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Food Future Session
2021.07.06. | 

[Vol.3]合理化するところ、時短させてはいけないところを見極める【べジパング × Yuinchu】

長野県原村で、自分たちで希少品種のとうもろこしを独自農法で生産し、地元の特産品を目指してブランディングした『八ヶ岳生とうもろこし』の販路を切り開いている株式会社べジパングの折井祐介さんと、柳沢卓矢さんと、Mo:takeの小野正視と坂本英文との座談会。会の後半は、合理化と時短を軸に、話が進んでいきました。

生産物や商品のストーリーを味わったり、体験を重視するという方向性とは、真逆ともいえる合理化と時短。果たして両者は同時に成立するのでしょうか。

今回の座談会には、事前に複数のトークテーマをおみくじ形式で用意。登場4人それぞれに1枚ずつ引いてもらい、引いたテーマについて、4人で話していただきました。

今回4人が選んだテーマはこちら。

ー食と向き合う時間の最大化/折井さん
ー時短についてのトピック/坂本さん
ースキルと食で広がる可能性/柳沢さん
ー自らつくれること、つくれることの重要性/小野さん

ストーリーの存在が価値を最大化する

 

小野:それでは、折井さんが引いたテーマ「食と向き合う時間の最大化」にいきましょうか。

 

折井さん:農業をしている僕は世の中の人よりも食べ物に関わっている時間が長い分、野菜の価値をそのストーリーの部分から知っています。だからこそ、農業はすごく価値がある産業だと思うし、さらに言えば、生き方を含めて素晴らしいものが農業には詰まっているなと思ってはいます。

ただ、それが一個の食材として届いた時にはそのストーリーや農業の素晴らしさといった部分がそぎ落とされて伝わってしまうので、その価値をどうやって最大化するか、とういうのが課題だと感じています。

 

小野:今のお話、すごく共感します。まさに「こういう経緯で農家になった」「だからシェフになろうと思った」という背景を伝える機会がないからこそ、僕はこのMo:take MAGAZINEを作ろうと思ったんです。

食に関わるすべての人たちに対してそれはできないけど、少なくとも僕らが関わった人たちのバックストーリーを紡ぎ続けられる場を作っていくこと。それこそが価値の最大化だと思うんですよ。

 

坂本:食というのは、人間が生きていくうえで誰しもが通らなきゃいけないところですよね。だからこそ、一つ一つにストーリーを感じるのがすごく大事なんですよね。

僕が引いたテーマ「時短についてのトピック」に関わってくると思うんですけど、ストーリーを感じるとか、どういう体験ができるかという考え方は、時短に逆行するものだと思うんですよね。

だからこそ、合理化して時短するところはするけれど、逆に長くするところは長くするということの判断や、その価値観を自分の中でどう考えていくか、というのがすごく大事なんだろうな、と思います。

 

 

一番の旬だからこそ感動のおいしさがある

 

小野:料理する時間は短くても、食べるのはみんなでゆっくり食べたいという人もいれば、前後のストーリーをじっくり調べるのは好きだけど、料理時間も食べる時間もできる限り短くしたいという人もいると思うんです。価値を最大化するために短くすべきところ、味わうべきところ、どこに重心を置くかは、個人によってもそれぞれ違いますよね。

 

坂本:作ることが楽しい人もいるし、作ることより食べることの方が楽しいという人もいますしね。

 

柳沢さん:僕は旅行先でおいしいものを食べることを旅行の一番のテーマにしていて、旬のものを一番旬の時に食べるということを意識的にやっています。というのも、自分たちの商品が、旬の中でもどこが一番おいしいか、というのを言える人間になりたい、そのためには旬の美味しさを知らないと伝えられないと思ったんです。

 

折井さん:柳沢と一緒にいろんなところに行きましたけど、佐賀の呼子(よぶこ)という何もない港町で食べたイカの活き造りと揚げ物がびっくりするくらいおいしくって、阿蘇山よりも高千穂峡よりも、そのイカが一番印象に残っているんですよ。

僕たちも、八ヶ岳に遊びに来てくれた人たちに「何と言ってもあのとうもろこしがおいしかった!」と言わせられるくらいの価値を生み出したいなと思いますね。

 

柳沢さん:旅先で旬のものを食べる経験をしていると、おいしいものを食べた時に気持ちが上がるし、食べた瞬間に幸せだなと思う感動もある。そんな風に身近にあるんだけど、日常に幸せ感を与えてくれるのが食なんだな、とあらためて感じますね。

 

 

栄養補給としての食にするか、時間をかけた“食体験”にするか

 

小野:今聞いていて驚いたのが、僕もまったく同じ体験を坂本さんにさせてもらったことがあって。坂本さんが福岡の出身なので、呼子のイカが食べられるお店に行ったんですけど、すべての思い出が塗りかわるぐらいの強烈な印象だったんですよね。

食べることって、ともすると「昼飯食わなくちゃ」みたいに“業務”になっちゃう場合もあるじゃないですか。そういう食の頻度が限りなく高い人にとっても、呼子でのイカの体験のように、食の価値を最大化するような時間を生み出していきたいですね。

 

折井さん:僕も普段は食事をしていると、柳沢に「ただ栄養補給のためだけに、ガソリンを入れるように食べるね」と言われるんですけど、そういう時もあるし、感動して記憶に残る食もありますよね。

 

小野:僕はなるべく自分の食体験には時間をかけたい、合理的でありたくないと思っています。でも、そのためには他のところを時短しないと食にかける時間を生み出せないから。合理化できるところは合理化して、30分でサクッと済ませられる食事にあえて1時間以上かけるとか。

 

折井さん:人間らしく生きていける部分は時短しない方がいいですよね。そこすら時短しちゃうと、何のために生きているかわからなくなっちゃうので。

 

小野:最近、それを切実に思いますね。時短するにしても、何が自分にとって価値があるか、というところからスタートしないと、ただの短縮になっちゃいますね。

 

 

最終回は、7/8(木)に公開予定です。テーマに沿って自由に話してもらった座談会は、一体どこに着地するのでしょうか。旬が短いことはデメリットなのか、お金では測れない農業の価値って何? など、これまでの3回に納まりきれなかった内容にも触れていきます。(つづく)

 

 

– Information –
http://hamarafarm.com/

 

Food Future session ゲストプロフィール

折井祐介(おりい・ ゆうすけ)
株式会社ベジパング兼HAMARA FARM代表
高校卒業後、カナダの短大に留学。帰国後、東京で個別指導塾の講師と遺跡発掘のアルバイト生活後、地元に戻り結婚式場、大手旅行代理店に就職。2011年に旅行代理店を退職し就農。「HAMARA FARM」を設立。2015年に生鮮野菜卸会社の株式会社ベジパング設立。夢はトレジャーハンターになること。

柳沢卓矢(やなぎさわ・たくや)
株式会社ベジパング取締役・HAMARA FARM代表
Mark&Burns Consulting合同会社代表
東京の専門学校で会計士の知識を学び、大手自動車メーカーの営業として就職。後に故郷長野へ戻り同自動車メーカー、大手音響機器メーカーでキャリアを重ね、折井氏とHAMARA FARM・株式会社ベジパングを設立。2018年には東京でパッケージやVMD、税理士と共に財務やFPを含め提案するMark&Burns Consulting合同会社を始めた。侍が好き。愛読書は新渡戸稲造の「武士道」。

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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