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Food Future Session
2023.04.25. | 

[Vol.4]東京ローカルとの間に接点を生み出したい【シーナタウン 日神山 × Yuinchu 小野】

「Food Future Session」という壮大なタイトルで展開する、×Mo:takeの座談会。今回は、池袋西エリアで有志と「株式会社シーナタウン」を設立し、商店街のまち宿とお菓子工房「シーナと一平」など、場所・空間・まち作りの提案と運営を行っている日神山晃一(ひかみやま・こういち)さんとYuinchuの小野正視の座談会です。「シーナと一平」を会場に開かれた座談会。最終回となるVol.4では、それぞれの事業の背景にある思いや、シーナタウンの”これから”について語っていただきました。

やりたいことがある人の背中を押し続けたい

小野:本業とは別のB面のチャレンジが本業の新たな仕事の依頼につながる、という形で循環しているのはすごいなと思います。

 

日神山さん:先日、ある事業者さんから「椎名町駅前にできる施設の開発を一緒に手がけてもらえませんか」というお話をいただいたのですが、そういった声がかかるのも、私たちが地域に根ざした場の運営者だからだと思います。アドバイスだけを行うコンサルタントの立場なら、そういう依頼は来ないかもしれません。

設計という仕事の部分でも、カタチをかっこよくつくるというデザイナーではなく、一緒に考えて、創り、問題解決する。「場づくり」について長いスパンで伴走できる人が求められてきているのかなと思います。

世の中はちゃんと見ているんだな、と感じましたし、世の中の向かう方向が、だんだん自分にとってやりやすくなってきている感じもあります。

 

小野:自分でやろうと決意して進んだ人は、どんどん前に行けますよね。

 

日神山さん:僕も小野さんも、やりたいと決めた人や可能性がある人の後押しをしているんですよね。

 

小野:共通項はそこかもしれないですね。

 

日神山さん:小野さんの言う「装置」を通じて、その人のやりたいことが炙り出されてきますよね。

 

小野:はじめる前には超えられない高い山に見えたものも、実際に越えようと近づいてみたら小さな山だった、ということはありますよね。心持ち一つというか。背中を押してあげればチャレンジできるような仕組みや、「何かやりたいと思うのなら一緒に乗り越えよう」と言ってあげられる仕組みができれば、世の中はもっと面白くなると思っています。

 

日神山さん:「こういう風に場が使われているから、ここであなたのやりたいことをスタートできるでしょ?」という後押しの仕方で、ずっと誰かの背中を押していきたいです。応援団でいたいといいますか。

 

ハレのお菓子と、ケのコーヒースタンド

日神山さん:「シーナと一平」の1Fは現在「お菓子工房」というお菓子を中心としたシェアキッチンですが、お菓子って食べなくても生きていけますよね。食事と違って。お菓子は嗜好品で、「これを食べたらちょっと幸せになる」という種類のものだと思います。心を満たすためにあるわけです。だからこそ、お菓子を作る人には絶対に想いがあるんです。

 

小野:確かに。そう考えると、日神山さんにとってのお菓子が、僕にとってはケータリングとレンタルスペースですね。生命をつなぐものではなく、付加価値を求められるものです。「ハレとケ」で言えば、「ハレ」の商売です。

一方、Yuinchuの商品やサービスで、「ケ」の部分にあたるのは、カフェやコーヒースタンドだと思います。日常やルーティンの一部と言いますか。それはその人の精神をつなぐ、心の栄養みたいなものだと感じています。僕が10年経ってもコーヒースタンドの運営をやめないのは、それがあるからかなと思います。

 

日神山さん:小野さんの考え方って、自分軸だけど外向きな感じがしますね。だから「装置」とか「仕組み」という表現になるのかもしれないですね。ちゃんと自分軸が導入されつつ、関わる人のやりたいことを炙り出すような仕組みにできているのは一つの才能だと思います。僕はもっと自分軸ですから。

 

小野:僕は逆に、社会実装するまでは自分軸で考えるタイプかなと思っています。実験思考というか。そうやって考えたことを実際にやってみて、世の中の反応が薄いと、それはそれで面白くて。「早すぎたかな」なんて思ったり(笑)。

 

日神山さん:僕は社会実装の手前で満足するタイプかな。自分が面白いと思うことを小さくはじめて「みんなにウケて良かった!」って思っちゃうんですね(笑)。でも小野さんは、目の前の人に全力で向き合って、その先に社会実装があるんですよね。小野さんの言う「装置」の中にちゃんと血が通っている感じがします。

 

旅商いという、新しい行商のスタイル

小野:日神山さんはこれから、何をしたいですか。

 

日神山さん:自分自身が東京ローカルで生きる上で、素敵な消費や出会いを作りたいですね。東京ローカルの面白さと自分の間に、もっと接点を作りたいと言えるかもしれません。そこにはきっと商売が発生して、商売に一歩踏み出す場を僕らが作っていく。出会いがあって、付き合いがあって、商いになるという、三つの“あい”がつながっていく感じだと思っています。

出会いという点だけがあってもダメで、ちゃんと継続した付き合いになって、その延長線上で「この人がつくった物を買いたい」というコミュニケーションで物が売れたり、想いが届いたりするのが一番いいですね。

生産者さんが物を届けたり、商売を広げる方法には、インターネットや大きな展示会もあります。ですが、「シーナと一平」みたいな場所に滞在して物を売ったり、ここは宿なのでキッチンがあるので料理を提供することも十分考えられるし、その物を使った商品がこのまちの別の飲食店で提供されたり……こんなふうにまちの人に届けて、ファンをつくっていくという形もあると思っています。

池袋の西側で7年間続けてきて、まちの大家さんと一緒に場所について考えることも増えてきましたし、インテリアデザイナーとして私が設計したり関わった場所が近くにいくつもできました。そして、そのような場所や人を媒介にして表現することもできるようになってきました。

そんな出会いと消費を、このまちに住む僕たちが楽しみに待つようななにかが生まれたらいいなと思っています。それが「旅商い」という新しいスタイルの行商につながっていくと、僕自身と周りの人の生活が面白くなるんじゃないかな。

 

小野:「旅商い」というコンセプト、素晴らしいですよね。僕は社会実装みたいな、ちょっと大きめの解釈をしがちなので、動きが鈍くなる面があります。日神山さんの「旅商い」プロジェクトを通して「こんな気楽な心構えではじめていいんですか?!」という雰囲気をどう演出しているかなと気になります。「旅商い」にワクワクしすぎて、もう完全に自分ごとになっていますね(笑)。これからも日神山さんとタッグを組んで、おもしろい仕組みをたくさん作っていきたいと改めて思いました。

 

– Information –
シーナタウン

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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