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抽出家、藤岡響さんに聞いてみた
2022.11.17. | 

[Vol.2]「煮出す」?「浸す」?素材の良さを引き出す抽出方法:抽出のプロ、藤岡響さんに聞いてみた

ドリンクやフードの世界で、近ごろ「抽出」が注目されていることをご存知ですか?美味しさや成分をさまざまな方法でひきだす「抽出」。その奥深さに魅せられ、抽出を探求し、広めているのが、抽出家の藤岡響さんです。Mo:takeサポートクリエイターでもある藤岡さんに、編集部メンバーが「抽出」のことを教わります。皆さんも、藤岡さんと一緒に抽出の世界をのぞいてみませんか?

うまみや成分をひきだす「抽出」。どんなひきだし方がありますか?

抽出家の響さん、こんにちは。

連載第1回で、身近なところに抽出の技術が使われていることが分かり、抽出の世界がぐっと身近になりました。響さんには抽出=「素材のうまみや成分をひきだす手法全般」と教えてもらいましたが、ここをもう少し詳しく知りたいな、と思っています。

そこで、気になっていることを2つ質問させてください。第1回のお話から、抽出には大きく分けるとお湯で「煮出す」パターンと、水や油に「浸す」パターンがあるのかな、と想像していますが、他にもやり方はあるでしょうか?「これはこんな風に抽出しているよ」というものがあれば教えてください。

また、「煮出す」と「浸す」など、それぞれの抽出方法にはどんな違いがありますか?例えば、わたしはいつも夏に麦茶をつくるのですが、パックを煮出すか水の中に入れておくかで少し迷います。手間や味の点で(また、そもそもこれは水の中に入れておいても抽出できない!なども含め)、違いを教えてください。

質問者/八田 吏(はった・つかさ)

 

抽出方法は「素材」と「目的」で決まる

ご質問ありがとうございます。これまた説明すると長くなりそうな話題ですね。

ご質問にあった通り、家庭でできる主な抽出法は、「浸す」と「煮出す」の二種類です。「浸す」抽出はミント水やレモン水などで、「煮出す」抽出は、出汁やお茶などで用いられるかと思います。
またその他の抽出法としては、コーヒーで使われる透過法(ドリップ)や加圧式(エスプレッソ)などもあります。

抽出を行う際にはまず、扱う素材の中にどんな成分が含まれているのかを分析し、扱う素材のどの部分を引き出したいのか、または引き出したくないのかを考える必要があります。その上で、「浸す」のか「煮出す」のか、また抽出にかける時間や温度を決めていきます。

また、「水に浸けても抽出されにくいものとは?」とのご質問ですが、簡単に言うと、硬めの素材はそのままでは成分が抽出されにくいと思います。
たとえば、珈琲も硬い豆のままだと成分を引き出しにくいので、必ず挽いて抽出しますよね!?ですから、ホールスパイスなど殻に覆われているものなどは、必ず潰したり、挽いたりしてから浸すといいですね。それだけで成分が引き出しやすくなります。

このように、硬めの素材は切ったり潰したりして、水と触れ合う表面積を増やしてあげる必要があります。また、スパイスは香りの成分も多いので、ポテンシャルを最大限引き出すならば、漬けるより煮出すのが向いている素材ですね。

 

抽出したい成分に合わせて抽出方法を工夫する

ここからはさらに細かく抽出について説明していきますね。まずは、素材に含まれる成分について。

まず、素材に含まれる成分には、水に溶けやすいものと、油に溶けやすいものがあります。水に溶けやすい性質を「水溶性」、油に溶けやすい性質を「油溶性」と言います。

また、お茶やハーブなどには華やかな香りが特徴のものが多く、その香りを生み出している成分として香気成分等があります。

これらの成分には低温でも溶け出しやすいものと、高温にならないと溶け出しにくいものがあり、その点を考慮して、レシピを考えていきます。

 

旨みを引き出し雑味は引き出さない。出汁は繊細な温度管理がコツ

少し難しくなってきたので、ご家庭で扱われる機会の多い出汁を例に考えてみましょう。

かつお節や煮干しのうま味成分として知られるイノシン酸や、昆布のグルタミン酸、干し椎茸のグアニル酸はいずれも水溶性なので、煮出しでも水出しでもどちらでも溶け出します。そのため、どちらでも美味しい出汁を取る事は可能です。

では、どういった違いがあるのでしょうか?

