
QWSの中に「横串を刺す」
イベントの冒頭、企画を立ち上げたSHIBUYA QWSコミュニティーマネージャーの仁平さんから、Question Hashtag #が生まれた背景が語られました。
SHIBUYA QWSには、プロジェクトに取り組む人、個人で活動する人、それを支援する人など、多様な会員が集まっています。一方で、それぞれが自分たちの活動に取り組んでいるからこそ、関係性が“縦”に分かれがちになっていることを、仁平さんは感じていたそうです。
せっかくこれだけ多様な人たちが同じ場所にいるのなら、一つのテーマをきっかけに、普段は交わらない人たちが話せる場をつくれないだろうか。
そんな思いから始まったのがQuestion Hashtag #です。
仁平さんは、このイベントの目的を「横串を刺す」という言葉で表現します。
活動や立場を越えて語り合うことで、互いの考えや取り組みを知り、新しい接点をつくっていく。そして、その出会いの先に、新しいアイデアや共創が生まれるきっかけをつくることも、この企画が目指していることの一つ。
第4回となる今回、そんな“横串”として選ばれたテーマが、Yuinchuと一緒に考えた「食とコミュニケーション〜食は起点になるのか〜」でした。
食を間に置くことで、立場も活動も異なる3組の間に、どんな接点や会話が生まれていくのか。
その問いを探るように、まずは3組それぞれの活動紹介からイベントは始まりました。

人が自然と参加できる場をつくる。Yuinchuが考える“装置”
最初に活動を紹介したのは、Yuinchuの小野と坂本。
3社が一つのテーブルを囲む中で、まずはYuinchuがどんな会社なのか、そして「食とコミュニケーション」というテーマにどう向き合っているのかを、2人それぞれの視点から紹介しました。
Yuinchuは、レンタルスペースやカフェなどの場の運営から始まり、現在は飲食、イベント、クリエイティブ、事業開発などを横断しながら、さまざまな「場」をつくり、動かしています。
その原点の一つにあるのが、小野が20代の頃に運営していたカフェです。飲食店として営業する一方で、飲食だけでは事業として成り立たせることの難しさにも直面。そこで店を撮影場所として活用するなど、一つの空間に複数の役割を持たせる工夫を重ねていきました。
そうした経験の中で、Yuinchuが少しずつ考えるようになったのが、単に場所をつくるだけではなく、その場所で人と人、人と物やコトがどう出会い、どんな関わりが生まれるのかということでした。
その考えを言葉にしたものが、現在Yuinchuが掲げる「コミュニケーションスポット」です。

では、どうすればそんな場所をつくることができるのか。その方法を説明する中で、小野が使ったのが、“装置”という言葉でした。
「人と人をつなぐために、必ず誰かがその場に立ち、積極的に会話を促す必要があるわけではありません。例えばカフェなら、コーヒーを飲みに来る。レンタルスペースなら、その場所を使いに来る。ケータリングなら、料理やドリンクをきっかけに人が集まる。」
Yuinchuでは、こうした人や物、コトとの接点を生み出すサービスやコンテンツを“装置”と捉えています。その“装置”をきっかけに、人が自然と場に参加し、そこから新しい関わりが生まれていく。小野が話していた“装置”には、そんな考え方が込められています。
そして、Yuinchuがそうした“装置”の一つとして大きな可能性を感じているのが、「食」でした。
坂本はその具体例として、Mo:takeが取り組む食を通した場づくりについて、ケータリングの話を交えながら紹介しました。
「ケータリングというと、イベント会場へ料理やドリンクを届けるサービスを想像するかもしれません。でもMo:takeでは、料理を届けることだけでなく、食が入ることでその場にどんな変化が生まれるのかまでを考えています。食は、誰にとっても日常にある、とても身近なものです。だからこそ、特別な知識や目的がなくても、その場に参加するきっかけになりやすい。料理やドリンクをきっかけに人が立ち止まり、自然と料理を囲み、そこから会話が始まっていく。ケータリングをきっかけに、新しい場をつくっていく感覚なんです」
料理そのものだけではなく、そこに付随する空間や体験まで含めて「食」を捉え、場をつくっていく。小野が語った、人や物、コトとの接点を生み出す“装置”という考え方と、坂本が食の現場で実践してきた場づくりは、ここで重なります。
Yuinchuにとって食は、それ自体で人をつなぐというよりも、誰もが関わる身近な営みだからこそ、人が自然とその場に参加し、誰かや何かとの接点が生まれるきっかけとなる“装置”の一つなのかもしれません。

