SERIES
Food Experience Story
2024.11.22. | 

[Vol.2]祖父母が遺した場所で、新しい未来を創る。

「おとなとこどもがおそろいの食事を楽しめるファミリーレストラン」をコンセプトにしたファミリーレストラン『Family Restaurant Ne;』のオープンに向けて準備を進めている株式会社たからもの・和田訓一さん。前回の記事では、幼いころから楽しいこと、ワクワクする気持ちを大切にして生きてきた和田さんが、広告業界へ飛び込むまでのストーリーをお届けしました。

Vol.2となる今回は、広告業界での社会人生活がはじまり、今もなお働きながら、なぜ地元小田原で新たな道を開拓し始めたのか、そこに至るまでにどんなストーリーがあったのかを伺っていきます。

大切な場所を未来へつなぐ。
『Family Restaurant Ne;』が小田原ではじまるきっかけ。

−−これまで就職するまでのお話をうかがってきましたが、今回のファミリーレストランを手がけるまでには、まだきっかけとなる出来事がありそうですね。

和田さん:そうですね、きっかけとしては、祖父母の病院があった場所を残したいというのが大きいです。祖父母が亡くなってからの病院の場所をどうするのが適切なのか、当然、僕の意見だけではどうすることもできなくて、祖父母の子どもである父や叔母とも沢山話をしてきました。僕自身は、なんとか良い形でこの地域に残していきたいと思ったんです。やっぱり尊敬する祖父母の大切な場所だったので、病院はつげなくても、違う方法があると思っていました。

 

−−先ほど、お医者さんになろうと思ったのも、お祖父母様を尊敬していたからというお話もありましたし、和田さんにとっては思い入れのある場所でもありますね。改めて、和田さんが尊敬されるお祖父母様のどんな所が印象に残っていますか?

和田さん:医者を志すきっかけには祖父のエピソードがあって、僕の祖父は肺がんで亡くなったのですが、合併症で認知症もかなり進んでいました。そして最後は、もう自分が何者かもわからない状態でもありました。でも、医者であることだけはずっと忘れていなかったんです。祖父は廊下を徘徊してしまうこともありましたが、自分がまだ医者として回診をしている気持ちで徘徊していたんですよ。ある時は誰もいないトイレに入って、大丈夫ですか?と言っている姿を見たこともありました。

僕はそれにすごく感銘を受けたんですよね。自分の生き方にこんなプライドを持てるってすごい素敵なことだと思ったんです。当時、僕は小学校の高学年でしたが、“こういう風に自分のやってきたことにプライドをもった生き方をしたいな”って強く思ったのを覚えています。

だから、そんな祖父母が覚悟を持って生きてきたこの場所を残したい、同時に自分の生き様をこの場所で表現していきたい、って強く突き動かされたんですよね。

 

飛び込んでみた外の世界。そこで発足した食のプロジェクト。

−−そうした想いの中で、大切な場所が自分が理想とするファミリーレストランとして残せるようになったわけですね!

和田さん:はい!でもそれは簡単にはいかなくて、この場所をどうにか僕が使いたいんだって声を上げ始めたのが、実は社会人3、4年目だったんです。社会人としてもまだペーペーだった自分が、親族に想いだけ伝えても当然納得してもらえるはずもなくて「何をするのかをきちんと提示してくれ」と突っ込まれました。そこから、地域でビジネスをされている方々が、どんな事業をされているのか興味を持ちはじめたんです。

するとその時、たまたま大学の先輩が長野県で特定の地域と関係人口を増やす事業のコーディネーターをしていて、その事業のプログラムへ誘われたんです。会社にもそういったプログラムに参加することを伝えて早速参加してみました。

 

−−すぐに行動にうつして情報収集を始めるところが和田さんらしい!そこではどんな活動をされたんですか?

