さんと『カドナリ』の立ち上げをサポートしたHYPHEN TOKYO・井上の対話から紐解いていきます。

こんなカフェにしたい!と想像する間もなく始まったプロジェクト

−−『虫村(バグソン)』の中村さんのお誘いをきっかけにカフェの開業を決意されて、会社を退職。そこからいよいよ立ち上げに向かっていくわけですが、開業までのことを聞かせてください。

髙橋さん:お店のオープンまでは、怒涛の日々でした!まずはコーヒー豆の選定から、コーヒーの淹れ方、カフェの運営にあたってのアドバイスなどサポートいただけるということで2024年9月頃に、中村さんの紹介でYuinchu代表の小野さんと初めて会いました。

場所は、中目黒でYuinchuさんが運営しているカフェ『OPEN NAKAMEGURO』。こんなおしゃれな街のカフェで紹介される人ってどんな人なんだろうと、少し不安になりながら小野さんにお会いしました。

 

−−初めての場所で、初めての人に会う、緊張しますね。どんな話をされたんですか?

髙橋さん:緊張していましたが、コーヒーを飲みながら音楽の話で意気投合して、徐々に緊張も溶けていきました。お互いにパンクバンドのハイスタンダードが好きだったので結構盛り上がりました!

 

−−まさかの音楽の話!しかもオシャレな空間でコーヒーを飲みながら、好きなバンドの話。もうデートじゃないですか(笑)!

髙橋さん:確かにデートっぽいですね!でも、カフェで好きな音楽の話をしながら、自然に過ごす時間がすごく印象的でしたが、その時に飲ませていただいたコーヒーもすごく美味しかったです。そして、自分のお店で出すエスプレッソ系のカフェメニューは『OPEN NAKAMEGURO』と同じコーヒー豆を使わせていただくことになった時、“ああ、このコーヒーを僕が淹れて出すんだ”って実感が沸いてきました!

 

−−なるほど!そうした体験を重ねてどんどん実感が湧いてきたわけですね!『カドナリ』について、自分が理想とするカフェにしたいという想いやイメージは、当初からあったのでしょうか?

髙橋さん:いや、実は、はじめはお店をこうしていきたいというのは、全くありませんでした。でもYuinchuさんが、具体的なイメージを持っていらっしゃったので、それを聞いて学びながら、オープンまでに必要なことを確認して進めていけました。恐らく皆さんに「この人、大丈夫か?」と心配をさせたかもしれませんが、一緒に進めていくうちに、日に日に自分の中でもなんとなくこうしたい、こんなお店にしたいという気持ちが芽生えてきましたね!

 

−−未経験なわけですから、やはりわからないことだらけですよね。そんな髙橋さんの横について、HYPHEN TOKYOは伴走してくわけですが、井上さんは髙橋さんの姿を見てどう感じましたか?

井上:いや、漠然としていたかもしれませんが、髙橋さんには最初から「こういう場所を作りたい」という想いはあったと思います。

言語化はできていなくても、髙橋さんから出てくる言葉からは、理想とするお店の姿や場づくりに対する想いが感じ取れました。それに対して僕らができることを考え、ハードとソフトの両面で、スケジュールを立てて整理していきました。

 

−−なるほど!井上さんは、髙橋さんの言葉から想いを感じとっていたんですね!髙橋さんも実際にお店のオープンにむけて準備が進んで行くにつれ、実感とともに理想のカフェのカタチが見えてきたのではないでしょうか?

髙橋さん:そうですね。社外の方と一緒にひとつのものを作り上げるような事は、それまでの会社員生活ではなかなか経験がなかったので、進め方にしても学ぶことが多かったですし、確かにだんだん「どんなカフェにしていきたいのか」というのが、自分なりに見えてきたのかもしれませんね。

 

未経験なのにセンス抜群!?髙橋さんを支えたコーヒー体験

−−初めてのことだらけだったと思いますが、コーヒーの淹れ方にはやはり苦労されましたか?

