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Food Experience Story
2024.10.16. | 

堀木慎太郎が浅草で描く“醸造所のカタチ”

酒造りの神様で台東区の区木でもある「桜」が咲くように、美しい姫という意味もある「木花之開耶姫(コノハナノサクヤビメ)」が名前の由来となる浅草初のクラフト酒の醸造所『木花之醸造所』。お酒造りで重要な役割を持つ麹を造るために、麹室も併設した東京都内には例をみない、そんなクラフト酒醸造所を運営する堀木慎太郎さん。前回は、堀木さんの子供時代から、作業療法士としての経験を踏まえたお話を伺ってきました。
今回の記事では、堀木さんがなぜ飲食店をやることになったのか、そしてそこにはどんな想いがあるのか、その先に見据えるものとはなんなのか、早速お話を伺っていきましょう!

車椅子でも気軽に入れるお店を。

作業療法士として活躍されてきた堀木さんが、飲食店をはじめたきっかけは「車椅子の方々が気軽に来れるお店を作りたい」という想いからだったそうです。そして「ALL (W)RIGHT -sake place-」の前に運営していたお店で、それを実現させます。ところが、運営していくうちに感じてきた矛盾。現在は、醸造所を併設した飲食店を営む堀木さんは一つの答えに辿り着きます。

 

−−作業療法士として活躍する堀木さんが、飲食店をなぜはじめたのか?ここからはそのあたりも伺っていきたいと思います。

堀木さん:飲食店を始めたのは、車椅子でも気軽に入れるお店を作りたいって思ったのがきっかけでした。作業療法士をやりながら、車椅子の方々の環境整備をしていきたいという想いがあって、それが車椅子でいける飲食店を増やすということも環境整備の一つだと思っていたんです。でも車椅子で気軽に入れるお店ってあまりないんですよ。

すると、自分の中に「なんで需要はあるのに、お店がないんだろう。」って疑問が湧いてきたんです。だけど、どうしてなのかわからなかったんです。そこで「車椅子の方が気軽に入れるお店を自分で経営してみればわかるかも!」って実際に始めたんですよね!

 

−−なるほど!やっぱり気軽に行ける場所として、飲食店がポイントだったんでしょうか?

堀木さん:そうですね、人がどこかへ行こうとする時に、カフェに行くこともあれば、誰かと約束をして出かける時はお茶をしたり、ご飯食べるということって多いですよね?そう考えると、人がコミュニケーションをとるうえで、食の役割、飲食店の役割はすごく重要で、そこで車椅子の人が出ていく時に入りやすい飲食店がとても大事だなって思ったんですよね。

 

−−確かに人と約束をする時に飲食はつきものだったりしますよね!堀木さんが、実際に始めたお店はどんなところを工夫したのでしょうか?

堀木さん:バリアフリーや客席の専用スペースに配慮をしたり、車椅子用の御手洗ももちろん用意しました。そのお店を4年半やってみて気づいたことは、、、お店自体が快適な空間になっても、物理的な移動手段として送迎サービスがあったりと、そこに来やすい環境を作らなければ意味がないのかもしれない!ということですね。

 

−−つまり、お店がある場所だったり、行くまでの道のり、行きやすい環境が大事ということですね?

堀木さん:はい!おっしゃる通りです!もちろん快適に過ごせるお店は必要です、それは間違いなく良いことですが、それよりは恐らく、車椅子で行ける場所を増やすことが大事だと気づいたんです。

実際に以前のお店では、車椅子の方の専用テーブルを設けて、いつお客さんが来ても良いように席を空けていました。でも、1年間に車椅子の方がどれだけ来てくれたかといえば、やっぱり少なかったんですよね。

お店が満席の状態でも、車椅子専用の席は空席のままにして、他のお客さんを断ったこともありました。経営の視点で見れば、お客さんがきているのに、その席を空席にし続ける事で売り上げが減ってしまう、、、それが積もっていけば結構な売り上げを逃していることにもつながる。それを実感しはじめた時に、個人店として車椅子の方が入りやすい、過ごしやすいお店をやるということへの限界も見えたんです。

 

−−なるほど、実際に車椅子の方が快適に過ごせるお店が少ないという疑問から、行きやすさという課題が見えてきたんですね。

堀木さん:そうですね、ただ、今のお店は車椅子に特化して席を作っているということはありませんが、車椅子の方が来店されてもレイアウトも柔軟に対応できるようになっていたり、トイレを広くしていたり店内はバリアフリーにもなっています。実際に車椅子の方が来店されることもありますが、なんの問題もなく対応できているので、これはこれで一つの正解のカタチなんだと思っていますね。