「料理って、間違ってもいい」。エスビー食品・齊藤さんが考える“食の余白”
続いて活動を紹介したのは、エスビー食品 食文化未来研究所の齊藤聡一郎さんです。
冒頭、齊藤さんは「会社紹介は1割、自己紹介9割くらいで来ています」と話し始めると、
共創する上で、まずは自分自身を知ってもらいたい。そして相手のことも知った上で、一緒に仕事をしたい。そんな思いから、この日の紹介では会社の話だけでなく、齊藤さん自身がこれまでどんなことに興味を持ち、食と関わってきたのかを語りました。
エスビー食品は、1923年の創業以来、カレー粉を原点に、スパイスやハーブをはじめとするさまざまな商品を届けてきた企業です。
齊藤さんは2021年に入社し、最初の3年間は家庭用商品の営業を担当していました。
もともと大学時代からスパイスカレーが好きだったという齊藤さん。現在もスパイスや食への興味は強く、実際に産地へ足を運んだり、海外の食文化に触れたりしながら、自分自身でその背景を確かめています。
一方、営業として商品を扱う中では、一つの疑問も感じるようになったといいます。
商品を並べていただき、お客様に買って頂くことを待っているだけでは、スパイスやハーブに触れる人を増やしていくのは難しいのではないか。
その後、齊藤さんは、エスビー食品の中で新規事業の種を探し、育てる役割を担う「食文化未来研究所」へ異動しました。
「食文化未来研究所」では、既存事業をさらに深めていくだけではなく、これまでの事業の枠を越えた新しい可能性を探るため、社外の人や企業とのネットワークをつくりながら、メンバーそれぞれが新規事業のテーマを持って活動しています。
また、新しい取り組みを進めるには社内の人たちを巻き込むことも欠かせないと考え、社内ワークショップや新規事業提案制度の立ち上げにも取り組んでいるそうです。

その中で、齊藤さんが取り組んでいるテーマの一つが、学校での食の学びです。
齊藤さんは学校と連携しながら、スパイスや料理をテーマにした授業の開発にも取り組んでいます。なぜ、学校なのか。齊藤さんは、学校を「初めて未知の世界と触れる場」だと話します。
授業の中では、普段の家庭ではあまり使わない食材に触れられることもある。そこで「おいしい!」と感じる体験ができれば、それはその場限りで終わるものではなく、将来にわたって食の楽しさを知るきっかけになるかもしれない。学校という場に、齊藤さんはそんな可能性を感じています。
授業開発は現場の先生と組み、生徒たちが自由に手を動かしても事故が起こらないよう、使う分量の幅まで含めて、一緒に授業を組み立ててきました。そうしてつくった授業の中で試したのが、スパイスの分量を書かないレシピです。
決められた分量を入れて、見本通りの味を再現するのではなく、生徒自身が考えながらスパイスを加えていく。
実際に始めてみると、生徒たちは迷いながらスパイスを手に取り、ときには入れすぎてしまうことも。班で相談しながら進める姿もあり、出来上がったカレーは、班ごとに違う三者三様の味になったといいます。
すると、生徒たちからこんな言葉が返ってきたそうです。
「スパイスって、こんなに自由だったんですね」
「料理って、こんなに間違ってもいいんですね」
その言葉を受けて齊藤さんが話したのは、料理には、そもそも一つの「正解」や「間違い」があるわけではないということでした。
決められた分量やレシピ通りにつくるだけではなく、自分で考えて入れてみる。味わってみる。思っていた味と違えば、「じゃあ次はどうしよう」とまた試してみる。そうした過程も含めて楽しめることが、料理の面白さなのだといいます。
齊藤さんが調理実習を通してつくろうとしているのは、一つの正解へたどり着くための時間ではなく、自分で試し、感じながら、食を自由に面白がることのできる“余白”なのかもしれません。

