SERIES
コーヒースタンドを起点とした場づくりの舞台裏
2021.09.14. | 

[Vol.1]バスケとコーヒーで、誰もが楽しめる場をつくりたい。ONE_THROW東海林佳介×ツバメアーキテクツ山道拓人+鈴木志乃舞×Yuinchu小野正視

南武線の宿河原駅から徒歩5分、商店街を抜けた線路沿いにユニークな場が誕生しました。
「ONE_THROW」は、バスケットコート併設のコーヒースタンド。コーヒーを飲みつつ、ストリートバスケを楽しむことができます。

バスケットボールのゴールって、普通は体育館や公園の片隅にあると思いませんか? コーヒースタンドに併設されているなんて、他ではまず聞いたことがありません。

いったいどんなきっかけでこの場所が生まれたのでしょうか。オーナーとして、設計者として、カフェプロデューサーとして、「ONE_THROW」の誕生に深く関わった3組の人々が語ります。

「カフェの土地買っちゃったんで、助けてください!」

まずは「ONE_THROW」のオーナー東海林さんに、この場所が生まれる最初のきっかけを教えていただきました。

 

東海林さん:誰でもふらっと立ち寄れて、コーヒーを飲みつつバスケもできるような場所を作りたいと思っていたところ、小野さんと知り合いました。

 

YuinchuやHYPHEN TOKYOでカフェプロデュースを手がける小野との出会いが最初のきっかけになった、と東海林さん。小野から見た東海林さんとの出会いは?

 

小野:東海林さんとは「カフェに挑戦するかもしれない若者がいる」との紹介で出会いました。お話を聞いてみると、「バスケットコートの横に飲食サービスがあるといいと思っているんです」と。カフェを立ち上げるならば何かお手伝いできるかなと思っていたら、次に会った時にはもう、東海林さんが土地を買っていたんです(笑)。

 

東海林さん:「土地買っちゃったので、助けてください!」って言いましたね(笑)。

 

小野:僕もカフェのプロデュースを長くやっていますが、「土地を買っちゃいました」って連絡からスタートしたのは初めてです。これは本気だな、と。

「バスケットコートとカフェ」という東海林さんの構想を実現するには、僕らが得意とするカフェのオペレーションやメニューづくりだけでは成り立ちません。ハード面をどうつくるかが重要だし、意図をしっかり言語化しないと伝わらないだろうな、と。そこですぐにツバメアーキテクツさんを紹介したんです。

 

山道さん:ツバメアーキテクツには「デザイン」と「ラボ」の2部門があります。「デザイン」の部門は一般的な設計事務所と同じですが、「ラボ」では何も決まってない段階からお話を伺い、クライアントと一緒に構想を考えていきます。「ONE_THROW」では、「デザイン」と「ラボ」の両輪からお手伝いさせていただきました。

カフェ経営初体験の東海林さん、設計事務所のツバメアーキテクツ、そしてYuinchu。この3者が揃い、バスケとコーヒーを楽しめる場づくりが始まりました。

 

気軽に立ち寄って、バスケに触れられる場所をつくりたい

構想の初期段階から「バスケットボール」が外せない要素だったことがうかがえますが、東海林さんがバスケにこだわるのには、どんな理由があるのでしょうか。

 

東海林さん:学生時代からバスケをやっていて、社会人になっても続けていたんですが、メンバーが結婚や転勤などで減っていって、結局解散してしまうんです。それを解決したいと思った時に、ふらっと気軽に立ち寄って、バスケに触れられる場所があるといいんじゃないかと思ったんです。

とはいえ、バスケ好きだけが集まる場にはしたくありませんでした。バスケ好きは、コートがあれば絶対集まってくるんです。でも、それだけではなく、バスケ好きとそうでない人が混ざるようにしたいな、と。そのためには、一般の人にとっても立ち寄りやすい場であることが重要です。

 

山道さん:東海林さんの思いは、ここのカラーリングにも反映されていると思います。「ONE_THROW」は床面もゴールポストもボールの飛び出し防止用のネットも、すべてグレーカラーが基本になっています。茶色や赤が基調となる普通のバスケットコートとは、雰囲気がかなり違います。

バスケットコートの設備が本格的に見えすぎると、立ち寄るための心理的なハードルが上がってしまうんですよね。グレーにしたことで、街角のほんの一角がたまたまバスケのコートになったような、ふらっと入りやすい雰囲気を出せているんじゃないかと思っています。

 