髙橋さん:はい!そこは結構難しかったですね!お店に出るまで3回レクチャーをしていただいたのですが、正直に言うと心の中では、不安な気持ちでいっぱいでした!

 

井上:不安な気持ちは理解しつつも、そこは踏ん張っていただくしかないんですよね(笑)! たとえ毎日横についてトレーニングをしたとしても、自分一人で向き合う時間を作らないと自分のものにならないというか。今回はエスプレッソマシンとドリップのレクチャーをベースに、オンライン上でのコミュニケーションでサポートさせていただきました!

 

−−実際には3回のレクチャーで、クオリティはどのように上がっていくんですか?

井上:レクチャーは半月~1ヶ月に1回、計3回ほど行いますが、まずはちゃんと淹れられるようになるというベーシックなラインがあります。そこから、何が美味しいのか、どこが美味しくないのかといった判断力を培っていくんです。そのためには、他のお店に行ってみたり、自分たちで作ったものを飲んでみて、酸味や苦味などを分析しながら整えていく必要があるのかなと思います。

 

−−やはり美味しいコーヒーを淹れるためには、いかに様々な角度からの経験をするかも重要なポイントになるんですね。髙橋さんは、3回のレクチャーでお店に立つことへの不安をものすごく感じていたそうですが、実際に井上さんから見てどうでしたか?

井上:エスプレッソマシンの使い方も初めからすごく上手でしたし、恐らく髙橋さんにレクチャーは3回も必要ないなと思いました(笑)!

 

髙橋さん:いやいやいや….一回一回を丁寧に上手にやろうと必死でしたよ(笑)!でもマシンを使うのも個人的に楽しくて、エスプレッソを淹れる手順やミルクの泡立て方でおいしさが変わるということが面白いなと感じながらやっていました!

レクチャーを受けてからも、安定したクオリティにするために相当練習しました。納得のいくものが作れるまで夜な夜な練習しましたが、自分の中で、本当に美味しいものを提供するにはそれぐらい練習しなきゃと思っていましたね。

 

−−そうだったんですね!楽しさも感じながら、美味しいコーヒーを提供しようと日々練習にも励んでいたわけですね!

髙橋さん:そうですね!お客さんにとっては、その時お店で飲んだ味が『カドナリ』のコーヒーの味になってしまうので、美味しいコーヒーを提供するためには妥協したくないという強い想いがあります。これは経験してみてわかったことですが、基本的な技術だけでなく、マシンの状態によってもクオリティが変わることがあるんです。

「この味で提供していいのかな?」と判断に迷ったりすることもありますが、どんな状態でも、自分が美味しいと思うコーヒーを提供できるように、そのためにやるべきことはしっかり取り組んでおきたいと思っています。

 

−−美味しいものを届けたいという想いが伝わってきます!先ほどから、カフェ未経験なのかな?と思うほど、コーヒーへのこだわりなどもお話いただいていますが、髙橋さん自身はもともとコーヒーが好きでしたか?

髙橋さん:そうですね!コーヒーは好きで、実は家でもよく淹れてました。

 

井上:髙橋さんの、情報を吸収するスピードの速さは、そこからきてるんですね。 “コーヒーってこういうもの”というある程度の基準を持っているというのは、すごく武器になるんです。 これまで自分が飲んできて、美味しいと思うコーヒーの基準がご自身の中にあるからこそ、「これでいいのかな?」と疑問が生まれて、 その味に近づけたいというモチベーションに繋がっていたのかなと感じます。

 

髙橋さん:なんだか照れくさいですね!吉祥寺に住んでいたころ、こだわりの強いコーヒー屋さんが近所にありました。焙煎温度を1度ずつ変えてコーヒーを出してくれたり、全種類のシングルオリジンを味見させてくれたんです。当時はお店には本当によく行っていたので、その経験が今に生きているのかもしれませんね。

 

プレオープン前日の“忘れられないお客さん”

−−いよいよオープンが近づく中、オープン準備期間の中で印象的な経験はありましたか?

