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コーヒースタンドを起点とした場づくりの舞台裏
2022.06.30. | 

[Vol.1]建築まわりの大事なことを軸に人との関係を支えたい【AROUND ARCHITECTURE 佐竹雄太×Yuinchu 小野】

都内の住宅街に小さなコーヒースタンド「AROUND ARCHITECTURE COFFEE」がオープンしました。場所は、広さ10坪の土地に建つ3階建て住宅兼オフィスの1階。持ち主は、建築と人をつなぐ株式会社AROUND ARCHITECTURE代表の佐竹雄太さんです。一級建築士、MBA、建築家住宅専門の不動産サイトの編集長、さらには建築にまつわるあれこれをラップで表現する建築ラッパーなど、かなり多彩な顔をもつ佐竹さん。まずは気になるそのキャリアについて伺いました。

コーヒーが飲めてミニギャラリーも。本当に不動産の会社?

閑静な住宅街にコーヒースタンド「AROUND ARCHITECTURE COFFEE」がオープンしたのは今年5月下旬。日曜と月曜の2日限定の営業をベースに、ゆるやかな雰囲気のなかコーヒーを提供しています。

場所は、わずか10坪の土地に建つ小さな住宅兼オフィスの1階。真っ白な壁を引き立てる採光が訪れる人を包み込む、とても心地いい空間です。

併設されたミニギャラリースペースでは、ちょうど建築家の堀越優希さんが描いたドローイングが展示中でした。堀越さんは、建築家としての活動にとどまらず、絵本の作画や教科書の挿絵など豊かな絵の表現力が高く評価されています。今年4月からは東京藝大の建築科助教に着任されたそう。そんな気鋭の建築家さんの作品が、ギャラリースペースを彩っています。

オリジナルのキャップをかぶって取材チームを迎えてくれた佐竹さんはとても穏やかでラフな雰囲気の方でした。

「以前から堀越さんの描くドローイングが好きで、オープンに合わせて展示させてもらえるようにお願いしたんです。コーヒーを飲みながら建築家のいろいろな作品を知ってほしいですね」と、ギャラリーのオーナーとしての顔ものぞかせます。

繊細なタッチと鮮やかな色彩が目を引く堀越さんの貴重な原画などを展示した期間中、たくさんの人が訪れたとのこと。

あれ?そういえば、不動産を扱った会社だと聞いていたのですが、「不動産会社」というイメージとは違います。ギャラリーで展示が楽しめて、コーヒーも飲めるなんてどういうことでしょう?

 

佐竹さん:主軸は不動産のコンサルタントですが、昨年12月に自宅兼事務所としてこの家が完成しまして。「ここでコーヒースタンドをやりたい」と、ふっと思いついたんです。このギャラリースペースも、ふだんはオフィスとして使っています。作品もライトも天井からマグネットで吊るしているので、可動性が高いんです。いろんな形で使えるスペースになっています。

せっかくいろいろ使えるスペースをつくったので、不動産に関わらず、幅を広げながら仕事をしていきたいと思っています。

 

仕事での挫折を経て一級建築士の資格を取得

物腰が柔らかく、それでいて不動産の枠におさまらない仕事を楽しみながら広げる。そんな佐竹さんのこれまでのキャリアについてお聞きすると、「紆余曲折ありますが…」と話し始めてくれました。

 

佐竹さん:建築学科の大学院を卒業後、アトリエ事務所に就職しました。当時、建築学科の学生たちの多くは大きな目標を持って社会人になっていたんですよね。「いつかは自分の設計事務所を持って、自分が手掛けた建物を世に出したい」と。僕も同じように夢を叶えたくてアトリエ設計事務所に就職しました。

今思えばいい修行だったんだと思いますが、入ってみるととにかく多忙で。目の前の仕事にひたすら取り組む一方で、なかなか将来が見えてこないことに焦っていました。特に、建築設計事務所で独立するためには一級建築士の資格は必須なのですが、建築の世界で働き始めたばかりの若手は、仕事が忙しすぎて取得できないまま独立できない人が少なくありません。僕もそんな状態で。このまま行くのは違うと思って退職しました。そして、1年と時間を区切り、時間に融通の効くフリーターとして居酒屋で働きながら、一級建築士の資格を取ったんです。

 

一級建築士を取得した佐竹さんは、住宅の設計を手掛ける会社へ再就職します。お客さんとのコミュニケーションから生まれる発想を自由に活かしながら、唯一無二の住宅を作る仕事で実績を重ねていく仕事には手応えを感じたそう。

 

佐竹さん:ただ、当時の自分には、独立するために必要な、他の建築家と差別化できる長所をまだ見つけられないでいました。そこで、日本とは違う環境で経験を積みたいと思い、先輩に紹介してもらったベトナムの設計事務所で働き始めました。ところが建築様式や工事の技術力などがあまりにも日本と違いすぎて、悩んだ結果数ヶ月で帰国したんです(笑)。ある意味、特殊な経験でしたね。

 

施主側の立場を尊重した不動産のコンサルティングを

佐竹さんは帰国後、創造系不動産株式会社に就職しました。創造系不動産は、建築家と協働しながら不動産コンサルティングを行う会社です。ユニークなスタイルに見えますが、佐竹さんたちはどんな風に仕事をしていたのでしょうか。

 

佐竹さん:建築家が施主さんから依頼を受けて家を建てる時に、不動産に関する部分の相談に乗るのが主な仕事でした。施主さんに対して土地やマンションなど不動産探し、住宅ローンのマネジメントをしたり、また、地主さんに対して土地の有効活用の相談に乗ったりもしていました。建築や設計のことを理解できている人が不動産の相談に乗るというのは、他にほとんど例がないと思います。創造系不動産では6年くらい働いて、今の僕のビジネスモデルの礎もここで形づくられました。

建築と不動産は、近いようで実際はすごく離れています。例えば建築家が不動産会社とちゃんと協働して仕事をするケースは実は多くはありません。だからこそ、建築と不動産をつなぐ存在が必要なんです。

一般的な住宅のご依頼だと、まず、施主さんから建築家に相談が来ます。「土地があって何か建てたいけれどどうしたらいいか分からない」「まだ土地が見つかっていない」など、施主さんの方はいろいろな悩みを持っています。スムーズに建築へ進められない壁は、たくさんある。かといって、建築家は土地のことを聞かれても困ってしまうわけです。

そこで、建築の知識をもって土地探しやコンサルティングができる仲介役が必要となってきます。

 

次回は7/5(火)に公開予定です。建築を専門的に学び、実績も積んできた佐竹さんが見つけた不動産コンサルティングという仕事を、独立後はどんなふうに進化させていったのでしょうか。コーヒースタンドの誕生秘話もお伝えします。(つづく)

 

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ライター / たかなし まき

愛媛県出身。業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。人の話を聴いて、文章にする仕事のおもしろみ、責任を感じながら活動中。散歩から旅、仕事、料理までいろいろな世界で新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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