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Food Future Session
2023.11.07. | 

[Vol.2]コロナ禍で失うものがあったからこそ見えてきたもの、得たもの【抽出舎 小山 × Yuinchu 小野】

「Food Future Session」という壮大なタイトルで展開する、×Mo:takeの座談会。今回は、西荻窪の日本茶スタンド「Satén japanese tea」のオーナー茶リスタであり、株式会社抽出舎CEOの小山和裕(こやま・かずひろ)さんとYuinchuの小野正視の座談会です。今回のテーマは「『食』の世界のエンパワメント」。Vol.2では、Satén japanese teaの3年目にやってきたコロナ禍で一時的に失ったものと、そこから見えてきたものや新たに得たものについてお聞きします。

コロナ禍では、日本茶を体験してもらう場も、エンタメとしての楽しみ方を伝える場もなくなった

小山さん:Satén japanese teaを立ち上げて以降、抹茶ラテ、そして抹茶プリンがバズったことでオープンから2年で抹茶専門店として認識されるようになっていました。でも僕らは、抹茶専門店ではなく日本茶スタンドなんですよね。メディアからの原稿確認がくる度に「日本茶スタンドです」と修正をお願いしていました。3年目に入る時にはどうやったら日本茶全体にフォーカスしてもらえるかに取り組もうとしていたのですが、その矢先の2020年1月、コロナの感染が広がり始めました。

2、3月ごろは、観光地など人が集まるところに行けなくなった人たちが西荻窪などマイナーな駅に行くようになり、Saténにも多くのお客さんが来て過去最高売上となったりしてたんです。

それが3月を過ぎたら、急にパタっとお客様が来なくなったんです。緊急事態宣言で完全な自粛が始まり、4月の売上は5分の1程度まで一気に下がって。3年目からいろいろやろうと思っていたのに、何もできなくなったというのがコロナの始まりでしたね。

 

小野:その頃は僕らも本当に同じ気持ちだったんで「気持ちわかるよ」というアドバイスしかできませんでした。ここまでマクロに起きていることだから焦っても意味がないね、というようなことを言い合っていましたね。

 

小山さん:実はコロナ前から、僕らが使っている茶葉や僕らが選んだ茶葉を使ってもらう茶葉の卸にも動き出していました。カフェだけでは売上が立ちにくいですし、飲食店の同業から日本茶の業者の選び方やお茶の扱い方についての質問をいただき始めていたからです。2019年に始めた世界初の抹茶ラテアート選手権「Japan Matcha Latte Art Competition」にはトップのバリスタも出場したりと日本茶業界以外の飲食業界の方々から注目していただいていたので、そこからも茶葉の卸や販売につながっていました。

 

ところがコロナでお店も止まるし、卸も止まってしまいました。僕らは日本茶を伝え、体験していく場としてお店をやり、エンタメとしての楽しみ方を伝える場としてコンペティションをやっていましたが、その両方がなくなってしまったわけです。飲食店としては、お客さんに「来てください」と言えないのがすごいストレスでしたね。

 

「ないなら作ろう」。アーカイブに重きをおいた日本茶メディア「Re:leaf Record」の誕生

小野:そんな中、コロナ禍に始めたインスタライブが人気になりましたね。

 

小山さん:静岡や屋久島の日本茶の農家さんとつないでインスタライブをやらせてもらっていました。普通に営業時間内でやってましたから、お客さんに「何やってるんですか」と言われながら(笑)

 

やっているうちにふと思ったんです。お茶業界にはメディアがないなと。スポットでHanakoやポパイなどのカルチャー誌には取り上げていただいていましたが、継続的に発信する場がないので、情報に触れてもらいにくい。いくらインスタライブで「この農家さんは車で30分です」とか「電車で1時間です」と言っても、農家さんにいきなり行く人はなかなかおらず、次のアクションにつながらないと感じていました。

