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美味しい科学 CAST × Mo:take
2025.04.30. | 

『美味しい科学』 〜 乳化編 〜 “混ざらない”の壁、乳化なら突破できる説!

科学の世界を面白く、わかりやすく各地域で伝えている東大CASTとMo:takeがお届けする、食を科学の視点で紐解く連載企画「美味しい科学」。 第一回目は、「醤油」、第二回目は「切る」、そして前回お届けした第三回目では「加熱」というテーマで、科学の視点を交えてお届けしてきました。
さて、第4回目となる今回のテーマは「乳化」です! 皆さんは、「乳化」という言葉を聞いたことがありますか?うまくできれば料理の味わいも変わるこの「乳化」。実は身近な食べものにも影響している現象なんです。それは一体、なんでしょう?
というわけで、今回は身近な食を例にあげながら「乳化」について、CASTと一緒に“美味しい科学”の世界を探っていきましょう!

「乳化」って何?教えてCASTさーん!

ーー今回は「乳化」がテーマです!これまで伺ってきた「切る」や「加熱」に比べて、私たちが料理の時に強く意識したり、身近に感じる!というものではないと思いきや、以前Mo:take MAGAZINEの「どこよりも細かいレシピ パスタ編」でもご紹介したように、料理によっても「乳化」がポイントになるということもよく聞きます!
そんなわけで今回も、科学の視点でわかりやすく教えてください!

CASTさん:「乳化」というテーマ、いいですね!
パスタなどのレシピには時たま見かけますが、確かに普段のお料理ではあまり口にしない言葉かもしれませんね! ただ、この「乳化」について知っていくとまたキッチンに立つのも楽しくなるかもしれませんよ!

 

ーーますます興味が湧いてきました!
早速ですが、そもそも「乳化」とはどういった現象のことなんでしょうか?

CASTさん:「乳化」は広い意味では、「本来混ざらない2種類の液体を、なんらかの方法で混ぜることで、とろみが付いて濁った乳白色にすること」を指しますが、基本的には「水と油を混ぜること」をいいます。
本来は、「水」と「油」はそれぞれの“分子の違いを理由に、混ざることはありません。でも「乳化」という仕組みによって混ざった状態になるんです!

 

ーー確かに、わたしも水と油は混ざらないというイメージを持っていました!
よく人間関係でも使われますよね?
あの人とあの人は水と油だ!みないな感じで(笑)。
その「水」と「油」の分子にはどんな違いがあるんでしょうか?

CASTさん:では分かりやすく、それぞれの分子の関わり方を人間関係に例えて説明しましょう!
実は「水」も「油」も特に仲が悪いわけではなく、水の分子たちは水の分子たちでお互いにギュッとくっつきたがり、油の分子たちは油の分子たちでくっつくという性格をもっています。
だから水の中に油が入ると、水の分子たちは“仲良しグループだけでいたい!”と固まり、油の分子たちも“その輪の中に入ろうとしない”というわけです。その逆も然りで、油の分子たちの中に水を入れたとしても、グループになることはことはないので、結果として、水と油は混ざり合うことはないんです。

 

ーー同じグループで固まり交わろうとしないというのは、人間界にもありますよね…だんだんイメージができてきました!
でも、その「水」と「油」がどのように混ざって、乳化するのか気になりますね。
なんとなくかき混ぜるという行為が必要なのかなと思いつつ、ただ混ぜても乳化しない気がします…乳化には何かポイントはあるのでしょうか?

CASTさん:そうですね、乳化をするためのポイントは、

・乳化を助ける成分があるものを使うこと
・水と油のバランスを考えること
・よく混ぜること

この3つがあげられますね。
ご想像の通り、ただ混ぜるだけでは乳化できません。
そこで大事になるのが「水」と「油」の乳化を助ける成分です!この成分のことを「乳化剤」といいます!

 

「水」と「油」をつなぐ「乳化剤」

CASTさん:先ほど、水と油は性格が違うため、混ざらないというお話をしましたが、この乳化剤があれば仲良く“ひとつのチーム”として混ぜることができます!

ーーどういうことでしょうか??

CASTさん:乳化剤は、水と油のあいだに立って、それぞれの手を取りあってくっつける働きをもっているんです。
そのために何をするかというと、乳化剤が水と油の分子をより細かい粒にして、それぞれのグループの中にまんべんなく散らすんです。
水のグループに細かい油の粒を散らすことも、油のグループ中に水の粒を散らすこともできるので、乳化することができるんです!
つまり乳化剤は、お互いが仲良く同じチームになるきっかけをつくるんです。
逆に言うと、この乳化剤が無ければ、乳化することはできないんですよ。

 

ーーなるほど!乳化剤って、すごく重要じゃないですか!
どんなに一生懸命かき混ぜて乳化しようとしても、この仲介人のような乳化剤がないと混ざらないわけですね!
気になるのが、この「乳化剤」という言葉だけ聞くとなにか薬のようなものを想像してしまうのですが、実際どうなんでしょうか?

