レモン、ヤクルトに三ツ矢サイダー
日本酒に「ちょい足し」で美味しくなる!?
ーー日本酒が美味しくなる「ちょい足し」って、なんですか?
小原さん:日本酒に、数滴のレモン果汁を加えたり、ヤクルトをちょっと入れたり、あとは三ツ矢サイダー入れるとか。
ーー直接、日本酒に入れちゃうんですね!?
小原さん:はい。特にレモンは劇的に変化しますよ。3滴でグラス1杯の味が変わったり。
たまにお土産でもらったり田舎で買ったりする、コクが強すぎたり、酸味がないお酒があるじゃないですか。あれに手を加えると、よりさっぱりと美味しく、飲みやすいお酒になりますよ。レモンが輪郭をキリッとシャープに作ってくれるんです。
ーー美味しく飲むために、色々試した結果見つけたんですか?
小原さん:レモンをかけた料理とお酒が口の中で一緒になった時に感じた味の変化に気づいてから、だったら日本酒に加えてもいいんじゃないか、と思ったんですよね。
夏の今なら、日本酒に凍らせたスイカをひとかけ入れたりしてもいいと思いますよ。
ーーとっても涼しそうでいいですね。でも、ヤクルトはちょっと想像できません(苦笑)
小原さん:ヤクルトは香りと甘みのちょい足しです。日本酒そのものとしては、ヨーグルトの香りがすると、ちゃんと醸造できていない証拠のように言われてしまうのですが、実際に飲んでみるとヨーグルトの香りって美味しいんですよ。
サイダーは酸が加わるので、最近の日本のトレンドになっている発泡感が出ます。甘みと酸味、炭酸感が増すだけで、急にスタイリッシュな日本酒に仕上がります。
ーーへえ、すごいですね。どれくらい足すんですか?
小原さん:スプーン1杯でもすごく変わるので、入れすぎには気をつけた方がいいですが、もうそこは全然お好みでいいと思います。
「セーラー服おじさん」や「和風のおかみ」
味のイメージを違う表現に変換する
ーー日本酒に何かを混ぜるって、大胆ですよね。
小原さん:世の中の風潮としては日本酒は絶対に混ぜちゃいけない、単品で飲むべきだ、とされていますが、僕は混ぜることに自由さを感じています。
僕は「美味しくなきゃいけない」というのもあんまり好きじゃないんです。「美味しい」「美味しくない」という味の表現だけだと、1回美味しくないと思った日本酒が見捨てられてしまいます。
でも、例えばおじさんくさいような味があったとしたら、それをきらびやかに見せようとして、例えばフレーバーティーを入れてみたら、そこに対して色々なアプローチをかけてみたら、「セーラー服おじさんみたいな味になっちゃった」とか。
ーーセーラー服おじさん!(笑)
小原さん:すごくいびつですけど、そういう表現ができたら、結果的にまずかったとしても楽しめるんですよね。美味しくないけど楽しい、みたいな。それができるのがちょい足しの面白さであり、その表現が身につきさえすれば、もっと楽しくなります。
ーーセーラー服おじさんと表現するボキャブラリー、表現力はすごい才能ですね。
小原さん:伊勢五本店で働いてた時もそうしていましたが、味のイメージを違う表現に変換するんですよ。甘みは「可愛い」に、酸味は「ちょっと爽やか」とか。
伊勢五本店に勤めて間もないころ飲食店さん向けの試飲会で、あるお酒を「すごい巨乳の水着ギャルが、瞬きしたら一瞬で和風の女将みたいになります」と表現したら、最初はみんな「またまたー」と言うんですけど、飲んだら「マジでわかる!」と言って、バカ売れしたこともあります(笑)
MUJOでもお酒を出す時に「夜、香水をちょっとだけつけたお姉さんが隣に座って、席を立った瞬間にフワッと何かいい香りがしてきたけど、振り向いたらもういない、みたいなそんな感じの日本酒です」とか言ってます(笑)
ーーすごい表現力!
小原さん:日本酒に限らずワインやウイスキーもそうですが、漠然と「美味しい」で終わっちゃうところを、可愛いとか爽やかという表現に変えることで「これがカッコいい部分だ」「これが“可愛い”だ」と、舌がそれを探すように飲んでくれるんですよ。なので、味わう時の手助けになるんです。
「大谷翔平のような日本酒が飲みたい」
と言われたら!?
ーーもう最初からめちゃめちゃ美味しい日本酒ってありますよね。そういうお酒にもちょい足しするんですか?
小原さん:それを主軸に他のお酒をちょい足しして、お客さんの要望に合わせてブレンドしたりしますよ。
お客さんから「パリッとしたスーツが似合う爽やかイケメン男子みたいなお酒ください」と言われて、それにピッタリなものがあったらそれを出しますし、なければブレンドして作ります。
例えば「福山雅治みたいな日本酒をください」と言われたら、お客さんに「福山雅治をいいと感じる3つのキーワードを教えてください」と聞くんですよ。それで、声がいい、カッコいい、とかキーワードが出てきたら、基軸の日本酒にカッコいい要素を加えてみたりとか。
ーー面白いですね。じゃあ、「大谷翔平みたいなお酒」と言ったら?
小原さん:僕が思う大谷は、背が高くて、走攻守揃ったオールラウンダーで、突出した個性がある人。高身長は、スパンと上に抜ける香りのイメージで酸味を入れてみたり、走攻守は甘み酸味香りのバランスが取れている、とか。そういう風に言葉でちゃんと伝えて作ります。そうすると、その言葉がお客さんと二人だけの共通言語になるんです。
ーーこれまで、「この人を」と言われて、困ったな、というのはありましたか。
小原さん:海外の60代くらいの激渋俳優の名前を言われたことがあるんですけど、その時には「それ、経口摂取したいですか? おじさん飲みたいですか?」と返して「おじさんは飲みたくない(笑) やっぱりやめましょう」みたいな。
できそうにないものは、ちゃんと最初から断ります。
次回はいよいよ、“ちょい足し”の実践編。味の変化を楽しんでいきます。何をちょい足しするとどう変わるのか、お楽しみに。(つづく)
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地のものバル MUJO