「加熱」をする意味とは?教えてCASTさーん!
−−お料理をする時には必ずと言っていいほど、加熱をしますよね。私の場合は、温かいものを食べたいとき、茹でたり、焼いたほうが美味しいという感じで、加熱に対して感覚的なところがあって、特に深い意味はないのですが、、、加熱には科学目線でみると役割もあるのでしょうか?
CASTさん:そうですよね、どんな食べ方をしたいかっていう好みで、加熱するかしないかという感覚はすごく良くわかります。でも、科学的視点でみてみると、加熱の役割がちゃんとあるんですよ!
−−やっぱりありましたか!ぜひ教えてください!
CASTさん:加熱の役割は2つあります。ひとつは、殺菌して安全に食べられるようにすること。これが一番の理由と言っても過言ではないです。もうひとつは、食材を食べやすくしたり、調味料が染み込んだ状態にしたりすること。つまり、熱を加えることで食材に化学反応を起こし、“物質を変化させる”ってことです。
−−物質を変化させる!?……ここ詳しくききたいです!
CASTさん:それでは、焼肉を想像してみてください。肉を焼くと“じゅ〜”って縮まって、赤色からだんだん薄い茶色に変化していきませんか?
−−うんうん!肉を焼く時ってそうなりますね!確かに、縮まって赤い肉からだんだんと茶色っぽくなっていきます!
CASTさん:あれは加熱したことでその物質がこれまでと違う性質に変わった状態です。物質は「原子」といわれる小さな粒が集まってできていますが、熱が加わると、その原子はブルブルと振動しはじめて、温度が上がると、その振動はどんどん速く動きます。そうして原子がたくさん動くと、それまでくっつき合っていた原子同士が離れたり、新しい相手とくっついたりするんです。そうして、それまでの物質とは違う状態になるんですよ。
つまり、お笑い芸人を原子だとしたら、コンビを組んでた相方を変えて、新しいコンビとして生まれ変わる?そんな状態のイメージですね!
−−すごく分かりやすいです(笑)
CASTさん:つまり、加熱の際の温度を意識してうまく扱えるようになれば、その食材の理想の状態にすることもできるんですよ。そういう意味でも加熱の温度はすごく重要です!
−−理想の状態かぁ、でもそれは素人的には難しそう。。よく野菜炒めをするとき、べちゃべちゃにならないようにササッっ炒めてシャキシャキでうまく行く時もあれば、シャキシャキ感を通り越して柔らかくなり過ぎてしまったり、理想には程遠いときもあり、なかなか難しいです、、、なにか温度調節について基準となる温度もあるのでしょうか?
CASTさん:確かに簡単ではないかもしれませんが、温度によって物質で起こる反応が変わるので、基準となる温度を一つのコツとして押さえておくと理想に近づけるかもしれません。
例えば、多くの野菜は多糖類の仲間のペクチンという成分が含まれています。それを60℃から70℃くらいで加熱するとある酵素が活性化し、硬くなって、野菜がシャキシャキになるんです。でももう少し温度を上げて80℃以上で加熱すると柔らかくなるんです。
−−なるほど!微妙な温度の加減でそのペクチンが含まれる野菜は硬くなったり、柔らかくなるんですね!
CASTさん:そうなんですよ、面白いですよね!でも物質によって違いがあるので、奥が深いんですよね。もうひとつのポイントはスピードです。温度が上がるほど物質の反応は早くなります。
さっき話したように、温度が上がると原子がいっぱい動くようになって、原子同士の組み合わせが変わるという現象は、高温になるほど早く起こります。火力が強いほど肉が早く硬くなるのも同じ現象です。
肉などのタンパク質の性質が変わる温度は50℃から60℃ですが、それ以上高温になると硬くなるスピードが上がります。
「加熱」する食材としない食材の違いとは?
−−加熱において温度がいかに重要なのかがよく分かりました!
CASTさん:よかったです!でも他にも温度によって影響を与えるポイントがあるんです、なんだと思いますか?
−−なんだろう、、体に良い、悪いが影響しそうですねぇ。
CASTさん:おぉ、いいですね!なんで体に良い悪いに影響するんでしょう?
−−温かい食べ物は体を温め、冷たい食べ物は体を冷やすから、どちらかというと温かい方が良いから?うーん、違うか、、、ズバリなんでしょう??
CASTさん:良いところまでいっていましたが、ここでお伝えしたいのは、ズバリ栄養素のお話なんです!例えば、ビタミンBやビタミンCは、温度が高くなるほど分解スピードが速くなって最終的には無くなってしまいます。具体的にいうと、10℃上がると反応するスピードは2倍以上になると言われています。栄養素によって異なるので、気になる方は詳しく調べてみると面白いと思います!
