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抽出家、藤岡響さんに聞いてみた
2023.01.05. | 

[Vol.3]魚、肉から虫、薬草まで。世界の不思議な「抽出」の話:抽出のプロ、藤岡響さんに聞いてみた

ドリンクやフードの世界で、近ごろ「抽出」が注目されていることをご存知ですか?美味しさや成分をさまざまな方法でひきだす「抽出」。その奥深さに魅せられ、抽出を探求し、広めているのが、抽出家の藤岡響さんです。Mo:takeサポートクリエイターでもある藤岡さんに、編集部メンバーが「抽出」のことを教わります。皆さんも、藤岡さんと一緒に抽出の世界をのぞいてみませんか?

今まで抽出したものの中で、いちばん不思議だったものは?

響さん、こんにちは。

響さんの連載を読み始めてから、煮干しや昆布など、身近にあるいろいろなものを抽出してみています。抽出する時間や温度によって味がかなり変わって、実験みたいで面白いですね。

先日、居酒屋さんで「イカ徳利」を初めて見ました。乾燥したイカでできた銚子やお猪口の中に温かいお酒を注いで楽しむんだそうですね。お酒の中にイカのうまみが溶け出すので、イカ徳利も「抽出」の1つだと言えるでしょうか。けっこう変わり種の抽出って、他にもいろいろありそうですね。

響さんはこれまで、抽出家としていろいろなものの良さを引き出してきたと思いますが、これまで抽出したもののなかで、いちばん変わったもの、不思議だったものがあれば教えてください(食べ物でも、食べ物以外でもいいです。)私もぜひやってみたいです。

質問者/東京都 Nさん

 

世界中で抽出される意外な物たち

Nさん、ご質問ありがとうございます。
イカ徳利、非常に興味深いです。
お酒にイカの成分が溶けていくので、これも抽出と言えるでしょう。

今までで抽出した不思議なもの。毎回思いますが、また難しい質問ですね(笑)。

一般的には飲料では喉を潤したり、食事と共に愉しんだりという観点からそこまで凝ったり、癖のある抽出というのは珍しいかも知れません。

ただし、飲料メインで楽しむバーなどでは、野菜、果物やハーブなどを使ってカクテルを作る「ミクソロジスト」の方が多様な抽出に挑戦しています。
私も活躍の場は気軽に利用しやすいカフェの業態ですが、飲料の奥深い世界や抽出という技術の幅を一般の方にも知ってもらいたいので、珍しいものや変わった食材などにも常にセンサーを張っています。

また、「調理」の広いくくりから見ると、虫系、薬草系、肉系、魚系、スパイスなどなど、意外となんでもありの世界だと思っています。

私は今、スパイス料理にハマっていて、どうしてもスパイスのことばかりになってしまうのですが、お答えしますね。

インドや中東のエリアで良く食べられるビリヤニはご存じでしょうか?スパイスと肉の炊き込みご飯のことです。炊き込むときに肉から抽出されるエキスがスパイスとあいまって、味の決め手になります。

「羊のエキス」というと珍しく感じるかも知れませんが、マトンから抽出される成分と一緒に炊き上げるマトンビリヤニは意外とよく食べられているのではないでしょうか。

このように、変わったお肉の抽出が絡んだ料理は世界中に存在します。
日本でも沖縄のヤギ汁等、郷土料理だと意外な食材が抽出されていたりもしますね。臭み消しにヨモギや生姜を使ったりするのも抽出です。ヨモギは割と珍しいですかね。
世界の変わった料理だと、猿を煮込んだものもあります。煮込んで抽出する系は、なんでもありです!

カフェでは女性のお客様が多いので私はあまり使わないですが、世界に目を向ければ、一部のレストランやバーでは昆虫等も良く使われています。

タガメは梨の様なフルーティーさがあったり、コオロギやカマドウマなんかは旨味があるのでスープで使われていたりと、多様性があります。餌や飼育環境で含まれる栄養素や成分が変わるという話も耳にします。
旨味を強めたり、香りを強めたりも飼育次第でできるとなると、可能性を感じますね。

最近ですと、私は更にスパイスの延長で薬草系にも興味を持っており、国内の珍しいものを探しています。
「日向当帰」という日本原産の薬草も試したことがあります。
江戸時代から薩摩藩で門外不出とされ重宝された薬草です。
日本産の高麗人参の様なものです。

ただ薬効となると苦味があるものが多く使い方は難しいのですが(笑)。
その他の薬草もボタニカル系の飲料では良く使われていますね!
冗談で良く言うのですが、道端に生えてる雑草でも煎じれば飲めるかもしれないですよ。

様々な素材が世界には存在しているので、私も「飲料」「料理」というくくりはせずに、探求し続けたいと考えています。

最後に質問の答えですが。実は、今まで抽出してきてずっと不思議だなと思っているのは、本業の珈琲です。

農作物である以上、毎年同じものに出会う事はありません。

コーヒー器具や抽出の技法は、進化し続けています。
お客様の志向の変化や常にアップデートされていくので、長く携わってきていても新しさがあります。
そう考えると、抽出に気軽に触れられる入口のようでもあり、長く飽きない不思議な素材ですね。

 

ライター / 藤岡 響

2005年よりバリスタの道を志す。cafékitsune 等、多くのカフェ、コーヒーショップの立ち上げに携わり、2015年ブルーボトルコーヒー清澄白河の立ち上げに参画。トレーナーとして多くのバリスタの育成に携わる。日本の日常に寄り添う独自のカフェスタイルの構築を目指し、2018年西荻窪に「Satén japanesetea」をオープン。2020年より独立、珈琲に限らず、水を介して抽出する抽出物全般を扱うバリスタとしてコーヒー、日本茶等の商品開発、店舗監修、専門学校講師等を行なっている。ユニット香飲家としても活動し、著書に「飲食店の為のドリンクの教科書」がある。

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