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Food Future Session
2023.11.09. | 

[Vol.3]ニッチな日本茶業界、手付かずのところが多いからこそ面白い【抽出舎 小山 × Yuinchu 小野】

「Food Future Session」という壮大なタイトルで展開する、×Mo:takeの座談会。今回は、西荻窪の日本茶スタンド「Satén japanese tea」のオーナー茶リスタであり、株式会社抽出舎CEOの小山和裕(こやま・かずひろ)さんとYuinchuの小野正視の座談会です。今回のテーマは「『食』の世界のエンパワメント」。Vol.3では、日本茶の歴史的背景や業界の課題などを広く見渡しながら、それに対してできること、やりたいこと、面白さなどについて語っていただきます。

興味を持った人と働き手を探している業界とをつなぐ、
日本茶に特化した求人サイト

小山さん:最近面白いな、と思うことがあります。Saténの店舗と日本茶メディア「Re:leaf Record」は、対外的には一緒に発信していないので、メディアを僕がやっているということを知らずに読んでもらっていることが結構あるんです。

Saténで知り合った方とお話している時に「実はこういうのを読んでいるんです」とRe:leaf Recordを見せてくれて、「それ、うちがやってます」とか。Saténでお茶を飲んでいるうちにお茶に興味が出てきたお客さんが調べたり読んだりしている雑誌やメディアの中にうちがあるって、嬉しいですよね。心の中で喜んでます(笑)

 

小野:Re:leaf Recordでは、新しく求人サイトも立ち上げましたね。

 

小山さん:10月からサイト内に、Re:leaf JOBsという求人サイトをトピックとして立ち上げました。現状では、日本茶の世界にせっかく興味を持って調べようとしても調べる場所がなく、働く場所も探せないんです。僕も最初に日本茶のカフェで働きたいと思った時も、ハローワークに行くしかありませんでした。今でもその状況は変わっておらず、個別の店舗のSNSなどをフォローしていない限り、なかなか求人まで辿りつけません。

日本茶インストラクターという資格を持っている人たちもすごくたくさんいますが、その人たちでさえ働き口がないという問題を抱えているんです。一方で、時給2,000円を出しても誰も捕まらない茶業者もあって、ものすごいミスマッチが起きています。しかし、それをなんとかしようという動きは業界としてはなく、ただただお茶を飲む人を増やそうという動きに止まっています。

だからこそ僕らは人にフォーカスをして、抽出者としての日本のプレイヤーを増やしていかなければならないと思っています。

そもそも、日本茶業界は本当に成り手がおらず、人手不足が深刻化しています。この10年で農家さんの数も5分の1になったという泣くような数字が農林水産省から出ています。農家も減り、問屋さんも減っていく。どうにかしないと日本茶がなくなってしまう可能性さえあります。

だから、求人情報をRe:leaf JOBsで集めて、求人を作る。そうしたら、働きたい人は働く場所が見つかりやすくなるし、働いて欲しいと思っている人たちの思いや労働条件などを伝えることでマッチングできるようになるんじゃないかなと考えています。業界内外をつなぐハブのような機能にもしていきたいと思っています。

 

小野:農業にかかわらず、業界に対して興味を持っている人を雇用するのがすごく難しい時代になっていることは僕も会社をやっていて感じています。例えば、場を作るという意義を掲げた時に、カフェのスタッフを雇用するのとは意味合いが違いますよね。

その点、今回のRe:leaf Recordで面白いと思ったのは、まず、日本茶という業界は決まっているわけです。もう少しリクルーティング記事が溜まってくると、日本茶業界といっても日本茶を作るのか、流通サイドに入るのか、さまざまな職種があるんだ、というのが見えてきて、お互い出会えるんじゃないかなと感じています。ニーズは小さいかもしれないけれど、すごく大義があると思いました。

 

ニッチな日本茶業界の課題を超え、嗜好品としてのお茶の価値を高めたい

小山さん:ところで日本茶は誰でも飲んだことがあり、一般的に家でも飲まれるドリンクです。その中で僕らがしようとしているのは、お茶の嗜好性を高めること。言い換えれば嗜好品としてのお茶の価値をどれだけ高められるかを目指しています。

日本茶は歴史的に見ると800年以上も前、鎌倉時代ごろからあります。そして大正時代には毛糸に次ぐ輸出産業として高い事業性を持っていました。さらに、コンビニにお茶のゾーンができるほどの事業規模を持っているのは日本茶以外にありませんよね。歴史的にも、文化的にも、嗜好的にも、事業的にもこれだけ対応しているものは日本茶ぐらいです。