髙橋さん:4月11日の本オープンを前に、1日からプレオープンをしていたのですが、そのプレオープンの前日に僕はずっとお店にいて、一人で練習していました。

そうしたらドアを”コンコン”って叩く音が聞こえて「やってますか?」って2人組のお客さんが来店されたんです。まだ練習中の身ではありましたが、寒い中にせっかく来てくださったので、少しでも暖まってもらえればと席についていただき、カフェラテを出したんです。

そうしたら、僕のカフェラテを飲んで「すごく美味しいです!」って喜んでくれたんです!
それまでずっと練習してきたカフェラテでお客さんの笑顔が見れて本当に嬉しくて、今でも忘れられない経験になっていますね。その時に初めてお金もいただいて、全てが初めての体験ですごく嬉しかったです。

 

−−上手くいかなくても、諦めずに練習を続けてきた髙橋さんにとって、本当に忘れられない体験となりますね!

 

髙橋さん:そうですね、何度やってもうまく淹れられなくて、一人でお店の片づけしてるような時には悔しい気持ちを抱えながら「自分は何をやってるんだろう?」って思うこともありました。でもお客さんが来て、「美味しかったです」と言われたことで、「ここまでやってきてよかった」と心から思いました。

 

−−色々な不安と戦いながらも、プレオープン前日のお客さんとの出会いが髙橋さんに勇気をくれたんですね!そこから自信にもつながってきているのではないですか?

髙橋さん:はい!少しずついろんな体験を重ねていく中で、自然と自信につながっていきました。たとえば、「地域プレート」というメニューがあります。これは、中村さんやYuinchuの皆さんと一緒に考えた藤野の飲食店のお料理を、『カドナリ』のランチプレートとして提供するものです。

自分の手でそのプレートを盛り付けているとき、「これをメニューとしてお客さんに出せるんだ」と実感して、嬉しさがこみ上げてきました。不安が少しずつ自信に変わった瞬間だったと思います。

藤野の方やYuinchuの方をはじめ、たくさんの方々の協力とメニューに対する想いがあるからこそ、「この味なら大丈夫!来てくれる人に満足してもらえる」と思えたし、僕自身も本当に美味しいと思っているので、自信を持ってお出しできるように準備してきました。本当に、いろんな人に支えてもらってこその“今”があると思っています。

 

ホッとできて、誰かとつながりあえる優しい場所を

−−最初は、「こんなカフェにしたい」というイメージが何もなかったとおっしゃってましたがオープンしてから時間の経過とともに、お気持ちに変化はありますか?

髙橋さん:確実に、ありますね。オープンしてから少しずつお客さんとコミュニケーションをとらせていただいて、この場所の“あり方”が見えてきた気がします。

たとえば、ここが次の場所へ向かう前にちょっと休める場所だったり、誰かとおしゃべりできる場所だったり、とにかく、誰でも気軽に来られる場でありたいなと思うようになりました。そこに美味しいコーヒーがあって、オープンな空気が流れていて、そこで過ごしてくれる人がいれば、それだけで十分なんじゃないかと。

早速、お客さん同士がここで話したことをきっかけにトークセッションのイベントが開かれたり、起業家さん同士が商品開発のアイデアを語り合っていたり。少しずつ、ここから“つながり”が生まれているのを感じています。

 

−−実際にもう活発なコミュニケーションが生まれる場になっているんですね!

髙橋さん:まだオープンして1ヶ月半(取材当時)ですが、こういう場を皆さんが求めていたんだなってすごく思うんです。新しいものでも、優しく受け入れてくれて、まず体験してくれるので、藤野の方々の寛容さがすごくありがたいですし、本当に少しずつ輪が広がっていると実感しています!

 

−−このお店ができてよかった!という声も、多いのではないですか?