−−なるほど!加熱して食べる場合、温度調節に気をつければ、栄養素を壊すことなく美味しく食べられるってことなんですね!ちなみに、加熱する理由として殺菌の役割が1番と言っても過言ではないということでしたが、殺菌に関しても、栄養素のように加熱にも温度によっての違いってあるんですか?
CASTさん:食材を殺菌する場合、加熱温度と加熱時間が決まっています。食材や菌の種類によって異なりますが、熱に強くない菌であれば60℃程度、熱に比較的強い菌なら80℃から90℃で加熱すると殺菌できます。とはいえ、これはあくまで目安です。
また実際には菌によっても異なります。殺菌は温度と加熱時間が深く関係するので、注意することが必要ですね。
ちなみにお肉の殺菌の場合、厚生労働省の発表では肉の中心部が63度以上であれば殺菌されている、63度未満では十分な殺菌はできていないと定義しています。処理をする場合は、63度30分間、またはそれと同等と考えられる 75度1分間の加熱殺菌を指導していますね。
−−ますます加熱は重要ですね!一方で、加熱をせずに食べるものもあるじゃないですか?これは加熱するものとどんな違いがあるんでしょう?
CASTさん:一番の違いは、殺菌する必要があるかないかです。野菜はそのまま食べられるけど、肉はそうもいかないですよね。また、加熱しない他の理由としては、生で食べたほうが美味しかったり、食感が良かったりってことも挙げられますね。
“熱の伝わり方”と“温度”で加熱調理は変わる
−−殺菌する必要があるかどうかも大きいんですね……。加熱にも焼いたり、茹でたり、揚げたり色々な方法があると思いますが、それぞれの方法で加熱がもたらす違いもありますか?
CASTさん:加熱を語るうえでポイントになるのが、熱の伝わり方と温度です。食材の外側から直接熱を伝える方法が「焼く」ですね。フライパンなど金属を使うので100℃以上の高温になりやすい加熱方法です。電化製品でいえばオーブンも同じです。
−−「焼く」で思い出しましたが、「炭火焼き」って普通に焼くよりも美味しくなるんですよね。例えば、焼き鳥も電気ヒーターで焼いたものと炭火焼きでは美味しさが全く違うんです。炭火焼きには、どんな違いがあるんですか?
CASTさん:炭火焼きの特徴は遠赤外線です。焼き鳥でいうと、炭火から発された遠赤外線によって表面が素早く焼き固められ内部に熱を伝え、うまみを引き出しながら内側の肉汁を閉じ込めます。そうすると、パリッとした食感とジューシーな肉汁が味わえる焼き鳥ができるのだと思います。あと、炭火特有の香りが食材につくことで風味も楽しめるので、美味しく感じるのかもしれませんね。
−−なるほどぉ!他にも茹でたり、揚げたり色々な加熱方法がありますが、それぞれどんな特徴がありますか?
CASTさん:そうですね、「茹でる」は常に食材が水に浸かっている状態なので、実は温度が上がりすぎないんです。ただ、食材的にずっと水に浸かっているのが良くない場合に有効な加熱方法が「蒸す」です。いずれも100℃以下で加熱できるのが特徴です。
高温で一気に加熱するのが「揚げる」です。これは「茹でる」の水を油に変えたバージョン。一気に温度が100℃以上、200℃以上まで上がって、均一に加熱できます。油が食材に染み込むことで風味が生まれて美味しくなるのも特徴です。
どんな「加熱」でも肝は〇〇と〇〇
CASTさん:他にもみなさん日常で使うことも多い加熱方法で「レンジ」での加熱があると思います!「レンジ」は、かなり特殊な方法なんです。他の方法は外側から徐々に熱を伝えるのに対して、レンジは食材全体を一気に加熱します。ジャガイモで説明すると分かりやすいかもしれません。
ジャガイモを丸ごと茹でると、内側に火が伝わるまでに時間がかかりますよね。やっと熱が伝わった頃には、表面に熱が入りすぎて煮崩れしてしまったり。だけど、レンジならジャガイモ全体を均一に加熱できるから煮崩れすることはないんです。
−−さりげなく使っていましたがレンジってすごいんですね。でも、なぜ一気に食材全体を加熱できるんですか?
CASTさん:レンジはマイクロ波という電磁波で加熱します。マイクロ波が食材に含まれる水分を震わせることによって摩擦熱が発生し、それで食材が温まる、という流れです。こう聞くと、何でもレンジで加熱できると思うかもしれませんが、マイクロ波は液体の水分にしか反応しないんですよ!なので、水分が固まっている状態となる冷凍庫から出したばかりの氷は、実はレンジで加熱してもあまり溶けないんですよ。
−−えっ!氷ってレンジで溶けないんですね!ちょっとやってみたくなりました!ちょっとここで質問なのですが、卵はレンジで加熱すると爆発しますよね??あれはなぜでしょうか?