 

和田さん:僕はそのプログラムで長野県の王滝村の方々と交流させて頂きました。その村は少子高齢化が進み、人口が800人を切る村でした。山奥にあって気候がすごく厳しい環境なんですよ。霊峰御嶽山のふもとで、昔から山岳信仰をする人たちが来ているようなエリアだったものの、年々観光客の数も減ってしまっている状況でした。そんな王滝村ですが、厳しい気候環境の中で独自に進化した発酵食文化があって、これが奥深くてすごく面白かったんですよね!

この発酵食の文化を守っているのが、村のお母さんやおばあちゃんたちなんですけど、この食文化がこのままだとなくなってしまうのはすごくもったいないなって思ったんです。そこで、これを無くさないために、この食品をブランド化して、みんなに受け入れてもらえる枠組みができたら、次の展開が生まれるかもと思って。そこで僕はこの村のお母さんたちをヒロインにして、食文化をいろんな人たちに発信していく事業を作っていこうと考えました!

 

−−すごく面白そうなプロジェクトですね!お話を伺っているだけでも興味が湧いてきます!

和田さん:プロジェクトは、飲食業をやっていた町おこし協力隊の人をハブに、村のお母さん、おばあちゃんたちとチームを組んで「王滝母ちゃんズ」っていうブランドを立ち上げました!村の食文化を紹介したり、商品のパッケージを作ってみたり、いろいろと活動をしました!

 

温もりを感じた食体験。
共感しながら、誰かと食べる瞬間が幸せ。

−−お祖父母さんの病院と同様に、ここでも大切に守られて来たものを、今の時代にあった、受け入れられやすい形にすることで継承していけないかと考え行動されたんですね。ここで和田さんが食文化に注目されたのはどうしてですか?

和田さん:このプログラムでは、まず村の特徴やおすすめのポイントなど色々紹介してもらうんです。すごい自然が豊かなので、マウンテンバイク競技の誘致をはじめスポーツ文化を醸成しようという取り組みなどもありました。他にも色々あったんですけど、僕にとって一番記憶に残ったのは、その時、村のお母さんの家で食べたご飯なんですよ。

今は結婚をして子どもも授かりましたが、当時はまだ結婚もしてなくて一人暮らし。毎日死ぬほど仕事して、帰って来たらビール缶とストロング缶を2缶くらい、ガバガバ飲みながら、つまみをつまんで、酔っ払って寝る!っていう毎日だったんです。(笑)

だから、この王滝での体験で、やっぱり手料理の温かさをすごく再認識したんですよね。
血の通った料理を食べて、心が温まる瞬間とか、そこで一緒にいたメンバーとみんなで「美味しいね!」って共感し合って食べてる瞬間が、すごい幸せだなと思ったし、それを見て喜んでいる作り手のお母さんたちの顔もとても印象的でした!

人の温かさに触れながら体験する食事がすごくポテンシャルを持っているっていうことに、この時に気づかされましたね。お母さんたちとの温かい時間とか、温かい料理っていうのが、地域の外から来た人にも価値のある体験だと絶対に感じてもらえると思ったから、食のプロジェクトでいこうと思ったんですよね!

 

直接反響を得ることで再認識した、ブランディングの意義。

−−社会人3〜4年目で一人暮らしだと、仕事も本当に忙しくて、ご飯がつい後回しになることってありますよね、、、手料理も食べる機会が少なくて、誰かが作ってくれた料理や人と美味しい時間を共有できたりとか、、それだけで心がほぐれていく感覚、私もすごくわかります。でもそのプロジェクトは楽しくて、ワクワクできたんじゃないですか?

和田さん:そうですね!色々な刺激も受けたし、楽しかったですね!そんな中でも、僕が一番衝撃的だった体験は、「すんき」っていう赤カブの茎の漬物を食べた時なんです!漬物って塩で漬けたりするんですけど、「すんき」は塩を使わないで、植物性乳酸菌だけで発酵させていくっていう、すごい面白い食材なんです。

塩分もなく、乳酸菌で腸内活動にも働く、こんな健康的でポテンシャルがある食材なのに、よくある田舎の道の駅とかに行くと、すんきの良さがいまいち伝わってこない売り場になっていてもどかしさを感じるくらい、僕はこの「すんき」に可能性を感じちゃいました!