髙橋さん:まさに先ほど、昔からこの町でお店をやっている方がいらっしゃって「このカフェで、ホッとひと息ついてから駅に向かって出かけて、また藤野に帰ってきたら、ここで休憩してから自宅に戻る。そんな場所ができて、本当によかった」とおっしゃってくださいました。もうすごく嬉しくて、本当にやっていてよかったと思いました!

 

構えず話せる場所だからこそ、変化を生み出せるカフェ

−−これは井上さん、HYPHEN TOKYOとしては、すごく喜ばしいことですよね!

井上:そうですね!カフェって構えずにコミュニケーションが取れるところだと、僕は思っています。遠い昔には、カフェから革命が生まれた説もあるんですよね。雑談をしに来て、そこから何かが生まれて、変化を生み出していく。すでに『カドナリ』は、そんな風にカフェのあるべき姿を実現しているのかなと思います!

僕はここが“目的を受け入れる場所”でありながら、“目的になる場所”でもあると思うんです。あそこに行ってみようという目的にも、あそこで何かやってみようっていう手段の場所でもある、それが見え始めているのを感じます。

 

−−何かやりたいと思ったときに、それを口に出して言いたくなる空間かどうかというのは、場づくりにおいて大切なことですよね!ふらっと来ても、何か生まれたり気づきがあるような、そんな空間になっているのかもしれませんね。

井上:そうですね!空間もこうやって使ってくださいと意図しすぎたものや仕組まれたものというよりは、「ここなら何かをやれるかも」というような余白のある場を作ってあげて、あとは「どうぞ使ってください」と解放するイメージですね。結果的にそこで何か生まれたら、それはそれで良いですし、『カドナリ』は「何かここでやりたい」って思わせるような余白があるって僕は思っています。

 

−−井上さんから見て『カドナリ』はどんな場所になっていきそうですか?

井上:カフェでゆっくり過ごす人もいれば、何かをチャレンジしたいという人がいる、色んな人が訪れる、誰かにとって必要な場所になっていくんじゃないかって思いますね。ここでしか生み出せないもの、ここでしかできないこと、というのがすごくありそうだなと。何かを生み出さなきゃというよりは、場を健全に保っているだけで、人が集ってきて、そこから生まれていくことがあると思います。

そんな、ここだけの“モノ”や“コト”が、一年先、二年先にどんどん生まれてきて、すごく魅力的な場所になるんだろうなという予感がしています!

 

この先願うのは、刺激的で楽しい豊かな藤野であること

−−もう既にオープンしてから、様々な出来事があったかと思いますが、この先、髙橋さんがやってみたいことや、こうなったらいいな、と思うことはありますか?

髙橋さん:そうですね、この『『カドナリ』』でいろんな人がコトを起こすキッカケが生まれたり、若い方たちにも、カフェでの働き方をとおして、いろんな人とのつながりを感じてもらえるような場所にして行きたいと思っています。

また藤野は本当に魅力あふれる場所なので、レンタサイクルのような移動手段や楽しいアクティビティーなど、訪れた人が刺激的で豊かな時間を過ごせるようなものが増えていけばいいなぁと思います!

 

−−本当に藤野の玄関口のような場所から地域に広がって行くのが楽しみですね!髙橋さん、井上さん、素敵なお話しをありがとうございました!

未経験ながらカフェ開業に挑んだ髙橋さん。『カドナリ』は、豊かな個性が集まる「藤野」という地域の魅力を発信する拠点であると同時に、人が集い、ほっとひと息つける場として、今、地域に根付きつつあります。

そんな『カドナリ』は、自由に出会い、つながり、表現できる場所へと進化するだけでなく、新しい何かを生み出す起点にもなっていく―そんな可能性を感じさせてくれました。

– Information –

カフェ&イベントスペース『『カドナリ』』
所在地:〒252-0184 神奈川県相模原市緑区小渕1707 創和ビル 1F
営業時間:8:30〜20:00
アクセス:JR藤野駅を出てすぐ

Instagram(『カドナリ』)
HYPHEN TOKYO

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