そんな時、カフェのメディア「CafeSnap」をやっている大井さんに、「サイトがないから自分たちで作りたい」と相談したところ、快く引き受けてくださったんです。もちろん、SNSやネットニュースで、新しい商品やイベントの情報は流れて来ますが、例えば日本茶の新しい飲み方なんかは、毎年同じ話題が繰り返されて出てくるんです。そこで、アーカイブを残すためにメディアを作り、情報を蓄積していける新たな日本茶メディア「Re:leaf Record」を始めることになりました。

 

小野:それを初めて聞いた時、メディアを作り切るという意味では、このコロナを逆手にとったらチャンスなんじゃないかと思いました。長い付き合いの中で、日本茶文化を広げていきたいという小山さんの思いを知っていましたし、元々メディアに対する構想も持っていましたから。

それに僕自身もこのMo:take MAGAZINEをやっていて、アーカイブできることのメリットをすごく感じていました。自分達の思いも語れるし、誰かの思いを受け止めることもでき、有益な情報も届けることができますから。

ありがたいことにコロナで補助金もあり、このタイミングでメディアの運営に投資する意味もわかりやすかったですし、普通に考えるとものすごいピンチではあるけれど、「今やらないでいつやるの?」という形で、相当背中を押したのを覚えています。

 

小山さん:完全に否定されるかな、止められるかな、と思ってたんですけどね。「今はそこじゃないだろ、店を頑張れ」とか(笑)

僕自身、店のことだけでも手一杯なのに新しいチャレンジをすべきかどうかは正直迷っていた部分はありましたが、業界がせっかくここまで来たのにこのままでは全てなくなってしまう、という危機感の方が強かったので、作りたいという気持ちが勝ちました。

 

抹茶ラテではなく、リーフのお茶を飲みに来る人が増えた

小野:メディアの立ち上げ以外にコロナ禍をへて起きた変化などはありましたか。

 

小山さん:嬉しいことに開店以降、いつもお店が混んでいたんです。それがコロナ禍でお客さんがいなくなったので、逆にこれまで入れなかった地域のお客さんが来られるようになり、常連化するという流れもありました。僕らは、Satén japanese teaを発展させて全国展開させたいわけではなく、日常に溶け込み、ふらっと立ち寄って日本茶を飲む、地域に根付いたお店を日本茶スタンドで作りたいと思っていました。ある意味、その原点に戻ったような感覚を抱きました。

コロナ前は現場に四六時中入っていましたが、コロナ禍になってメディアも運営するようになり、僕らが本来やりたかったことはどういうことなのかを本当に考えましたね。今、コロナ禍が明けて、その期間で考えてきた構想を実装し、打ち出していくのがこれからだと改めて感じているところです。

お茶業界の状況も、コロナ前とは大きく変わったと思います。今やどこでも見かけるペットボトルの抹茶ラテですが、当時はありませんでしたから。

 

小野:確かに! なかったですね。

 

小山さん:それが今や大手飲料メーカー各社が出しています。抹茶ブームの先駆者として僕らがいて、抹茶ラテを出し続けたからこそ、今、抹茶ラテの「先」にきていただけるお客さんも増えたんだなと感じています。お店でも、最初からリーフのお茶をオーダーされる方がじわじわ増えてきていますよ。

 

小野:それは嬉しい変化ですね。

 

小山さん:日本茶業界以外の方からも注目していただくことが多くなって来ましたし、抹茶専門店ではなく、日本茶専門店として認知されるようになってきました。これがコロナ禍を経て得たものだと感じています。

 

次回は11/9(木)に公開予定です。日本茶の歴史的背景や業界の課題などを広く見渡しながら、それに対してできること、やりたいこと、面白さなどについて語っていただきます。(つづく)

 

– Information –
株式会社抽出舎

Satén japanese tea
東京都杉並区松庵3-25-9
10:00~19:00
不定休(年末年始休業のみ)

Re:leaf Record

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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