まずは、抽出する際の水の温度です。

簡単にいうと、抽出する際には温度が低いと成分は引き出しにくくなり、高いと引き出しやすくなります。

煮出す方法は高温で抽出を行うため、多くの成分を効率よく引き出す事が出来ます。

水出しだと成分が溶け出す速度はゆっくりですが、エグミや苦味などが出にくくなるメリットがあります。

それぞれレシピによって抽出される成分のバランスが異なって、味わいが変わるということです。

例えば昆布ですと、70℃以上の高い温度だとアルギン酸などが溶け出します。これが雑味の原因になると言われています。
また長時間漬けこんだり、高温で煮出した場合は旨み成分以外の成分、βカロチンやクロロフィル、ミネラル類が溶出し、濁りや雑味の要因になったりします。

また、かつお節ですと、70℃付近が香気成分が溶け出しやすいとされ、85℃付近が旨み成分であるイノシン酸が溶け出しやすいといわれています。
ただし、高温になればタンパク質等が溶け出して、濁りや雑味の要因になります。70℃以上の高温になるほど香りの成分も揮発していくので、味わいを厳格に引き出すには温度のコントロールが重要なんです。

 

旨みは低温、香りは高温。楽しみ方によってお茶の淹れ方が変わる

うま味成分を多く含むお茶の場合も基本的な考え方は同じです。
一口に「お茶」と言っても、うま味を楽しむお茶もあれば香りを楽しむお茶もあるので、その点を考慮して淹れていきます。

玉露やかぶせ茶などのうま味が強いお茶はうま味の成分であるテアニンなどが多く含まれています。うま味成分は溶け出しやすい成分なので低温で抽出を行うと良く、高温になればうま味以外の成分が溶け出しやすくなり、雑味の要因になります。

香りを楽しむお茶や渋味を効かせたいお茶。これには紅茶などが当てはまるかと思いますが、香気成分や渋味の元になるポリフェノール類(カテキン、タンニン等)は溶け出しにくい成分なので高温が適しています。

つまり、うま味を活かしたい場合は低温や短時間抽出、香りや渋味を活かしたい場合は高温や長時間の抽出を行うとイメージに合う抽出になりやすいという事になります。

ちなみに私の本業である珈琲の場合では酸味の成分は溶け出しやすく、苦味の成分は溶け出しにくいです。
その為、抽出法を選び、温度を調節したり、浸す時間を変えたり、細かく挽いたりと様々な成分を引き出す為に色々と試行錯誤をしています!

と、またまた長くなってしまいましたが、だいたいのところは理解いただけたでしょうか?

 

次回は、抽出家の響さんが今までに体験した「不思議な素材の抽出」について伺います。お楽しみに!

ライター / 藤岡 響

2005年よりバリスタの道を志す。cafékitsune 等、多くのカフェ、コーヒーショップの立ち上げに携わり、2015年ブルーボトルコーヒー清澄白河の立ち上げに参画。トレーナーとして多くのバリスタの育成に携わる。日本の日常に寄り添う独自のカフェスタイルの構築を目指し、2018年西荻窪に「Satén japanesetea」をオープン。2020年より独立、珈琲に限らず、水を介して抽出する抽出物全般を扱うバリスタとしてコーヒー、日本茶等の商品開発、店舗監修、専門学校講師等を行なっている。ユニット香飲家としても活動し、著書に「飲食店の為のドリンクの教科書」がある。

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