2022.05.12. | 

[Vol.2]デザインと事業をシームレスに考える。「STUDIO HOLIDAY」堀内弘誓さん

「成り行きで意図せず」始まったクラフトコーラの開発・販売に続き、縁あってキッチンカー事業も始めることになった堀内さん。自らプロダクトを販売する事業側に立ったことで、デザイナーとしても得られることがたくさんあったそう。事業を手がけながらもデザインを軸足にして活動する堀内さんが感じたことをお聞きしました。

キッチンカー付きの不思議な物件に出会ったのが始まり

デザイン会社を経営している堀内さんが手がける「HOLIDAY LAB」。商品開発をしているキッチンをしている事務所の隣には駐車スペースがあり、かわいいキッチンカーが停まっています。前回うかがったクラフトコーラとの偶然の出会いのように、キッチンカーとも不思議な縁で出会ったそうです。

ーーキッチンカー事業を始めたきっかけは?

 

堀内さん:最初は特にキッチンカーをやりたいとは思っていなかったんですよね。商品開発ができるキッチンスペースが借りたくて物件を探していたら、キッチンカーが「ついてきた」んですよ。

クラフトコーラの2作目を自分たちで開発していたときは、リモートワークでスタッフが自宅で作業をしていたんです。でも、リモートだと、試作して他のスタッフの自宅に送って試飲するという形なので、タイムラグがあって意思の疎通がうまくいかないなという感覚があったんです。

そこで手頃なキッチンスペースを探していたら、駐車場にキッチンカーが停まっている物件に出会ったんです。オーナーさんがキッチンカー事業をやってたんだけど、いろいろあって事業は辞めることになったと。それで、「キッチンカーを買ってくれた人優先にこの場所を貸します」という不思議な条件が付けられていたんです。そんな面白い物件、なかなかないですよね?(笑)

どうしますか?と言われて「はい、買います」と。その時まで、キッチンカー事業をやることなんて、一切頭になかったんですが……。でも、キッチンカーがあるデザイン会社っておもしろいなと思ったのと、僕の妹が料理人で、たまたまコーラ開発のヘルプとして社員になったので、「キッチンカー事業ができるんじゃないか?」と思ってスタートしました。

それで、キッチンカーを売ってくださった方から「事業継承」のような形で什器や機材だけでなく、いろんなノウハウもそのまま譲り受けて始めることになったんです。仕入れ先からメニュー、売上データまで継承させていただいて、今は日本橋と神宮前(原宿)で、ロコモコ丼などのお弁当を販売しています。

僕は、こういう偶然の出会いを結構大事にするところがあるかもしれないです。普段の仕事では割とロジックで考えることが多い分、偶発的なことを受け容れた方が自分では思いもしない可能性が広がって突破力が上がったりするし、第一その方が面白い、って思ってるんです。

 

「おしゃれすぎる売れない」。 
事業側に立ってわかったこと

ーーデザイン会社でコーラを売ったりキッチンカーを出したり、自ら物を売ってみてどうでしたか?

 

堀内さん:休日COLAの販売開始から1年で、キッチンカーはまだ始まってから4ヶ月ほどですが、いろんな気づきがあって、めちゃくちゃおもしろいですね。今まで自分がやってきたデザインの仕事と値付けの設定から違います。デザイン費の場合は百万単位で金額設定することもありますが、お弁当は10円単位。

例えば、ロコモコカレーを850円から900円にしたら目に見えて売り上げが悪化したので、また890円に下げてみたり、とか。一方では万単位の見積りつくってるのに、一方では10円下がったらどうなるかと試行錯誤してみたり。当然なんですが、数字の感覚が違うのがすごくおもしろいですし、現場に立ってお客さん一人ひとりを目の前にすると気づくことが多くあります。

デザインの仕事をするときってエンドユーザーと触れ合うことって実は少ないんです。もちろん、デザイン自体はエンドユーザーのことをめちゃくちゃ考えて行いますし、エンドユーザーの生きた声を拾いたいっていつも思ってますが、デザインを納品してしまったら、その先どうなったのかを全て追いかけられるわけではない。

実際、自分でお弁当を売ってみると、「おしゃれすぎると売れない」こともあるんだって気づくんです。現場で売ることを考えたら「おしゃれ」なんて全部かなぐり捨てた方が効果があったりします。しかも、自分で稼がなくてはいけない、事業として成り立たせないといけないとなると、本当に売るために何ができるか?というリアルな部分を真剣に考えなくちゃいけない。

 

ーーそれによって、デザインすることにフィードバックできることはありますか?

 

堀内さん:事業側の実感値を持ちながらデザインができるようになるというのは、自分の中でとてもいいことだなと思っています。デザインの仕事でクライアントと話をする時も、「実は僕もお弁当を売ってるんですよ」という話をすると、説得力が違うなと思うんです。

クライアントにとっては、デザイナーが自分の事業をどれだけ理解しているのか、そのうえでどういうデザインをしてくれるのかが非常に重要だと思うんです。自社事業をしていることでクライアントの言葉に共感できるようになります。クライアントへの共感性が高まるのは、デザイナーにとって非常に良いことだと考えています。

 

自分が得意なこと、一番の強みは、デザイン

ーー事業側のおもしろさを感じながらも、ご自身の軸足は「デザイン」なんですね。

 

堀内さん:やはり、僕が得意なのはデザインなんです。自分で絵も描きますし、ロゴも作りますし、フィニッシュワークも含めてワンストップでできます。在庫もないし収益性も高い。もしかすると自社事業だけで会社運営をする道もあるのかもしれませんが、現時点ではデザインの仕事は続けていきたいと考えています。

それに何より、僕はデザイン側のおもしろさをたくさん知っています。デザイナーとして、ビジネスサイドの理屈やロジック、言語が理解できる。ビジネス言語を理解してコミュニケーションができるデザイナーであるというのが、僕の一番強みだと思っています。

それは独立して食の事業をやる以前の、広告代理店時代から感じていたことでもありましたね。

 

次回は5/17(火)に公開予定です。
デザイナーであることと、食の事業をしている経営者であることが相互に影響しているという堀内さん。次回は、広告代理店時代に手がけたミスタードーナツの「ポン・デ・ライオン」誕生秘話や、今後の展開についてお話をうかがいます。

 

– Information –
株式会社STUDIO HOLIDAY
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休日COLA
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キッチンカー事業
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ライター / 東 麻吏

紙媒体の専門誌副編集長、webメディアの編集長を経て、フリー。ライティングや編集のほか、コンテンツコンサルとしてメディア制作・運営のサポートや「伝える講座」も行う。個人活動で親子のハイキングイベントを主宰。

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