 

どうせやるなら面白いことをしたい!
自分が好きな“マイクロブルワリー”のフォーマットで

−−確かに柔軟なレイアウトが組めたりバリアフリーであったり、車椅子の方問わず過ごせそうですね!ちなみに、このお店は“濁酒(どぶろく)”に特化していますよね?改めて、なぜジャンルとしてお酒を選んだのかというところも聞かせていただけますか?

堀木さん:実は、、、お酒が造りたい!とか、お酒が好き!とか言えたら綺麗だと思いますが、そこではないんです。(笑)もともと、クラフトビール業界にもいたことがあって、どちらかといえば、その“業界のフォーマット”が好きだったんですよね。そのフォーマットというのは、“マイクロブルワリー”といって地域に都市型の醸造所を小さく作って、土地の味わいと、そのストーリーも含めて提供していくというようなフォーマットなんです!

「どうせ飲食店をやるなら、面白いことをやりたいよね」って共同経営者の仲間と話をしていた2018年頃、クラフト酒というカルチャーも世の中で注目され始めたんです。タイミングとしても「これはやるしかないな」って思いながら、自分のお店ではそのフォーマットでやることにしたんです!

 

−−そうだったんですね!クラフトビール業界にも身を置いていたとは、本当に色んな経験をされてますね!

 

コロナ禍で店舗は厳しい状況もECで海外に進出!
シンガポールには酒蔵も計画中!

−−こちらの『ALL (W)RIGHT -sake place-』は2019年末にオープンされて、『木花之醸造所』がオープンされたのが2020年6月ですよね。時期的にはコロナの真っ只中で影響もあったのではないですか?

 

堀木さん:そうなんですよ、まずお店がオープンして、そこで醸造所の製造免許を取得するという流れで進んでいくので醸造所のオープンは取得後になったんですけど、2020年の3月から、もういきなり緊急事態宣言。「えっ!!これやばいかも!!」って感じでした。そうしたら、本当にだめな状況になって。

緊急事態宣言まではこのお店でカフェもやっていて、結構盛り上がっていたんです。よくインスタグラマーさんがきてスイーツを撮影しに来ることもあって、1日70人から80人ぐらいの人たちが毎日来ていたのに、、、それが全くこなくなりましたからね!

 

−−それはかなりのインパクトですね、、

堀木さん:本当に壊滅的でしたよ。。ただ、それがきっかけで、醸造所としての販売の戦略は大きく変わりました。本当は、お店に来て飲んでもらうことで“価値を届けたい、知ってほしい”という想いもありましたが、やっぱりお店に人が来ないのでECでの販売に注力して、海外展開もすることにしたんです。結果的に、今も海外に広がって繋がることができているんですよね。当時、海外の酒市場はまだ余剰があったので、一気にシフトチェンジをして、最初は香港へ展開してみると、アジア圏での評判も良く手応えも感じることができたんです!

 

−−柔軟な戦略が求められたわけですね!その時は、どんなお酒を展開したんですか?

堀木さん:やっぱりそこは『どぶろく』ですね!アジア圏では地域や文化は違うものの、これがやっぱり自然と受け入れられていて、評判も良かったんですよ!マッコリや紹興酒なども、作り方は違えど同じように米を原料に作るお酒があることが恐らく違和感なく受け入れられていて、あとはアジア圏の食にも、ペアリングとして『どぶろく』が結構合うという印象もありました!カレーの時にラッシーを飲むような、そんなイメージですね!(笑)

まぁそうやって、なんとかコロナ禍を乗り越えていきましたね!当時もし何も影響なく、お客さんがお店にたくさんきて販売するっていう、通常の形で営業できていたら、逆に海外に展開するってことはなかったかもしれないなぁって思います。

 

日本酒ではない?“濁酒(どぶろく)”とは?

コロナが落ち着いてからも継続的に海外での取り組みをしているという堀木さん。今では現地で販売したり、イベントを実施するだけにとどまらず、なんと、シンガポールに酒蔵を新しく立ち上げるそうです!「地域に醸造所を小さく作って、土地の味わいと、そのストーリーも含めて売っていく」というクラフトビール業界の概念で展開する堀木さんのシンガポールならではの濁酒が誕生する日も近そうですね!