実際にプロジェクトでは、クリエイティブの力で見せ方を変えることや今っぽい「すんき」の食べ方を提案していくことを通して、クラファンやポップアップレストランもやってみたんです。すると、友人をはじめ興味を持って応援してくれた人が沢山いたんですよ!

良いものをちゃんと伝えたいと思って取り組んだ結果で得られた反響を見ていると、僕が仕事でやってるブランディングって、こういうところで活かされていくんだなっていうことも再認識できました!

 

−−いやぁ熱いですね!このプロジェクトに参加したことで、人との関わりや食体験の価値、自分の仕事の本質的な役割など様々なことに気づいたんですね!親族のみなさんも、和田さんの真っ直ぐな姿勢には心動かされるものがあったのではないかと思います!そんな経験も経てご親族を納得させて、いよいよ『Family Restaurant Ne;』の構想が具体化されていくわけですね。

 

生きる力ってなんだろう。“子どもたち”に伝えていきたい。

−−ではここから、いよいよ会社(株式会社たからもの)についても伺っていきたいと思います。まずは、和田さんが会社員でありながら、「たからもの」で新たな取り組みをするきっかけについて教えてください。

和田さん:病院の跡地で何をするのか、特定の地域に関わりながらずっともがいていた時に、結婚して子どもが生まれたことが大きな転機となりました。

子どもが生まれたことで、生活がガラッと変わっていくわけなんですが、何よりも命がこの世に誕生するって、すごい奇跡なんだなっていうのを改めて感じました。

子どもを授かれたことも、五体満足で元気に生まれてきてくれて母子共に健康なことも、それだけでなんて幸せなことなんだろうなってすごく思ったし、僕の中で命に対する考え方が覆ったんです。

同時に自分が今後、“誰のために時間を費やしたい?”と考えた時に、その矛先は子どもたちだったんですよ。目の前にいる自分の子ども含め、世の中にいる子どもたちは社会の”たからもの”で、そんな子たちが自分らしく、安心してすくすく育っていける環境ってどういうものなんだろうなと真剣に考えるようになりました。

これからどうなっていくかわからない世の中で、「生き抜くってどういうことなのか」とか「生きる力って何なんだろう」とか、そういうことを子どもたちに伝えられる機会を作っていってあげたい、という想いが強かったんです。
そういった背景から事業は、“子育て”に軸足を置いていこうと思いました!

 

−−お子さんが生まれる前と後では、今後の生き方を方向付けるほどの大きな心境の変化があったんですね!

和田さん:はい、子どもが生まれてからは本当に色々変わりましたね!例えば以前は、働き疲れて乗った電車の中で、泣いてる子どもがいた時には、たまにイラっとしちゃったりしてましたもん、、もう今では考えられないことですよね!
今はどんなに疲れてても、電車で泣いている子どもに遭遇したら、どうしたの?って声をかけたくなる感じです。(笑)泣くのには理由があって、それをちゃんと理解してあげて、うまく導いてあげるっていうのが、大人の務めだと思っているので否定なんてありえない!(笑)そういう心境の変化を含めてめちゃくちゃ変わりました。

尊敬する祖父母が生きてきた場所を自分の手で残したい。その想いから行動し、長野でのプロジェクトで人の温もりや食の大切さに触れてきた和田さん。結婚をして“たからもの”を授かったことが転機となり新しい道を開拓しはじめます。
次回Vol.3では、そんな和田さんが手掛ける『Family Restaurant Ne;』とは一体、どんなお店なのか、お届けします!

Vol.3はこちら

 

– Information –
Instagram(たからもの)
Instagram(Family Restaurant Ne;)

ライター / Mo:take MAGAZINE 編集部

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文脈や背景を知ることで、その時、その場所は、より豊かになるはず。

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