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コーヒースタンドを起点とした場づくりの舞台裏
2023.06.01. | 

D.W.ニコルズわたなべだいすけさんが描く、ありふれた素敵な日常

「フランスパンのうた」をはじめ、温かくユーモアのある音楽で大人にも子供にも人気のD.W.ニコルズ。5月8日〜14日にかけて、D.W.ニコルズわたなべだいすけさんの初個展がSWITCH STAND HATSUDAIで開催されました。

カフェでくつろぎながら、絵画と音楽に触れる

「D.W.ニコルズ わたなべだいすけ個展『EVERYDAY PEOPLE』」は、D.W.ニコルズを主宰するわたなべさんの誕生日を記念したイベントです。東京・初台からスタートし、静岡・三島、大阪・心斎橋を巡回。わたなべさんがこれまでに描きためたアクリル画の展示や、その場で刷ってもらえるシルクスクリーン販売、最終日の弾き語りライブなど、盛りだくさんの内容です。

東京会場となったSWITCH STAND HATSUDAIの壁いっぱいに並んだのは、かわいくてポップな印象のアクリル画。油性マーカーのくっきりしたラインとシンプルで明るい色彩が、わたなべさんの作品の特徴です。

作詞作曲、ライブなどの音楽活動をメインにしているわたなべさんがアクリル画を描き始めたのは、コロナ禍に見舞われた2020年のこと。自宅での隔離生活中に、もともと興味のあったアクリル画をやってみようと思い立ち、絵の具とキャンバスを取り寄せて描いていったのだそう。

 

「最初に描いたのは自画像で、その後も、昔飼っていた犬や、D.W.ニコルズのキャラクター『ニコうさ君』など、どんどん描いていきました。モデルがいるものもあれば、なんとなく描いているものもあります。葉山出身で海辺が好きなので、海辺の場面が多いかもしれないですね」

 

とわたなべさん。

 

ファンや、周りの楽しい人たちと共に生きていくことを決めた

結成から20年に渡り音楽活動を続けてきたD.W.ニコルズ。中でも「フランスパンのうた」は、ユニークな歌詞とMVの振り付けが子供たちの間で大人気となり、ちびっこファンや家族ぐるみのファンが増えるきっかけとなりました。

 

そんなD.W.ニコルズが活動を一新し、二人体制で再スタートしたのは2022年のこと。

 

「今ぼくは40代なんですが、50代までの10年で何をやっていきたいかと改めて考えてみて、D.W.ニコルズをもっと広めていきたいと思ったんです。そこに本気で取り組むために、会社を立ち上げ、自主レーベルも立ち上げました」

 

わたなべさんが今大切にしているのは「話していて楽しい未来が見える人、面白いアイディアが出る人と一緒に仕事をすること」。嫌なことはやらないと決めました、と笑います。

 

「昨年は、地方の文化会館の野外ステージを借りてピクニックコンサートをしました。みんなでレジャーシートをしいて、ピクニックみたいにして聴いてください、って。単なる音楽じゃなく、ニコルズという存在を間に置いて、ファンのみんなと、僕たちと、僕たちの周りの楽しい人たちとが一緒に生きていく。そんなライフスタイルをつくりたいと思っています。今回の個展もその一つですね」

 

全然できないことをあえてやってみる

音楽を主とするアーティストのわたなべさんが、バースデーイベントとして絵画の個展を開催することにしたのはなぜなのでしょうか?

 

「毎年、バースデーにはそれまでやったことのないことに挑戦しています。以前は落語に挑戦して、浅草で落語と弾き語りのライブを開いたことも。今年は、絵もたくさんたまってきたし、ぜひ個展をひらいてみたいなと思って、開催を決めました。というのも、音楽のように、長くやっていたことって息をするようにできちゃうんですよね。だからときどき、あえて全然できないことをやってみるようにしています。そうしていると、また音楽に返ってくるものもありますしね」

 

シルクスクリーンも、実は初めての挑戦なのだとか。なぜシルクスクリーンを?と尋ねると、

 

「『シルクスクリーン』って言ってみたかったんですよね(笑)。あとは『在廊』。『本日わたなべは在廊しています』って、SNSとかで言いたかった。だから、在廊してシルクスクリーンをやってます(笑)」。

 

ありふれた日常の美しい瞬間を届けたい

今回のイベントのテーマは「EVERYDAY PEOPLE」。

 

「僕もあなたもありふれた人間だけど、そのありふれた日常の中に、嬉しいことや美しい瞬間がある。それってとても素敵なことだよね、と伝えたかったんです」とわたなべさんは個展に込めた思いを語ります。

 

「今回の個展も、絵を楽しく描いていたらいいのができたから、みんなに見せたくて開いた、という感じなんです。僕は専業の画家でもないし、絵自体にそんなに深い意味がなくてもいいんじゃないかと。絵を見てくれた人が『かわいいな』って思って元気になったり、来てよかったなと思ってくれたら嬉しいですね」

 

そんな風にフラットなわたなべさんのスタイルが、カフェでの個展開催というスタイルにぴったり合っているように見えます。

 

「素晴らしいことにSWITCH STAND HATSUDAIはガラス張りで、通りからよく見えるんですよね。ふらっと通りかかって気になった人も、ワンドリンクで入ってもらえるのはいいですね。この間も、オペラシティで何かを見に来た親子連れの方が立ち寄ってくださって、『うちに飾りたいから』とシルクスクリーンを買ってくださったんです。そういう出会いがあるのもカフェという場所ならでは。ここでやらせてもらってよかったなと思います。」

 

古くからのファン、ふと通りかかった人など様々な人を巻き込みながら、わたなべさんの活動は、これからも、ありふれた日常の中にいくつもの美しい瞬間をもたらしてくれそうです。

 

– Information –
D.W.ニコルズオフィシャルサイト

SWITCH STAND HATSUDAI

 

ライター / 八田 吏

静岡県出身。中学校国語教員、塾講師、日本語学校教師など、教える仕事を転々とする。NPO法人にて冊子の執筆編集に携わったことからフリーランスライターとしても活動を始める。不定期で短歌の会を開いたり、句会に参加したり、言語表現について語る場を開いたりと、言葉に関する遊びと学びが好き。

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