CASTさん:卵は殻に覆われていますよね。その状態で温めると、内側の水分が温められて水蒸気になりますが、水蒸気の逃げ場がなくなって卵内部の圧力が高くなってしまう。その結果、爆発してしまうんです。これは生卵の場合でも、表面が皮や膜で覆われている明太子やソーセージでも同じことが起こります。でも、包丁で切り込みや穴を開けて水蒸気の逃げ道を作れば爆発しません。レンジはとても便利な調理器具ですが、注意が必要なものでもあるんですよ。
−−改めて、料理を作る時に使ってる身近な加熱を振り返ってみるとやはりどの加熱調理でも、温度と時間の組み合わせが肝ということなんですね。
CASTさん:その通りです!食材のベストな状態や食べても安全な状態にするためには、温度と時間を意識することが不可欠なんです!逆に言えば、ここを適当にしてしまうと、自分が望む食材の状態に仕上げるのは難しくなってしまいます。そして実は、同じ食材であっても、加熱の「温度」と「時間」のバランスによって、仕上がりも変わってきます。だからこそ、加熱は“ただ火を通す”だけではない、大切なプロセスだと言えますね!
言葉だけだとわかりづらいですよね。ということで、加熱の温度と時間が変わると食材にどのような違いがあるのか、ここからは実際に鶏肉を使った実験で検証してみましょう!
鶏肉を茹でて検証!加熱温度が違うとどう変わる?
さて、ここからはMo:take STUDIO 代官山にて実験の時間です!今回は、真空状態の鶏肉を以下のパターンで加熱していきます。
パターン1:60℃で5分
パターン2:80℃で5分
パターン3:100℃で5分
この実験で検証したいことは2つ。
①見た目の違い。(状態変化)
②殺菌できているか。
1つ目は、「鶏肉は茹でる時間と温度でどのような状態になるのか」。タンパク質が固まる(凝固)温度は60℃といわれています。実験では、加熱温度による見た目の変化をチェックしていきます。
2つ目は、「鶏肉は何℃・何分加熱すれば殺菌できるか」。
厚生労働省によると、肉を加熱殺菌するには最低でも63℃で30分、70℃になると3分と発表しています。しかし、鶏肉の内部がこの温度にならないといけません。そこで実験では、内部の中心温度を測っていきます!
そして、、、結果は以下のようになりました!
それぞれ見てみましょう。
加熱温度が違うと姿形・温度が大きく変わる!
パターン1「60℃で5分」は、まだ凝固できていない
外側は凝固しきれていない状態。まだ生の部分もあって全体的にツルッとしています。内側はかわいらしいピンクですが、中心部の温度は43℃。殺菌できていません。こうした鶏肉の状態にはご注意を!決して食べないように、、、
パターン2「80℃で5分」は、見た目は良いけど…
パターン1と比べると、凝固が進んで全体的に小さくなっています。外側も内側もピンクの部分はありません。これなら内部の温度も大丈夫じゃない?と思いきや、56℃でした。見た目的には問題なさそうと思っても、、残念!!数値上は食べられる状態にないという結果に。。
パターン3「100℃で5分」は、完全な凝固!
外側も内側も完全に固まっているのは明らか。パターン1、2と比べてギュッと小さくなっているのも分かります。しかし、水分が抜けてボソボソとした紐状に。表面は乾燥してひび割れしていました。中心部の温度は68℃でした。パターンの中で唯一63℃には達していますが、CASTの見解は、「70℃3分で加熱殺菌できると考えると、殺菌面で完全にクリアしているかは微妙な状態」ということでした。
美味しさと安全の状態を作る、加熱温度と時間のバランス
同じ食材でも温度が違うだけで外側・内側、中心部の温度がこれほどまでに変わってしまうことがよく分かった今回の実験。加熱温度と時間が食材に与える影響を実際に検証してみて、いかにそのバランスが大事かもおわかりいただけたのではないでしょうか?
今回の実験結果を応用して、温度と時間を変えながら安全においしく食べられる最適な温度と時間を見つけられそうですね!
「加熱」を科学的に紐解くと、いかに食材の美味しさや安全面に大きな変化を及ぼす調理工程であるかが分かりました。加熱は、想像以上に奥が深い調理工程だと思ったのは私だけでしょうか!?
食材や料理を最適な状態にするためには加熱温度と時間が重要。これから加熱が必要な料理を作る時に、どの程度の温度や時間が必要なのか。自分好みの状態にするには何が最適か。そんなことも考えながら、いつも加熱して作っていた料理に科学的視点を取り入れてみたら新たな発見や、今まで以上に美味しい料理ができたりするかもしれませんね!
さて『美味しい科学』、次のテーマは乳化です。「乳化?それって料理と関係があるの?」そんな風に思った人もいるかもしれませんが、、乳化は意外と身近な存在なんです。乳化を知っている人も馴染みのない人も、そこにはどんな美味しい科学があるのかを一緒に紐解いていきましょう!次回もお楽しみに!
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東大CAST