CASTさん:乳化剤は、確かに薬品か化学調味料のような名前ですが、必ずしもそういうわけではありません!
食品添加物として作られたものは加工食品など様々な場面で使われていますが、 自然の食材の中にも乳化剤の成分が含まれているものがあるんですよ!
自然の食材の中に含まれるものとして例えば、油の仲間の「レシチン」という脂質(リン脂質)、そして「カゼイン」というタンパク質などがあるんです。
この2つは代表的な乳化剤で、どちらも自然な食べ物に含まれる成分なんですよ。

 

ーーちなみにこのふたつの成分が乳化剤となってできた食べ物って身近なものでもあるんですか?

CASTさん:ありますね!
例えば、みなさんのご家庭にもよくあるものだと思いますが、卵黄を使って作るマヨネーズや牛乳なんです! レシチンは卵黄に含まれるので、卵黄を使って作るマヨネーズに、カゼインは牛乳に含まれています!

 

牛乳、マヨネーズも「乳化」なしでは成り立たない!

ーーえっ!牛乳もマヨネーズも「乳化」しているんですか!?

CASTさん:そうなんですよ!乳化という言葉がそもそも「白く濁って牛乳のようになること」なんですよ。
牛乳には、「乳脂肪(にゅうしぼう)」という白い膜に覆われた小さな油のつぶつぶが含まれています。
それを「乳化剤」の役割を担うタンパク質の「カゼイン」が、水分と乳脂肪(油)の仲介役になって、うまくつないでくれるんです。
結果として白い乳脂肪が浮いたり分離したりせずに、水と一体となって白く均一な見た目になるんですよ!

 

ーーそうだったんですね!面白いですね!
牛乳の白さのもとは、白い膜の乳脂肪が乳化しているからなんて…そもそも牛乳が白い理由も考えたことが無かったです!

CASTさん:面白いですよね!
そして、マヨネーズは酢と塩、油、そして卵黄でできています!
ここでは卵黄にふくまれている「レシチン」が乳化剤として働いているんですよ。
この「レシチン」があることで、油が細かく分かれて酢の中に混ざり、トロッとしたなめらかなマヨネーズになるんです。
乳化がなかったら、マヨネーズのあのねっとりしたクリーミーさは生まれないということですね!

 

ーーなるほどなぁ、乳化したことで食感に影響することなどもあるんですね!

CASTさん:そうなんです、乳化は料理に色んな変化を起こしてくれるんです!
ここでお話しした「レシチン」と「カゼイン」はほんの一例ですが、乳化剤となる成分は他にもいろんな種類があるので、調べてみるとまた新たな発見があるかもしれませんよ!

 

乳化ができていないと、味にも影響?

ーー ここまでマヨネーズ、牛乳と例をあげていただきましたが、乳化しているもの、していないものを比べると何か特徴はあるんでしょうか?

CASTさん:乳化をしているものの特徴としては、まず見た目にあります。
乳化しているものは、全体が均一に濁るので、混ぜたい水分と油分の状態が濁っていればうまく乳化ができた状態です。
逆に油が浮いているなど均一ではない状態であれば、乳化ができていないということになります。

 

ーー今、見た目と聞いて思い出したのですが、良くペペロンチーノなどのオイル系のパスタを食べる時に、お店によってはオリーブオイルが浮いている状態でパスタにベトッと残っているものと、オリーブオイルがドレッシングのようなソース状で、パスタにトロッと絡んでいるものがありますよね! これが乳化出来ているか出来てないかの違いということですね!

CASTさん:いい視点ですね!
その場合は麺から出たデンプンが乳化剤の役割になるんです!
麺に含まれるデンプンが茹でた時にお湯に溶け出すので、その麺から溶け出したお湯をオイルに合わせればデンプンが乳化剤となって乳化できるのだと思います。乳化できているものと、できていないものでは少し味や食べた時の印象も違いませんか??

 

ーー違うんですよ!乳化できていないほうは、味が単調というか、バラバラな感じがするし、“油を食べている感覚”にもなります(苦笑)。でも、ソース状のほうがパスタに絡むし、味が調和してて美味しいと感じます!やっぱり味にも影響しそうですね!