ところで昨今、美容と健康にも良いといわれる『どぶろく』は、日本酒(清酒)ではないということをご存知でしょうか?ここで簡単に『濁酒』とはなにか、について触れていきます!

堀木さんによると、日本酒の定義としては、米、米麹、水をもとに酵母の力で発酵させた醪 (もろみ) を、“搾って濾(こ)して、できたもの”を日本酒。一方で、『濁酒』は日本酒を造る工程でできるお酒で、搾らず濾さない状態のお酒のことで、その他醸造酒と言われるそう。その「濁酒」を“搾って濾したもの”が、透明な日本酒というわけなんですね。

ちなみに、濁り酒は、、、搾って濾す時に目の荒いものなどを使用して濁り具合を調整して作るお酒。つまり「搾って濾す工程を経る」ので日本酒になるというわけなんですね。搾って濾すのが日本酒、それをしないのが『どぶろく』。『日本酒』も『どぶろく』もそれぞれ異なる免許が必要とのことで、実は細かく定義されているんですね。このあたりは色々と細かく奥が深いので、気になる方はぜひ調べてみてくださいね!

ちなみに、『木花之醸造所』の定番銘柄として作られている『どぶろく』のハナグモリは、木花之開耶姫が咲かせた桜の中をくぐるかのような幸福感を味わって欲しいという想いで名付けられているそう。ラベル表示義務のない添加物は使用しないなど、こだわりの製法で広く親しまれるどぶろく造りを行っているそうです!

 

伝統や文化は守らなくちゃいけないものだけど
ここで学んだら独立して、またどこかで活躍してほしい

日本酒の酒蔵では、下積みで修行を続け、その蔵でトップを務める「杜氏(とうじ)」が引退する時に、その人に変わって次の人が「杜氏」になるという業界のイメージがありますが、木花之醸造所は日本酒の酒蔵の「杜氏」にあたる醸造長は現在3代目。初代も2代目も、かつての醸造長たちは、みんなここで学び経験を積んでから独立をしているようです。これはどういうことなのか、その真意についても伺ってみると。

−−醸造所の人の動きが特徴的だと思ったのですが、みなさんここに入る前から独立する前提で来られているみたいな独立志向の人が多いんでしょうか?

堀木さん:そうですね!むしろ、そういう人に来てほしいんですよね!もともと初代は1年後には独立したいという想いをもっていたというのを知ったうえで、醸造長をおまかせした事がきっかけでした。通常、そんなすぐにやめられては困る!って思うところなのかもしれませんが、逆にそれをうちの強みにしようと思ったんです。そこで「独立志向をもって最長で3年で卒業してもらう、それで新しい人に来てもらうっていうスタイルにしちゃおう!」っていう風にしたんです。

 

−−おぉ!そこには何か深い想いがありそうですね!

堀木さん:そうですね、よく醸造長が10年、15年いるという酒蔵はたくさんありますよね。そうなると、酒蔵=その醸造長になっていく。だから、繊細な味は人が変わってしまえば、やっぱりブレてくると思うんです。ただ、我々の業界として「それって本当に問題なのかな?」って思ったんですよね。

むしろ、そのブレこそ個性で、そこにストーリーとして、“人も酒も一期一会になるという儚さ”が生まれるというか。「昨年飲んで美味しかったのでまた来ました!」というお客さんがきても、「あっ!今は作っている人が違います!でもこれもまた美味しいですよ!」っていうのも、それはそれで楽しいじゃないですか!(笑)

 

−−確かにそういった味わい方があってもいいですよね、それこそ木花之醸造所ならではの味わいな気がします。そういった概念を知ったら、醸造長をやりたいっていう人も結構多そうですね!

堀木さん:そうなんですよ!独立志向のある人にとっては、東京・浅草を修行の場としてやるというのもメディアやお客さんの注目度からしても一つの経験値におけるメリットだと思います、求人では結構応募してくれる方も多いんですよ!

実際、数年前から日本酒ブームで、蔵人は全国に増えています。でも独立して醸造を行うハードルは高いんです。将来独立したいと考えている人たちが、木花之醸造所で醸造、販売経験を積んで、免許取得のノウハウや資金調達についても学べば、全国各地で醸造所を立ち上げることができて、それこそマイクロブルワリーのフォーマットでお酒の世界がもっともっと面白くなるんじゃないかって考えてますね!

