「自分で食う」という挑戦
編集部: まずは、現在取り組まれていることについて教えてください。
古庄さん: まだ詳しくはお話しできないんですが、今は自社プロダクトの準備を進めています。これまではクライアントからご依頼いただく仕事が中心でした。でも、これからは「自分で食う」という生き方が、より大切になってくると感じているんです。
編集部: 「自分で食う」という言葉が、とても印象に残りました。
古庄さん: そうですね。今まではクライアントワークが中心だったので、自分たちで何かを生み出し、それを育てていく機会はあまりありませんでした。もちろん、クライアントワークはこれからも続けますし、その仕事ももっと磨いていきたいと思っていますが、その一方で自分たちでつくったものによって食べていける状態もつくっていきたいと思っています。僕にとって「自分で食う」というのは、そういうことなんです。
編集部: これまでにも商品の企画やブランディングを数多く手がけてきた古庄さんですが、自分たちのプロダクトとなると、やはり感覚は違いますか?
古庄さん: 違いますね。正直、不安はあります。でも、独立したばかりの頃と同じようなワクワクもあるんです。久しぶりに、「これから何が始まるんだろう」という感覚があります。
編集部: そうなんですね!不安もある一方で、どこか楽しそうにも聞こえます。
古庄さん: そうかもしれません。たぶん僕は、何か新しいことを考えている時が一番楽しいんですよね。最近は、空いている時間のほとんどをAIに使っています(笑)。仕事にも活かせそうなことを、ひたすら試しています。
編集部: なるほど!AIにそこまで惹かれる理由って、何なんでしょう?
古庄さん: 進化が本当に速いんですよ。昨日できなかったことが今日できるようになっていたりして、「じゃあ、これもできるんじゃないか」と、どんどん試したくなるんです。触れば触るほど、新しい可能性が見えてくるので、気づいたら何時間も経っています(笑)。
編集部: 仕事が終わっても、まだ頭を動かし続けている感じですね。反対に、気持ちが休まるのはどんな時間ですか?
古庄さん: 食器を洗ったり、洗濯をしたりしている時です。家事をしていると、すごく癒されます。
編集部: AIを触り続けた後に、食器を洗う。
古庄さん: そうですね(笑)。ずっと頭を使っているので、何も考えずに手を動かせる時間がちょうどいいんだと思います。
AIの可能性について目を輝かせながら話す古庄さん。一方で、「気持ちが休まる時間」として挙げたのは、食器洗いや洗濯といった何気ない家事でした。新しいものへの好奇心と、日常の穏やかな時間。そのどちらも自然体で楽しんでいる姿が印象的でした。

会話を邪魔せず、空間を変える音楽
編集部: ここからは、古庄さんの好きなカルチャーについて伺います!友人とリラックスしながら食事をする時に聴きたい「音楽」を教えてください。
古庄さん:DJ MITSU THE BEATSの最近のアルバム『CELEBRATION OF JAY 3』ですね。彼の音楽に出会ったのは、20代前半で、ちょうど自分でカフェを始めた頃でした。当時は所属レーベルのJAZZY SPORTの音楽もよく流していました。
編集部:20代の頃から聴いているアーティストの作品を今でも友人との食事の時間に選ぶのは、どんなところに惹かれているからなんでしょうか?
古庄さん: 会話を邪魔しないところですかね。音楽が前に出すぎず、流れているだけで空間の雰囲気はちゃんと変わるんです。このアルバムをかけるだけで、自分の好きな空間になる感覚がありますね。
編集部: 音楽そのものというより、「空間」をつくってくれる存在なんですね。
古庄さん: そうですね。食事をしている時は、やっぱり会話が中心になると思うんです。そこを邪魔せずに、場の空気を少しだけ良くしてくれる音楽が好きです。DJ MITSU THE BEATSが、J DILLAに捧げたコンセプトアルバムなんですが、昔から聴いてきたアーティストということもありますし、作品の背景も含めて好きですね。
料理や会話が主役になるように、そっと空間を整えてくれる音楽。20年以上変わらず聴き続けているという事実だけでも、この一枚が古庄さんにとって特別な存在であることが伝わってきました。

誰かの料理ではなく、自分の料理をつくる
編集部: お話を伺っていると、「自分でつくること」が古庄さんにとって大切なんだと感じました。そんな価値観にも重なる、印象的な映画の食のシーンを教えてください。
古庄さん: 『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』で、主人公がレストランのオーナーと衝突して店を離れた後、自宅でひとり、コース料理をつくる場面があるんです。誰かの指示や店の方針に縛られず、自分が本当につくりたい料理を、自分の表現としてつくっている。あの一連のシーンが、本当に好きですね。自由に表現できる環境だからこそ、つくれるものがあるんだと思います。
編集部: この映画は、どんなキッカケで観られたんですか?
古庄さん: もともとフードトラックをやりたいと思っていた時期があって。作品のジャケットを見た瞬間に「これは観なきゃ」と思って、すぐに観ました。気になったものは、まず観てみる、やってみるというところはあると思います。
編集部: そうなんですね!先ほどは印象的な食のシーンを伺いましたが、作品全体を通して心に残っていることもありますか?
古庄さん: 主人公の周りにいる元妻や息子、元部下なども、みんな魅力的なんですよ。自分を認めてくれる場所で、心から信頼できる仲間や家族がいれば、人生は楽しめるんだと思わせてくれる映画でした。
編集部: お話を伺っていると、今取り組まれていることとも、どこか重なるように感じました。
古庄さん: そうかもしれませんね。もちろん状況は違いますけど、自分でつくることや、自分の表現を形にすることには、今まさに向き合っているので。
編集部: これから古庄さんがどんなものを生み出されていくのか、ますます楽しみになりました。本日はありがとうございました!
これまで古庄さんは、クライアントが持つ価値を見つけ、それが伝わる形を考え続けてきました。そして今、自分たちのプロダクトという、新たな挑戦に向き合っています。「自分で食う」という言葉は、一見すると覚悟を表す言葉のようにも聞こえます。
けれど、お話を伺う中で見えてきたのは、すべてをひとりで抱え込むことではなく、自分が本当に面白いと思えるものを、自分たちの手でつくり、信頼できる仲間と育てていきたいという想いでした。
長年聴き続けてきたDJ Mitsu The Beatsの音楽にも、『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』の主人公にも、古庄さんが惹かれたのは、自分らしく表現し続ける姿勢だったのかもしれません。
これまで誰かの価値を形にしてきた古庄さんが、これからは自分たちの価値を形にしていく。その先にどんな景色が広がるのか。いつかそのプロダクトと出会える日を、楽しみにしています。
—– インタビューに登場した食とカルチャー —–
music
DJ MITSU THE BEATS
『CELEBRATION OF JAY 3』
movie
『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』

古庄伸吾 profile
PREO Inc.代表、食のクリエイティブディレクター。飲食店の運営やデザイナーとしての経験を経て、2020年に食を専門とするブランディング会社を設立。商品の企画、ブランディング、デザインなどを通して、食に関わる企業や地域の課題解決を支援している。現在はクライアントワークに加え、自社プロダクトの立ち上げにも取り組んでいる。