CASTさん:そんな風に味が調和して美味しいと感じさせてくれるのも「乳化」することの特徴です!先ほどのマヨネーズは、乳化で作られる調味料の代表ですが、 他にもドレッシングも乳化によって色んな成分を調和させて一つの味を表現しているんです。

 

ーー奥が深い…..それぞれの味を乳化によって一つの味にするというわけですね!
これは乳化するか、しないかで食体験も変わってきそうですね!

CASTさん:はい、乳化されているものと、そうでないものを食べるのとでは、食体験も変わると思いますよ!
本来混ぜることのできない成分を混ぜ合わせることで、味・舌ざわりなどが変わるところが、乳化の大きなメリットではないかと思います!
例えば、ビンやボトルにはいった使用する前のドレッシングを思い出してみてください。
使う前は、容器の下に液体、上に油といったように分離している状態になっていることはないですか?この状態の時、大体の人が容器を振ったり、ドレッシングを混ぜたりしてから使いますよね!

 

ーーその経験あります!
わたしも分離している状態だったら、ドレッシングのボトルをシェイクしてから使います!そうすると、トロッとなりますよね….あっ!これってわたしも無意識に乳化をやっていたんですね(笑)!

CASTさん:はい(笑)!
色んな人が乳化をしてからドレッシングを使っているんじゃないかと思います!
今、シェイクするとドレッシングがトロッとなると言っていましたが、水と油に含まれている成分が混ざり合うことで、先ほどのパスタソースと同様にとろみがつき、なめらかな味わいになったり、口当たりや舌ざわりも変わってきますよね。

 

乳化には“ちょうどいいバランス”も必要

CASTさん: そして、乳化をうまく成功させるためには、「水」と「油」のバランスもとっても大事なんです。
例えば、水の中に油を分散させたいとき、油が多すぎると乳化剤が細かくできず、すぐに分離してしまいます。逆に、油の中に水を混ぜたい場合も、水が多すぎるとうまく混ざらず、ポツポツと水玉のように分かれてしまいます。乳化剤の量、水と油の量のバランスを考慮することが必要なんです。

 

ーーなるほど!ただ乳化剤があっても、それぞれの量のバランスが悪ければうまくいかないんですね。

CASTさん: そうなんです!だからこそ「どちらをどれくらい混ぜたいか」を考えてちょうどいい割合を見つけていくことが大切なんですね。
料理に合わせて、油と水の量を調整していくということが、見た目や味、なめらかさに大きく影響してくるんです。
バランスや種類のお話の説明は少し複雑になってしまうかもしれないので、詳しく知りたい方は、深掘りしていくと色んなパターンが見つけられて面白いと思いますよ!

 

ーーやっぱり色々と奥が深そうですね!自分でも乳化されている食品などに注目して調べてみます!

CASTさん:はい!ぜひ調べてみてください!そして、ここまでのポイントとして説明しいてきた

・乳化剤を使うこと
・水と油のバランスを整えること

このふたつをおさえたら、あとは…とにかくしっかり混ぜるというフェーズにはいります。 手で混ぜるのも良いですし、ものによってはミキサーを使うのも良いですね。水と油の分子たちに「さあ、仲良くしよう!」と伝えるように、しっかり混ぜて乳化を完成させていきましょう(笑)!

 

水と油を混ぜて、美味しさを“乳化”(入荷)しよう!

今回の『美味しい科学』乳化編はいかがでしたか?

料理は、感覚や経験も大事。
でもそこに少しだけ「科学の視点」が加わると、見えてくる世界が変わります。

「水」と「油」が分かれている状態を見るたびに、「あっ、ここで乳化ができるかも!」と発見したり、ドレッシングやソースを混ぜるときに「今、乳化してるな〜!」とちょっと楽しくなったり。

乳化は見た目や口当たりをよくしたり、味そのものを整えてくれる“美味しさのつなぎ役”なので、料理をする時にちょっと意識するだけで、料理の完成度も変わります。

そんな食体験を変えてくれるかもしれない「乳化」という美味しい科学を日常に活かしてみてはいかがでしょうか?

 

さて『美味しい科学』、次回のテーマは『味覚』です。
味覚には “ 舌 ” だけでは語りきれない、科学の謎がひそんでいるんです!

 甘い、しょっぱい、酸っぱい、辛い、それだけじゃない、“美味しい”ってなんだろう? 食べることがもっと楽しくなる「味覚」の世界を、CASTと一緒に科学的視点で探ってみましょう!  次回もお楽しみに!

 

ライター / Mo:take MAGAZINE 編集部

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Mo:take MAGAZINEは、食を切り口に “今” を発信しているメディアです。
文脈や背景を知ることで、その時、その場所は、より豊かになるはず。

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