ただすごく勿体無いと思うのは、逆にそれに縛られてしまい、事業としてあまり発展していないということです。お茶屋さんは茶葉を売ることしか見てないし、茶道は文化しか見ていない。つながっていないんです。そこをつなげていけたら、食という文化を含めてもっと広域なことができるのではないかと考えています。

 

小野:小山さんはこれをずっと構想として持っていますよね。文化が強くあるということは、逆を返せばニッチだということです。食といった場合には余白がすごくあるけれど、日本茶に絞ると業界がギュッとなる。新しいことをやるときに食は本当にもうフリーダムだけれど、日本茶はガイドラインが見えている分、ポジティブな逸脱をしないと新しさが出なかったりするんだと思います。

 

小山さん:最近、都心を中心に野外や屋内でやるフェスなどがすごく厳しくなってきて、試飲すらできない場所もあったりします。お茶を淹れることはコーヒーと同じで調理工程になるのでできないんです。

 

小野:日本茶の場合は日常で飲んでいるからこそ、試飲してもらわないと、日本茶に高いお金を支払う大義のようなものが届きづらくなりますよね。

 

小山さん:本当に飲む体験をしてもらわないと何も始まらないんです。だからこそ、僕らみたいな日本茶の飲食店が増えてきたということは、逆にいうとそういう接点を求めている業界とがマッチングしているということだと思います。

 

やり尽くされているコーヒーと、まだまだ余白だらけの日本茶

小山さん:お茶業界はこれまでずっと、茶葉の販売というところにフォーカスし、いかに効率的に作るかという一点に向かっていました。どれだけスーパーに置いてもらうか、いかに量を販売するか、という方向性に向かっていたんです。

それが最近はこれまでは1トンで取引していたようなところが、僕らみたいに10kgとか少量単位になってきて、そこにものすごく価値が乗ってきています。それに伴い、その価値をどう見せればいいのか、お店のデザインだったりパッケージのデザインだったり、提供の仕方をどうしてかなければいけないのかを考える必要が出てきました。

 

小野:これまで考えてこなかった領域が、結構いっぱい手つかずのままあるんですよね。ニッチなんだけど、課題というか余白がすごいあって。

 

小山さん:それこそ僕はコーヒー業界を先に見ていたので、日本茶はそもそも急須で入れるというところから離れられないんだ、と感じましたね。

 

小野:コーヒーの方がある意味余白が少ないのかもしれません。幅が広かったんだけれども、すでにやり尽くされている。一方で、日本茶は縛りがあるんじゃないかと思いきや余白があり、これから開拓していけるところに面白さがありますね。

 

小山さん:多分、食の文化で日本茶ほど昇華されている文化ってないと思います。茶道として登り切っているのに、何もない、というのがすごく不思議な業界ですね。昭和に作られた急須からの発展が何もない、文化が令和の時代にない、という面白さしかないですよね。

 

小野:まだ空いてるぞと。

 

小山さん:めちゃくちゃ空いているぞと言いたいんですが、誰もそれに足を踏み入れなかったんですよね。僕も「やれないよ」「誰もお金を払わないよ」と言われてましたから。でも、それにハマる人たちは絶対にいる。抹茶ラテにこれだけの価値がつくなんて誰も思ってなかったと思いますが、僕たちがストーリーを持たせて美味しさを体験として伝えていった結果、ちゃんと伝わりましたから。でもそれに誰も気づいていなかった、それこそが余白ですね。

それに気づくと、その発展で色々な茶器が必要だよねとか、提供の仕方、オペレーションが必要だよねとか、フォーカスが向けられるようになり、気づく人が出てくる。ある意味僕たちは、選択肢を散りばめて見せることも大事なんだなと感じています。

 

小野:いろいろなところに余白を見つけて、面白がってくれる人が増えてくるとどんどん変わっていくでしょうね。

 

次回は11/14(火)に公開予定です。
Vol.4では、日本茶をハブに事業を展開する抽出舎のこれからにスポットを当てていきます。(つづく)

 

– Information –
株式会社抽出舎

Satén japanese tea
東京都杉並区松庵3-25-9
10:00~19:00
不定休(年末年始休業のみ)

Re:leaf Record

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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