2019.05.21. | 

[第6回]藤野のお山の食まわり:イベントの食は、エンターテイメントだ

移住者があとを絶たない神奈川県の山あいのまち、旧藤野町。12年前に移住し、現在は山奥の古民家に暮らすライター・平川まんぼうが、藤野での、食にまつわる日々を綴ります。

藤野は、イベントがとても多いまちだ。毎日のように何かしらのイベントがあり、週末ともなればふたつ、みっつと重なってしまうのは当たり前。まちを出ずしていくらでも遊ぶことができてしまうのは、藤野のすごいところだと思う。

そしてイベントに欠かせないのが「おいしいごはん」の存在だ。青空の下、たくさんの屋台の中からどれを食べようかと悩みに悩み、選んだごはんを両手に抱えてパクリ、と口にする瞬間の幸せったらない。じつは最近、久しぶりに企画したイベントでも、おいしい食べ物屋さんがずらりと並び、楽しい時間と空間を生み出してくれた。

それは「本」をテーマにしたイベントだった。

昨年、取材を通じて仲良くなった移動本屋「ブックバス」のスタッフさんから「ぜひ藤野に行ってみたい」と言われ、それならばと一念発起してイベントをやることにしたのだ。昔、アートフェスを一緒につくっていた仲間や「本」というテーマに合致する活動をしている友人知人に声をかけ、即席実行委員会が結成された。すると、出店をお願いした食べ物屋さんからも、次から次へとアイデアが出てくるのである。

以前にMo:take MAGAZINEでも紹介した大和家さんは「せっかく本のイベントだから、本の中に出てくる料理を再現して出したら面白いよね!」と、藤野在住の絵本作家・西村繁男さんの「じごくのらーめんや」に出てくる激辛じごくラーメンを再現してくれた。それだけでも十分面白いのに、いつのまにか妄想が膨らんだようで、子どもも食べれるもやしモリモリの針山ラーメン、じごくラーメンを超える超激辛血の池ラーメンなど、提供するメニューがどんどん増えていった。最終的に、このイベントのためにつくったのれんを掲げ、店主は閻魔大王、スタッフは小鬼のフルメイク・フル仮装。あまりに本気の仕上がりは、小さな子どもを何人も号泣させたほどだ。もはや単なる食を超えたエンターテイメント。全力でふざけているけれど、出してくれるごはんはめちゃくちゃおいしいから、またすごいのである。

 

 

TINY WORK COFFEEはレイモンド・カーヴァーの2冊の本になぞらえて、読書に合うブレンド2種を用意してくれた。店頭に展示された本の帯をよく見ると、それは本物の帯ではなく、じつは帯ふうに書かれたメニューの紹介というおしゃれっぷりだ。ほかにも、絵本「ぐりとぐら」のパンケーキを再現したお店、桜の季節にちなんで、すべて桜のスイーツを揃えてくれたスイーツ屋さん、パン屋さんは地元の地域団体がつくる自家製麺の焼きそばをピタパンに挟めるというコラボレーション企画を立ててくれた。

すごいのは、これらをほぼ自主的にやってくれているということだ。よくもまぁ、ここまでやってくれるな、と主催者にして思う。藤野のイベントに出ている屋台や飲食店はいつも楽しそうで、その楽しさが食に現れていて、まったく業務感がない。

この日のイベントは、たくさんの人に「よかった!」「またやってほしい!」と言ってもらえるイベントになった。それはひとえに、藤野の人々の「やるからには楽しんでやろう」という貪欲で強力な「楽しむ力」のおかげだったと思う。きっかけさえあれば「楽しむ力」を発揮して、どんどん自走していくまち、藤野。イベントがどれも楽しくて、どんどん増えていくのもそういう理由からなのだろう。

それが証拠に、予定では1回限りのイベントだったはずなのに、出店者やスタッフは来年はああしてやろう、こうしてやろうと早くも妄想が膨らんでいる。ってことは、やるんですね(笑)。来年は、どんな食のエンターテイメントが生まれるのだろうか。

 

※文中登場の「大和家」についてはこちらから

ライター / 平川 友紀

リアリティを残し、行間を拾う、ストーリーライター/文筆家。1979年生まれ。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごし、生き方や表現について多くのミュージシャンから影響を受けた。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。その多様性のあるコミュニティにすっかり魅了され、現在はまちづくり、暮らしなどを主なテーマに執筆中。通称「まんぼう」。

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