「うまく言葉にできない」から始めるCreative Bar
最後に活動を紹介したのは、Creative Barです。
The Hearthが展開するCreative Barは、生演奏、短歌、モクテルという異なる表現を組み合わせながら、五感を通じて自分自身と向き合い、そこから人とつながっていく場をつくっています。
Creative Barを形づくる3人が持つ専門や経験も、それぞれ異なります。
黄松毅さんは、音楽や芸術作品を鑑賞している時に脳内でどのような変化が起きるのかを研究する一方、Creative Barではヴァイオリンによる生演奏を担当しています。
介護士として働くぐみ沢エイ子さんは、介護の現場で認知症の方との会話をきっかけに、その人の記憶や言葉から短歌をつくる活動を続けてきました。
そして矢萩友喜さんは、中学生の頃からノンアルコール飲料の魅力をSNSで発信してきた経験を持ち、Creative Barでは、その人の様子や短歌から受け取った感覚を一杯のモクテルとして表現しています。

そんな3人がCreative Barで向き合っているのは、「コミュニケーションは、自分の気持ちを言葉にできることを前提にしすぎているのではないか」という問いです。つらい時や、自分でもまだ気持ちを整理できていない時に、「どう感じていますか?」「何がつらいですか?」と聞かれても、それをすぐに言葉にできるとは限りません。
Creative Barでは、参加者に最初から自分の感情を言葉で説明することを求めず、まずは黄さんのヴァイオリンの生演奏を聴きながら、自分の内側で起きている変化に意識を向けて、そこで感じたことを付箋に書き出してもらう。そこに書き出すものは、きれいな文章にする必要はなく、言葉だけじゃなく、絵でも、線や形でもいい。
そして、付箋に書き出した言葉や絵を手がかりに、次はぐみ沢さんとの対話へと進みます。ぐみ沢さんは、その人が書いた言葉や絵、会話の中から出てきた記憶や思いを受け取りながら、それを短歌にしていきます。
そして、最後にその短歌や対話の中で感じ取ったものをもとに、矢萩さんがつくるのが、一人ひとりに合わせたモクテルです。例えば、受け取った印象を色や味、酸味などに置き換えながら、その人のための一杯をつくっていきます。
最初はうまく言葉にできなかったものが、生演奏を聴き、自由に表現し、対話を重ねる中で短歌になり、さらに色や味を持ったモクテルへと姿を変えていきます。
そして出来上がったモクテルは、自分自身と向き合うためだけのものではなく、その場に参加した人のそれぞれの一杯を見比べながら、「自分とは色が違うね」「形が違うね」と話すこと自体が、今度は誰かとの会話につながっていくといいます。
Creative Barはそんな風に、人の感情と向き合い、誰かとのコミュニケーションを生み出すためのきっかけをつくっています。

それぞれ違う「コミュニケーションの入口」
Yuinchuは、人や物、コトとの接点を生み出すサービスやコンテンツを“装置”と捉え、そこから人が自然と場に参加できるきっかけをつくる。
エスビー食品の齊藤さんは、料理の中に、決められた正解をなぞるのではなく、自分で考え、試しながら、自分なりの味や楽しみ方を見つけていける「余白」をつくる。
Creative Barは、うまく言葉にできないものも、音、短歌、モクテルといった別の表現を介することで、自分自身と向き合ったり、誰かとつながったりするきっかけをつくる。
3組の活動は、それぞれまったく異なります。
それでも話を聞いていくと、共通しているものが少しずつ見えてきました。
それは、最初から「話しましょう」「交流しましょう」と人に求めるのではなく、その一歩手前にあるハードルを下げることです。最初から自分のことを説明したり、誰かと積極的に会話したりしなくても、そうした身近な行為をきっかけに、その場へ関わることができる。
そして、その先に誰かとの会話や、新しい接点が生まれていくのかもしれません。
では、それぞれ異なる方法で「コミュニケーションの入口」をつくってきた3組が、実際に同じテーブルを囲み、互いの話を聞いた時、何が起こるのでしょうか。
Vol.2では、ここから始まった対話と、その場で少しずつ形になっていった「共創の種」を追っていきます。
→Vol.2はこちら
ーinformationー
SHIBUYA QWS
エスビー食品株式会社
The Hearth(Creative Bar)
Yuinchu