 

座右の銘は“長いものには巻かれてはみ出ろ。”
肩書きは、堀木慎太郎です。

−−なるほど!面白いですね、伝統的な分野の中で新しい人の動き、流れを作っているんですね。

堀木さん:もちろん、伝統や守るべきもの、お酒造りに対しても大切なものは絶対にあるけど、それを大事にしつつ、もっと仲間が増えてくっていうイメージですね。何が正解かはわからないですが、酒蔵業界として20代、30代が蔵人として入った時に杜氏(とうじ)が50代だと、20年後、人の動きもポジションも何も変わらない。杜氏が80歳になって、自分が60歳になって初めて杜氏になる、そんな業界でもあるんですよ。※杜氏(とうじ):酒造りの最高責任者

実際、まだまだ未来のある若者が、10代から酒蔵に入って行くという現状はあるんですよ。そういう人たちに「カルチャーとしてこういった考えの醸造所もあるんだよ」ということを知ってもらいたいし、知ってもらった時には「やりたいです!」っていう人がいるんですよね。
最近、10年くらい蔵人をされている方が、オフシーズンに見学に来て驚いてました。「独立できるなんて一度も考えたことなかった」って。(笑)それだけもう業界の常識になっているんですね。

 

−−常識となると、やっぱり気付けないというか、疑ってもいないわけですよね!このカルチャーがあることを知って、そこでなにを選ぶのかはその人次第ですもんね!堀木さん自体がやっぱり常識を俯瞰して見ているから本質に気づいてしまう、そんな印象もありますがいかがですか?

堀木さん:実は、座右の銘が「長いものに巻かれて、はみ出る」なんです。(笑)いや、はみ出るつもりはなくて、一回ちゃんと長いものに巻かれるんですよ?でも子供のころも、作業療法士として勤めた病院でも、どこへ行っても巻かれてたつもりが、違和感だったり、矛盾を感じたりしていくうちに、気がついたら意図せずはみ出ちゃってるんですよね!「こうした方がいい」って思って動いていくと、結果的にはみ出てるんです。(笑)

 

−−座右の銘いいですね!それが功を奏して、正しい目が養われたんじゃないでしょうか!いやぁ、生い立ちから醸造所を営む現在までこれまでお話を伺ってきましたが、そろそろ最後の質問にさせていただこうと思います!堀木さんはこれまでに色んなチャレンジをされてきましたが、堀木さん自身がまたチャレンジしたいこと、実現したいことなどはありますか?

堀木さん:そうですね、今後もやりたいことをやりたいですね!一つは作業療法士っていう役割として、私も含めて世の中にもっと関わっていかなきゃなって思います。私も保育の現場に関わっていますが、企業や色んな場所で需要が増えていたり、日常においてはまだまだ必要な役割なのかなと思うんですよね。作業療法士はアイデンティティでもあるし、作業療法士の考え方が好きで、そもそもの自分というものと被るところもあるので、“作業療法士”というか、“堀木慎太郎”としてなのか、やっぱり世の中の色々なことに関わっていきたいですね!

あとは、一緒にやってくれている仲間たちと、このお店を育てながら、次のステップとなるような環境をつくったり、この場所をみんなの通過点になるような場所にしたいですね!
そうやってまたここから独立する子が出てきて、そこでまた色んな人と繋がっていって、また小さなお店を好きな人とやるとか、「目的として、このお店を大きくして店舗を増やす!」というよりも、そういう方が楽しいかなって!それがやりたいことですね!

 

作業療法士というより、『堀木慎太郎』。その言葉が全てを表すように、どの環境に置かれていても自分は自分であるという芯の強さを持っている堀木さん。その強さの裏側には、長いものに巻かれるという素直さと、巻かれるからこそ見える“自分なりの正しさ”があるからなのかもしれませんね!

浅草で美味しいお酒を楽しみたい!そんな時は、『堀木慎太郎』と酒造業界で明るい未来を描くスタッフのみなさんが、美味しいお酒と食事で迎えてくれる浅草のクラフト酒の醸造所『木花之醸造所』・「ALL (W)RIGHT -sake place-」へ。

 

– Information –
木花之醸造所
ALL (W)RIGHT -sake place-

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ライター / Mo:take MAGAZINE 編集部

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