
古都ならではの逸品、「飛鳥鍋」
さて、今回紹介するのは、寒い季節に奈良を訪れたなら一度は味わってみたい「飛鳥鍋」。白味噌と牛乳を合わせたやさしい色のスープに、鶏肉とたっぷりの野菜がぐつぐつと煮え立つ鍋。テーブルに運ばれてきた瞬間にふわりと立ちのぼる湯気と、ほんのり甘い香りに、思わず「ほっ」と息がもれる――そんな、心も体も温めてくれるご当地グルメです。
名前の由来はまさに「飛鳥時代」。古代日本の中心地だった飛鳥・橿原一帯で生まれたといわれています。この鍋は、歴史の街・奈良らしさが凝縮されているのも大きなポイントです。奈良は歴史上、日本で最も早い時期に乳文化が根付いた土地です。唐(中国)から奈良にやってきた使者により乳製品が伝えられ、孝徳天皇に献上したところ大いに喜ばれたことから、宮中で乳牛が飼われるようになったというエピソードが残っているのです。
貴族の飲み物だった牛乳はやがて僧侶たちにも広まり、寒さをしのぐために飼っていた鶏の肉を乳で煮た料理が生まれた――
これが飛鳥鍋のルーツだと伝えられています。歴史上、文化の入口でもあった奈良だからこそ生まれたともいえるのが、飛鳥鍋なのです。

外食続きの旅に「やさしさ」が沁みる!
とはいえ、当時の牛乳はたいへん貴重な食材。庶民が気軽に鍋いっぱい使えるようになるのは、ずっと後のことです。昭和初期、明日香地域の名物を作ろうという動きのなかで、地元産の牛乳をたっぷり使った現在のスタイルの飛鳥鍋が考案されました。
鶏がらだしに白味噌と牛乳を合わせ、鶏肉、白菜、ねぎ、ごぼう、にんじん、しいたけ、豆腐、春雨などをじっくり煮込む今のスタイルが徐々に定着。仕上げにはおろし生姜や一味唐辛子を添え、ときには溶き卵につけて食べる。滋味深いのに軽やかで、食べ飽きない味わいに、家庭や店ごとの工夫が光ります。
シメには、ご飯を入れて雑炊風にしたり、うどんを投入して「飛鳥うどん」にアレンジしたりと、鍋らしい楽しみ方ももちろんあります。牛乳のコクがご飯や麺にしっかり絡み、最後の一滴まで飲み干したくなるおいしさです。あっさりしているのに栄養満点なので、「外食で揚げ物だらけの旅ごはんはちょっと重い」というときにも、体にやさしい一杯になることでしょう。

「歴史の重なり」を感じる食体験の旅へ
最近では、学校給食で「飛鳥汁」としてアレンジされて提供されることも多く、奈良の子どもたちにとっては「冬になると出てくる、ちょっと特別な汁物」として記憶に残る味にもなっているようです。
奈良市内や明日香周辺の飲食店・旅館では、飛鳥鍋をメインに据えた御膳メニューやコース料理が提供され、冬の看板メニューとしてPRされることも増えてきました。観光協会のグルメ情報でも、歴史を感じる奈良の味として飛鳥鍋が紹介されており、奈良のとあるホテルでは、聖徳太子ゆかりの地の特産品と組み合わせた企画なども登場しているそうです。
これから冬の奈良を訪れるなら、大河ドラマの舞台をめぐりつつ土地の物語を“食べて知る”旅がおすすめです。寺院文化の中で薬食として発展し、さらには地元の酪農や農家の手によって育てられてきた味。さまざまな歴史が折り重なった、ちょっと意外なミルキー鍋に出会う──そんな体験を求めて、冬の奈良に足を運んでみてはいかがでしょうか。