2020.03.10. | 

[Vol.2] 都会で野菜を育てるだけではない。URBAN FARMERS CLUBが目指すもの

渋谷のビルの屋上から始まった野菜・米づくりを「都市生活者のために広げたい」と、スタートしたNPO法人アーバンファーマーズクラブ(UFC)の活動は、すでにメンバーが400人に迫る勢いで広がっています。活動が広がると活動の理念や信念も薄まりがちですが、代表の小倉崇さんには、「ここだけはブレない」という強い思いを感じます。

育ったものが、土に還る
一粒の種が、どんどん広がる

「渋谷リバーストリートファーム」で自然栽培で育てられたルッコラは、プランターで育てたとは思えないほど味が濃く、本当に美味しい物でした。美味しく育てる秘密は、野菜と野菜の間にひょこひょこ生えている雑草のような葉にあるそうです。

 

小倉さん:これは、緑肥にするための麦です。えん麦と言って、収穫して土の中に入れていくと、土が豊かになります。

農薬や化学肥料を使わずに野菜を育てようとすると、土の中にどうやって微生物を増やすかがポイントになるんですけど、えん麦には炭素が含まれているので土が作れるんです。緑肥を育てて、土の中にすき込み、足りなくなった炭素分を補い、また育てて、という循環ですね。

 

無駄のない、自然の循環。まさに持続的な農業です。そしてここでは、日本の自給率がゼロのオーガニックコットンを育てる試みも始まっています。食べる物の次は、身に着ける物を自分たちで育ててみよう、という新たなチャレンジです。

 

小倉さん:先日、初めて収穫したコットンフラワーから糸を紡ぐワークショップを開きました。結構な量がとれたなと思ったのに、少し大きめの旗が1枚作れるかどうかの分量の糸しかできなかったんです。自分たちが普段着ている服に、どれだけの量のコットンフラワーが必要なのか分かるというのは、貴重な経験ですよね。

コットンの魅力は、一粒の種から育った物から、30〜40粒の種が取れることです。メンバーが一粒の種を自宅で育てれば、翌年にはその種を、さらに30〜40人の友達に渡すことができます。

そうやってどんどん増えていって、いずれは渋谷のあちこちのマンションのベランダでコットンの花が一斉に咲いている未来を僕は描いています。ここをオーガニックコットンプロジェクトの始まりの土地にし、コットンの自給率をゼロから少しでも上げることができたらと思っています。

 

 

「自分」から、「みんな」へ
UFCの活動が、大切にしていること

みんなで育てたコットンから、みんなでわずかの綿糸を紡いだように、UFCの畑や田でとれた野菜やお米はみんなのもの。食べ頃の野菜が出てくれば、気づいた人が畑のお世話係をしている人たちのグループスレッドでアナウンスし、食べたい人が自由に取りに行ったり、イベントの時にみんなで食べたりするそうです。

どちらかというと「自分が」「自分の」という意識が強い都会の中で、「みんな」でシェアする仕組みが成り立っているUFC。そのことに、小さな感動すら覚えます。

 

小倉さん:今は都会でも、畑を区画ごとに分けて月10万円とかで貸す「シェアファーム」みたいなものが広がっています。でもそれって結局、タワーマンションを買っているのと同じ発想だと思っています。「この区画は俺のもの。だから隣の区画のことは知らない」「自分さえ良ければいい」という発想ですね。

でもそれは、UFCで僕たちがやりたいこととは真逆です。メンバーにはいつも「どんなに小さなものでも、自分のものって言わないで。みんなのものだからね」と伝えています。

もちろん最初は「これは私が種を撒いたものだから」という人もいますが、「ここはみんなで育て方を学び合い、種が出来たら自宅で育て、その種をさらに広げていくための場だから」と話すと、ちゃんとわかってくれます。

 

小倉さん自身も、自分主体だった考え方が、野菜を育てるようになってから変わったといいます。

 

小倉さん:以前は、「自分が」やりたいことばかり考えていましたが、それが「一人の農家のために」に変わり、そこから「自分たちが」とみんなのことを考えるようになりました。そうしたら、変にストレスを感じなくなったというか、誰かと自分を比べてイライラすることもなくなってきました。

それよりも「あの人が喜んでくれればいいな」などと思うようになりましたし、野菜は思い通りに育ってくれないから、謙虚にもなりましたね。

 

 

広いところで育てたくなったら、
渋谷を飛び出し、自然の中へ

「自分が」をなくし、「みんな」で育てているメンバーたちは、活動を通じて自然と仲良くなっていきます。メンバー同士で旅行に行ったりもするし、先日は初めて、UFCの活動をきっかけに結婚した夫婦も生まれたとか。そして、UFC全体としての活動とは別に、”部活”の活動も活発になっているそうです。

 

小倉さん:今は田んぼ部、みそ部、そしてハーブ部もあります。田んぼ部は、恵比寿ウノサワ東急ビルの屋上の田んぼで育てるだけではなく、関東近郊に借りている田んぼで本格的にお米を栽培しています。

みそ部も味噌を仕込むだけではなく素材となる大豆も自分たちで育てようと、神奈川県相模原市の藤野で、現地の農業生産法人「アビオファーム」と一緒に畑で大豆を育てるようになりました。

自分たちで暮らしている街で野菜や米を作ろうと始めた活動ですがが、やっていると「やっぱり気持ちがいいところでやりたいよね」となってくるんです。楽しみながらやっているうちにどんどん活動が広がっていくのはまるでロールプレイングゲームのようで、少しずつアイテムが増えて行っているような感覚ですね(笑)

部活だけでなく、渋谷の畑の手入れや収穫祭、マルシェ等々、フェイスブックページにUPされているメンバーの楽しそうな姿やワクワクした顔を見ていると、自分も一緒に参加したくなります。

 

藤野には江戸時代の古民家もあり、UFCの「リトリートセンター」になっているそうです。畑での農体験や企業のコミュニケーションを深める畑ミーティング、家族で楽しめる畑グランピングなど、さまざまな使い方でできるとか。大自然の中で土に触れ、思い切り自分を開放するのもいいですね!

次回は3/17(火)に公開予定です。
ロールプレイングゲームのようにアイテムが増えているというUFCの活動。次回は、さらにどんなアイテムが増えていくのか、どんな課題をクリアする必要があるのか、UFCの「これから」をお聞きします。(つづく)

 

– Information –

NPO法人URBAN FARMERS CLUB
https://urbanfarmers.club
https://www.facebook.com/cultivatethefuture/

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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