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Food Future Session
2023.11.14. | 

[Vol.4]日本茶をハブに、個人や企業をバックアップしていきたい【抽出舎 小山 × Yuinchu 小野】

「Food Future Session」という壮大なタイトルで展開する、×Mo:takeの座談会。今回は、西荻窪の日本茶スタンド「Satén japanese tea」のオーナー茶リスタであり、株式会社抽出舎CEOの小山和裕(こやま・かずひろ)さんとYuinchuの小野正視の座談会です。今回のテーマは「『食』の世界のエンパワメント」。Vol.4では、日本茶をハブに事業を展開する抽出舎のこれからにスポットを当てていきます。

日本茶を、取っ手のあるマグで出している理由

小野:いわゆるカフェの場合、いろいろなジャンルがあっていいというベースの上で成り立っていると思います。それが日本茶の場合は、和風な雰囲気がひとつの売りになっているので、洋風のカフェっぽいお店で日本茶を取り扱っても、うまくいっている事例は少ないように思います。和風ど真ん中ではなくてもいいけれど、どこか和風のテイストは残しておいて欲しいという感覚なんだと思います。

 

小山さん:僕らはお茶を出させていただく時、マグカップで出しています。お茶業界では取手がない湯呑みで出すのが主流なので、これまでマグカップで出すという発想がなかったんですよ。僕らは、コーヒーのように手軽に飲めるようにしたいと思って、お抹茶などをマグで出すことにしたのですが、そうなった時にそれに適した道具がないんです。

コーヒーであればドリップなどいろいろな道具がすごく開発されて販売されている中で、お茶にはそういうものが何もありませんでした。だからこそいま、それに合わせた道具を作っていく商品開発もやらせていただいたりしています。

 

面白いのは、コーヒーは元々マグで出すのが当たり前なので、逆に湯呑みで出すのが最近の流行りになっているということ。

この矛盾というか、お互いのクロッシングみたいなのがあって。なぜマグなのか、なぜ湯呑みなのか、みたいなことがデザイン性を含めて理由づけされているので、それに合わせて使われるようにはなってきているなと感じています。

小野:すごく自由度が広がっていますよね。

 

主張するのではなく醸し出し、気づかないレイヤーで文化啓蒙する

小野:手前味噌ですが、Saténって和洋がちょうどいいバランスをついている感じなんですよ。内装を見て、「うわーっ!和風!」とはなるわけでないけれど、でも確かにそこに和があるんですよね。すごくセンスがいいなと思ったのが、マグが小ぶりで、デザインの入り方もマグというよりはお茶を飲めそうな和の感じなんです。カラーリングやサイズ感に、静けさというか、和の雰囲気がありますよね。

Saténが5,6年続いているのは、難しさがある中でそんな風にどこかに日本人らしさ、和風らしさを残している、というところのバランスがすごく絶妙なのもあるのかなと思います。

 

全体を最適化しなきゃいけないとか、いろいろな社会の文化を読み取ってやらなきゃいけないといった要素がありつつも、人が気づかないレイヤーで、ある意味文化の啓発もしていく、みたいなことが、食には必要なのかなと思います。すごく説明するというよりは、はいはいと言ってすっと出す、みたいな感じなのかな。小山さんを見ていると、宣言しているというよりは醸し出すということができているのかな、と思います。

 

小山さん:そうですね、僕らもよく取材を受ける時に言っているのは、カフェ自体が総合芸術だということです。見る人によって全然角度が違うんですよ、いいなと思う角度が。

このお茶はこういう生産者の方が作っていて、こういう味わいで、こういう嗜好性があります、というところに興味を持っていただく方もいますし、今小野さんがおっしゃったように「このマグ、可愛い」みたいなところに目を向ける方もいます。空間全体に興味を持つ方もいれば、スタッフとのコミュニケーションやサービスみたいなものにという方もいる中で、それら全てが揃ってないとカフェって成り立たないんですよね。

 

ある意味、レストランの方が料理が美味しければ、みたいなところがありますが、カフェがお客様に毎日、継続的にきていただくためには、全てが必要なんです。

だからこそ全部にストーリーがあって、「これはなんですか?」ということ全てに説明ができるようにはさせていただいていますし、一つずつに気づいてもらえるように設計しています。ただ、それを押し売りはしない。これはこうだからこうしているんですよ、気づいてください、なんてことはしない。質問がきた時に、それに対して応えられるように、と意識をしています。

 

日本茶を一つの選択肢としてもらうために

小山さん:今僕が、講師をしている専門学校でも会社でも伝えたいなと思っているのは、日本茶という選択肢を持ってもらうということです。お茶を飲んでくださいという押しつけをせず、広げていくために僕らができることはなんだろうと考えると、Saténという飲食店、Re:leaf Recordというメディア、Re:leaf JOBsという求人、抹茶ラテアート大会「Japan Matcha Latte Art Competition」というエンタメに関わっていただいた人たちに、日本茶というものに文化や嗜好性、可能性があることに気づいてもらうことだと思うんです。

気づいてもらえたら、それが選択肢として頭に残ります。その選択肢をどう使うかはその人に委ねることではあるけれど、例えば毎回みんながイライラしているミーティングの時に、お茶を出すだけでも変化が生まれるかも、と思ってもらえたらいいなと思います。デザインをやっている方たちも、ちょっとデザインに行き詰まった時とかに「お茶のデザインを参考にすると面白いかもしれない」と思ってもらえたりね。

お茶は一つのキーワードですが、選択肢を持つことですごく世界観が広がると思っているので、そうなってくるといいなと思っています。

 

小野:選択肢を広げてもらうために、今具体的に考えていることがあったらぜひここで教えてください。

 

小山さん:今後は、僕らがやってきたことに関係している企業さんとタイアップを組んだり、事業的に行き詰まっていたり課題感を持っている企業さんたちを、これまで蓄積してきたノウハウやツールを使ってバックアップできたらいいなと思っています。

というのも、僕らは「日本茶に関わる点を増やす」というミッションを掲げ、日本茶の関係人口を増やすことも目的としているので、企業の課題解決やノウハウ提供を通して、
さりげなくお茶を入れつつ、企業やクライアントのお手伝いができればと思っています。それが日本茶への発展にも繋がると思っています。

 

小野:日本茶をハブにして事業を展開している小山さんのやり方は、いわゆるライフスタイルを作るところです。僕もYuinchuで人々のライフスタイルのどこかの部分をデザインしているので、今後も共存していきたいなと思っています。Yuinchuは、食というかなり幅広いジャンルを扱っているので、そこである意味日本茶的な嗜好性の考え方が必要と感じた時にはタッグを組んだりすることもあるだろうし、抽出舎をサポートする立場としても、抽出舎が他者をエンパワーメントできる企業であるといいなと思っています。

全部現場と思うといいかもしれませんね。生産者も、店舗も、流通を管理している人も現場だし、会社を経営することも現場。全ての現場がシームレスに繋がっていくことで、食をエンパワーメントしたいという思いも一元化するのかもしれません。

 

– Information –
株式会社抽出舎

Satén japanese tea
東京都杉並区松庵3-25-9
10:00~19:00
不定休(年末年始休業のみ)

Re:leaf Record

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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