2019.05.28. | 

[Vol.1]“自由な”カレーで食の喜びを。「and CURRY」阿部由希奈×「Mo:take」ヘッドシェフ坂本英文

人事の仕事をしながら“流しのカレー屋”として全国各地のイベント出店やケータリングを手がけるand CURRYの阿部由希奈(あべ・ゆきな)さん。現在は世田谷区内にあるキッチンを拠点にカレーの研究やメニュー開発を行い、また、週に2回の“キッチン開放日”を設け、季節の食材を使ったバラエティ豊かなカレーを提供しています。阿部さんとMo:takeヘッドシェフの坂本英文(さかもと・ひでふみ)による対談です。

 

“流しのカレー屋”という自由なスタイル

−それぞれ自己紹介をお願いします。

 

阿部さん:and CURRYという名義でカレーの活動をやっています。

お店を持つのは向いていないと思って“流しのカレー屋”としてイベント出店やケータリングを中心にやってきたのですが、「流れてばかりだと食べるチャンスがなかなかないよ」という声をたくさんいただいて、今は毎週木曜日と日曜日にキッチン開放日を設け、カレーを作ってお客様に提供しています。こういったカレーの活動と並行して、フリーランスで人事の仕事もしています。

 

坂本:Mo:takeのヘッドシェフという肩書きで、ブランドマネージャーをやっています。メニュー開発や店舗プロデュースなど、食に関わることは何でもやっています。食は人間が生活していく上で一番大切だし、楽しいこと。それを僕なりの表現方法で、いろんな角度から伝えたいと思って活動しています。阿部さんと最初に会ったのは、恵比寿にあるMo:takeのセントラルキッチンですね。

 

阿部さん:まだキッチンを持っていなかったので、知人から調理の場所としてMo:takeのセントラルキッチンをご紹介いただいたんです。そこに坂本さんがいらした。

 

坂本:阿部さんのカレーがおいしそうだったんですよね、香辛料のいい匂いがして。「どんなの作ってるんですか?」みたいな話からはじまって、ちょっと食べさせてもらったらすごくおいしかった。で、いろいろお話を聞いていたら本当に面白い活動をしていらっしゃって。

 

 

レシピは「その時の気分」。決まったレシピを持たない理由

坂本:いろいろ話している中で、「レシピってどんな風にやってるんですか」と聞いた時に、阿部さんが「その時の気分で作ります」と言ってらしたのを覚えています。

 

阿部さん:同じものは作らないというか、作れないんですよね(笑)。

 

−ここのキッチンでも同じような感じなんですか?

 

阿部さん:ちょっとメニュー持ってきますね。・・・これが今日のメニューで、これが前回のです。最近のメニューはこの辺ですね。メニューは毎回変えてます。

 

坂本:初めて会った時に「同じカレーを2回作らない」と聞いて、感覚が同じだなと思ったんです。僕もその時の感覚やお客さんが求めている要望によって変えているなって。こんな風に同じ感覚の人って、なかなかいないんです。あ、面白いなっていうのが一番の印象でしたね。

 

阿部さん:最近、たけのこが2回届いたのでたけのこのカレーを2回やったんですけど、同じ味じゃないんですよ。酸味の立ち方とか辛味とかが違ってて。面白いなとは思いつつも、ふざけているって思われちゃわないかなって気持ちもあります。面白いと受け取ってもらえるならばありがたいですね。

 

 

メニューの全体感から、最適な「おいしい」を見つける

毎回いろんな味になる中でも、阿部さん自身の「こういう風にしたい」という基準はなんでしょう?

 

阿部さん自分が食べておいしいかどうかっていうのが一番なんですけど、おいしいと思うこと自体の中身がその時の気分や状況によって違うのかもしれません。

(メニューを見ながら)この日は3品あるうち、たけのこの他の2品がホタルイカのカレーと島らっきょうキーマカレーでした。ホタルイカのカレーにはココナッツが入っていて、島らっきょうの方は生姜が効いているので、それぞれあんまり辛くない。だからこの日はたけのこのカレーを一番辛くしました。逆に、もう1回の方のたけのこのカレーは、他がスパイシーだったので辛味を抑えました。だから同じ素材を使っていても味が違うんですよね。そんな風に、全体のバランス感を考えて味を決めているところがありますね。

 

その日に出す3つのメニューのバランスで、こっちは甘いからこれは辛くしようとか、これがスパイシーだからもう一つは甘くしようとか考えて、誰でもどれか好きなカレーが食べられるようにしていらっしゃるんですね。

 

 

場の空気感を読み取り、即興的に料理する

坂本さんはどんな風に味を決めていますか。

 

坂本ぼくの場合は、一定のクオリティを保つことを前提にしつつ、五感で楽しんでもらうことを大切にしています。中でも一番分かりやすいのは見た目だと思うんです。見てきれいだとか面白そうだと思ってもらって、実際に食べてみたらおいしい、というところを大事にしています。

イベントなどでその場で料理してお客さんに出す時は、そのイベントがどんな人の集まりなのか、お酒をどれだけ飲むのかによって塩気を変えたりしています。たとえばパスタだったら、ひとりで全部食べるのか、2名でシェアするのかによって、おいしいと感じる塩気は全然違うんですよね。だから、リアルタイムで出すものに関しては、レシピは書けないんですよ。即興ですね。

 

なるほど。カレーだと、即興は難しいですよね?

 

阿部さんまあでも……やれますよ(笑)。わたしはいろいろな人とコラボすることも多いので、コラボする相手の特性は簡単に押さえて、ここは攻めてこないだろうな、というところに収まるものを出していきたいな、ということは考えます。

 

坂本さん:「調理人」と「料理人」の違いってあると思うんです。単純にレシピの再現をするのが「調理人」だとすると、その時の状況によって切り方や火力を変えたり、塩加減を変えたり、自分の思うようにコントロールできるのが「料理人」だと思います。ぼくは料理人でありたいし、阿部さんもきっとそうなんだろうな、と思っています。

 

 

次回は6/4(火)に公開予定です。次回は、常に新しいメニューを開発し続ける2人が、メニュー開発の上で大切にしていることについてお伝えします。(つづく)

 

 

– Information –
and CURRY

東京都世田谷区羽根木1-21-24亀甲新い52

キッチン開放日

<木曜日>11:30〜15:00、18:00〜21:00

<日曜日>11:30〜なくなり次第終了


公式HP https://www.andcurry.com/

facebook https://ja-jp.facebook.com/andcurry/

5月24日発売の著書 『スパイスでおいしくなるand CURRYのカレーレッスン

ライター / 八田 吏

静岡県出身。中学校国語教員、塾講師、日本語学校教師など、教える仕事を転々とする。NPO法人にて冊子の執筆編集に携わったことからフリーランスライターとしても活動を始める。不定期で短歌の会を開いたり、句会に参加したり、言語表現について語る場を開いたりと、言葉に関する遊びと学びが好き。

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