
「お好み焼き」はひとつじゃない!
広島のローカルフードと聞けば、真っ先に「お好み焼き」を思い浮かべる人も多いはず。薄くのばした生地の上にキャベツや豚肉などの具材を重ね、そばやうどん、卵と合わせて焼き上げるスタイルは、今や全国的にもおなじみです。
しかし、一口に広島のお好み焼きといっても、県内すべてが同じというわけではありません。土地ごとに手に入りやすい食材や暮らしが違えば、鉄板の上で焼かれる一枚にもその土地ならではの個性が生まれます。
そう、実は広島県内にはさまざまな“ご当地お好み焼き”が存在するのです。そして、今回取り上げるのが、三原市の「三原焼き」と府中市の「府中焼き」。見た目こそ広島のお好み焼きですが、食べてみればその違いは歴然です。違いを生み出すキーワードは、ズバリ「肉」。それぞれの土地の事情から生まれた肉の違いが、まったく異なる味と食感を作り出しているのでした。

鳥もつゴロゴロ! 「三原焼き」
まずは、三原やっさ祭りでにぎわった三原市の「三原焼き」。最大の特徴は、豚肉ではなく、「鳥もつ」を入れること。しかも、レバーや砂ずり(=砂肝)、たまひも、キンカンなど、店によってさまざまな部位が使われ、ひと口ごとに違った味や歯応えを楽しめます。
三原でお好み焼きが食べられるようになったのは戦後まもなく。鳥もつを入れる文化も古く、昭和30年代初頭にはすでに提供する店があったといわれています。では、なぜ三原で鳥もつだったのか。
その背景にあるのが、この土地で盛んだった養鶏です。新鮮な鳥もつが手に入りやすいうえ、当時は豚肉よりも安価で栄養価も高い食材でした。身近にあるものを、おいしく、無駄なく食べる。そんな暮らしの知恵が、お好み焼きと結びついたのです。
現在でも三原市は、広島県の鶏肉生産量の約半数を占める一大産地。三原焼きは、単に変わった具材を入れたお好み焼きではなく、地域の産業と食文化が鉄板の上で出会って生まれた一枚なのです。肝心のお味は、鳥もつならではの濃厚な旨みが魅力。ふんわりとしたキャベツの甘さや麺、香ばしいソースの中に、レバーのコクや砂ずりのコリッとした食感が飛び込んできます。いろいろな部位を使う店なら、食べる場所によって表情が変わるのも楽しいところ。いつものお好み焼きとはひと味違った、ちょっぴり“大人の味”が楽しめます。

ミンチでカリカリ! 「府中焼き」
一方、広島県東部の府中市で長く愛されてきたのが「備後府中焼き」、通称「府中焼き」です。こちらも生地、キャベツ、麺、卵などを重ねて焼くスタイルは広島のお好み焼きと共通していますが、決定的な違いがあります。
それが、豚バラ肉の代わりにミンチを使うこと。その背景には、高度経済成長期に工業都市として栄えた府中の暮らしがあったといわれています。共働き家庭も多いなか、子どものおやつとして、安価で旨みの出るミンチ肉を使ったお好み焼きが親しまれるようになったのだとか。
そして、このミンチが、府中焼き独特のおいしさを生み出します。熱い鉄板の上でミンチから脂が溶け出し、その脂が麺へじんわりと回っていく。すると麺はただ焼かれるのではなく、いわば“揚げ焼き”のような状態になります。その結果、表面はカリッパリッと香ばしく、中にはキャベツの甘みが残る。一般的な広島のお好み焼きとはまた違う、クリスピーな食感を楽しめるのです。
店によって牛、豚、合いびきなど使用するミンチにも違いがあり、それぞれに個性があります。また、広島のお好み焼きではおなじみのモヤシを使わないスタイルも府中焼きの特徴。余分な水分を抑えることで、カリカリとした食感がさらに際立ちます。府中市では昔から親しまれてきた味ですが、現在では「備後府中焼きを広める会」などが中心となり、ご当地グルメとして県内外へその魅力を発信しています。
地元では当たり前だった食べ方が、外から見れば実は個性的だった……まさにこのコーナーで紹介するためのローカルフードです。

鉄板の上に見えてくる「地域性」
戦後の広島で庶民の食として広がったお好み焼きは、それぞれの街の産業や暮らし、人々の好みに寄り添いながら少しずつ姿を変えてきました。その結果、「広島のお好み焼き」という大きな食文化の中に、いくつもの小さなローカルフードが生まれたのです。
三原焼きと府中焼き、食べ比べれば、ソースの香りの向こう側にそれぞれの街の暮らしまで見えてくるかもしれません。「広島のお好み焼きはもう知っている」という人にこそ味わってほしい鉄板メニュー。定番の中に隠れた“地域差”を知ることもまた、ローカルフードを旅する楽しみなのです。