バスケットコート併設だからこそ「コーヒーの買いやすさ」が重要

東海林さん:山道さんにはレイアウト案をいくつも見せていただきました。その中で、「コーヒーが買いやすいかどうか」をかなり重視しました。コートのカラーをグレーにしたのと同様、バスケ好き以外の人も入ってきやすい場にしたかったからです。コーヒーを飲みに来たことをきっかけに、ちょっとコートに入ってボールを投げてみたり、そこにいる人と会話してもらえたらいいな、と。

 

小野:東海林さんは最初から一貫して「バスケ好きだけが集まる場所にはしたくない」と言っていますよね。ご自身がプレイヤーですし、本格的なスペックを追求する道もあったと思いますが、一般の人にも来てもらうことにこだわるのはなぜですか。

 

東海林さん:バスケは、今でこそオリンピック種目になったりして注目されていますが、サッカーなどに比べると競技人口も少ないですし、楽しめる場所も少ないです。もう少しみんなに知って欲しいという思いは昔からありました。だからこそ、何かをきっかけにバスケを好きになった、という人を増やしたいと思ったんです。そのきっかけになる場は、特別な体育館や運動場ではなく、身近な住宅街の中にあるといいんじゃないかと思ったんですよね。

 

小野:実際にオープンして、どんな感じですか。

 

東海林さん:大多数はコーヒーのテイクアウトのみのご利用なのですが、小学生が5,6人でプレイしているのを見ていたご家族連れの方が、「次、うちもやっていいですか」とバスケを楽しむような流れも出てきています。

ひとり、ほぼ毎日来ている小学生がいるんですが、彼は野球のユニフォームのシャツを着ているんです。その姿でバスケを楽しんでいるのを見るのは感慨深いです(笑)。この場所が、彼にとって何かのきっかけになっているのかな、と感じます。

 

■9/15(水)までクラウドファンディング実施中
Makuake(マクアケ)にて、ONE_THROWオープンのためのクラウドファンディングを9/15(水)まで実施中です。残りわずかとなりましたが、ぜひ、この機会にONE_THROWに関わっていただければ幸いです。ドリンクチケットやオリジナルグッズなどのさまざまなリターンをご用意して、みなさまのご支援をお待ちしています。
https://www.makuake.com/project/one_throw/

 

東海林 佳介(しょうじ・けいすけ)
ONE_THROW 代表
1993年2月7日神奈川県生まれ。中学高校時代はバスケットボール部に所属。
高校卒業後、港湾関係の会社に就職し、フォークリフトのオペレーターなどをしながら約10年間務める。
その後一念発起し、2021年8月からバスケットコートとコーヒースタンドを始める。

山道 拓人(さんどう・たくと)
ツバメアーキテクツ代表取締役
1986年東京都生まれ。2012年東京工業大学理工学部研究科修士課程修了、2012年ELEMENTAL(南米/チリ)、2013年Tsukuruba Inc.チーフアーキテクト、ツバメアーキテクツ共同設立、2018年東京工業大学理工学部研究科博士課程単位取得満期退学。現在、ツバメアーキテクツ代表取締役、法政大学デザイン工学部建築学科専任講師、江戸東京研究センター プロジェクトリーダー、住総研研究員を務める。

鈴木 志乃舞(すずき・しのぶ)
ツバメアーキテクツ
1989年東京都生まれ。2013年明治大学理工学部建築学科卒業、2014-2015年ミラノ工科大学 派遣交換留学、2016年東京工業大学大学院 理工学研究科建築学専攻 修士課程修了、2016-2017年スキーマ建築計画。ツバメアーキテクツには2017年から参画。

小野 正視(おの・ただし)
株式会社 Yuinchu代表取締役
新卒で Zoff に入社。 その後、学芸大学のカフェにて店長を経験し、 KOMAZAWA LOCATIONS を立ち上げる。 IT 企業にて代表の補佐をしながら、レンタルス ペース GOBLIN. を立ち上げ、事業を引き継ぎ 2012 年 8 月に株式会社 Yuinchu を設立。

– Information –

ONE_THROW
神奈川県川崎市多摩区宿河原3丁目8−3
JR南武線 宿河原駅 徒歩3分

https://www.instagram.com/one_throw0131/

 

次回は9/21(火)に公開予定です。
「人がつながるきっかけとなる場にしたい」との東海林さんの願いが「ONE_THROW」として実現するまでにはどのようなプロセスがあったのでしょうか。場の設計、カフェづくりの両面から掘り下げていきます。(つづく)

ライター / 八田 吏

静岡県出身。中学校国語教員、塾講師、日本語学校教師など、教える仕事を転々とする。NPO法人にて冊子の執筆編集に携わったことからフリーランスライターとしても活動を始める。不定期で短歌の会を開いたり、句会に参加したり、言語表現について語る場を開いたりと、言葉に関する遊びと学びが好き。

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