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コーヒースタンドを起点とした場づくりの舞台裏
2022.07.07. | 

[Vol.3]多様な人を巻き込めば、仕事とまちはもっと豊かになる【AROUND ARCHITECTURE佐竹雄太×Yuinchu 小野】

不動産コンサルタント・建築メディエイターの佐竹雄太さんが今年春オープンしたコーヒースタンド「AROUND ARCHITECTURE COFFEE」。敷地10坪の小さな3階建て住宅兼オフィスに併設されたこのスペースには、街の人たち、事務所に用事のあるお客さん、建物に興味を持った建築家や建築学科の学生など、いろいろな人たちが出入りします。そんな場の始まりについて、佐竹雄太さんとYuinchuの小野が語ります。

誰かに頼めば1人の時よりもっと楽しくなる

 

佐竹さん:HYPHEN TOKYOとの出会いは、別の建築のプロジェクトで小野さんと出会ったのがきっかけです。その時は、「いろいろやっている方だなあ」と(笑)。

建築業界はどちらかといえば固い印象の人が多いので、小野さんは、普段あまり見かけないタイプの人だなと思いました。その後ですね、自分の自宅兼オフィスでふと「コーヒースタンドをやると面白そう」と思ったのは。すぐに小野さんの顔が浮かんだんです。

「こんなに小さなプロジェクトだけど受けてもらえるかなあ」と心配もしつつ(笑)、思い切って依頼しました。そうしたら、快く受けてくださってよかった。大変なこともありましたが、コーヒースタンドを起点に、街の人とゆるやかにつながれる場をつくることができました。

 

小野:佐竹さんと出会って思ったんですが、とにかく人を巻き込むのがうまいんですよね。

 

佐竹さん:建築の設計をする人たちって基本的に器用なので、自分で何でもやってしまいがちなんです。デザインも好きだからロゴも作れるし、勉強熱心だから自分でやろうと思えば何でもやれます。でも、僕は頑張りすぎないスタンスというか、自分よりも上手な人に頼めばもっとクオリティの高いものが期待できるし、人に頼みながら一緒に進めたほうが楽しいって思うんです。だから、僕は何かプロジェクトを始める時には、誰かに頼むんですよ。

コーヒースタンドをやりたいと思った時も、自分一人で試行錯誤するよりは、できる人に相談しながら進めたほうがよりクリエイティブだし、面白いと思いました。真っ先に小野さんに依頼しようと思ったのですが、最初は心配だったんです。「自宅の片隅に開くような、こんな小さなプロジェクトを小野さんにお願いしてもいいんだろうか」って。申し訳なくて。

 

小野:プロジェクトの規模でいうと、最小ではありました(笑)。

 

佐竹さん:やっぱり(笑)。

 

小野:でも、これは正直な気持ちですが、佐竹さんからご相談があった時は、「きたっ!」と思ったんですよ。佐竹さんはとても気を遣いながら依頼してくださったのですが、僕は「やった!」と思っていたんです。

 

難しい壁を越えていくこと自体を楽しむ

 

小野:どうして「やった!」と思ったかというと、理由は2つあります。1つは、佐竹さんの不動産コンサルティングとしての仕事を知った時に、売買優先のビジネスがある一方で、施主の相談内容を丁寧に聞き、解決の可能性を探りながら不動産と建築をつなげる、「そんな人がいるんだ」と思ったんです。

佐竹さんが「AROUND ARCHITECTURE」を設立した時には、まさに建築業界のまわりにある大事なことに、佐竹さんのやり方で食い込もうとしているんだと思いました。こんなに面白いことをやろうとしている人が身近にいると思うと嬉しかったですね。

もう1つは、佐竹さんがコーヒースタンドを起点に街を巻き込んでいこうとしていることを知って、その本気に驚いたんです。それはまさにHYPHEN TOKYOが自分たちの存在価値だと思っていることのど真ん中です。「これは僕らがお手伝いしないと!」とすぐに動きました。

 

「佐竹さんが気にするほど規模のミニマムさは壁と思っていなかった」と話す小野。制限のある空間であることから、かえって新たな発想も生まれたと言います。

 

小野:最初の打ち合わせの時はまだ建物自体が出来上がっていなくて、現場を見た時に、正直言うと、どこに何を置こうか悩みました。これまでHYPHEN TOKYOが関わらせていただいた場の中で、一番ミニマムなスペースです。完成した時は、「やり切った!」と思いましたね。

逆に小さなスペースになったので佐竹さんが納得してくれるかな、とはちょっと考えましたね。

 

佐竹さん:それは、まったく抵抗はなかったです!

 

小野:よかったです(笑)。

佐竹さんの仕事でも、きっと「この壁をどうにか乗り越えなければ」という時が出てきますよね。今回、いろいろな制約がある中で進めていきながら、佐竹さんもきっと、いろいろな壁を楽しみながら越えていくのかなと思えたんです。施主さんと、作り手と一緒に。

 

おじいちゃん、おばあちゃんがベンチに座ってくれる

小野が投げかけた壁を越えることへの姿勢や思い。どんな仕事でも壁は存在しますが、佐竹さんは「建築や不動産のハードルを下げたい」という思いが大きな原動力となっているようです。

 

佐竹さん:僕の仕事でも、僕たちが入らなければ成り立たなかったということは、やっぱり建築と不動産のあいだにはハードルが存在するということなんですよね。だから、なんとかその壁を越えて、さらにハードルを下げたいです。

今回のプロジェクトは純粋に楽しかったです。小野さんが関わってくれたのも大きかったですよね。「小野さんがいるから大丈夫」と安心できました。

 

小野:最初、佐竹さんからご相談があった時に、「絶対にお互いのポートフォリオに残しましょう」と話したんですよね。こんなふうに住宅街に、コーヒースタンドをきっかけに街とつながれる場所があるなんて面白いですから。「そういえばここは自宅なんだ」「オフィスなんだ」って、意外性を楽しませてくれます。

 

佐竹さん:そうですよね。どんどん先へつながって広がっていきそうな予感があります。外にベンチを置いておくと、おじいちゃん、おばあちゃんが座ってくれるんですよ。座る場所があるから座る感覚で。この辺りにはたくさん年配の方も住んでいるんです。

コーヒースタンドを開店していない日も、僕は自分にコーヒーを淹れています。打ち合わせに来たクライアントにも、お店で出しているコーヒーをふるまうんです。すごく喜ばれますよ。メニューを出して「どれにしますか?」と選んでもらって。お客さんからしたら、ちょっとした贅沢かもなあと。

コーヒースタンドにお客さんが来てくれて、ミニギャラリーの展示を見てもらって、知人には2,3階の自宅も案内して。みなさん、コーヒーが飲めて、展示も楽しめて、建築家の建てた建物も見学できて、「すごく満足した」と言って帰っていきます。いい場の使い方ができているなと嬉しくなります。

 

次回は7/12(火)に公開予定です。コーヒーをきっかけに、地元の人たちの間でも溶け込んでいる佐竹さんの空間。これからどんなつながりが広がっていくのでしょうか。佐竹さんと小野との話にも熱がこもります。(つづく)

 

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ライター / たかなし まき

愛媛県出身。業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。人の話を聴いて、文章にする仕事のおもしろみ、責任を感じながら活動中。散歩から旅、仕事、料理までいろいろな世界で新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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