2018.12.11. | 

[第3回]藤野のお山の食まわり:今年も柚子を煮詰める季節です

移住者があとを絶たない神奈川県の山あいのまち、旧藤野町。12年前に移住し、現在は山奥の古民家に暮らすライター・平川まんぼうが、藤野での、食にまつわる日々を綴ります。

秋の三大もらいものといえば、柿、栗、柚子である。

なかでも柚子はすごい。柿と栗は、年によってはもらい損ねてしまうこともあるのだけれど、柚子だけは、毎年山のようにいただける。藤野は、柚子が特産品にもなっている地域だ。おうちの庭や畑の片隅に、柚子の1本や2本は植わっていることが多いのだ。

今年も早々に、回覧板を届けに行った近所の方からどっさりと柚子をいただいた。庭に立つ大きな柚子の木は、その方が子どもの頃、食べたあとの種を植えて、そこから育ったものだそうだ。苗木で買うとすぐに実がつくけれど、種から育てるとなかなか実はつかないらしい。初めて実がついたのは、じつに30年後だったと言っていた。

今、私たちはそんなに気長に実りを待てるだろうか。次の世代のために植えるようなものだなと、たわわに実った柚子の木を見上げて、その時間の長さを思った。それから、大切にいただかなくては、と思うようになった。

しかし、柚子というのは野菜のようにじゃんじゃん食べて消費できるものでもないのである。

外皮は千切りにして薬味に。果汁は絞って甜菜糖を入れ、お湯を注いで即席のゆず茶に。レモンがわりに唐揚げにひとかけ。ドレッシングもつくってみる。しかしこれでは、せいぜい3つぐらいしか食べられない。鮮やかだった黄色は、だんだんとくすみがかって、早く食べろと急かしてくる。いかん。このままでは、食べきれずにゆず湯行きだ!

そこで時間を見つけて、保存食づくりが始まる。

柚子の保存食の鉄板といえば、柚子ジャムだ。難しくはないのだが、手間がかかる。あとからあとからもらう年や、仕事が忙しい年は、とうとう使いきれずにゆず湯にしてしまうことも正直ある。でも今年は、いただいた柚子にまつわる物語を、聞いたからかもしれない。ちゃんと全部いただきたかったので、はりきってつくることにした。

柚子をふたつに切り、果汁を絞る。薄皮と種とに分け、薄皮はザクザク細かく切る。外皮は千切りに。性格が大雑把なので、だいぶ太めの千切りだが、気にしない。そんな雑な千切りをするだけでも、手が痛くなるほどの量なのだから。千切りが終わると、それを鍋に入れ、グツグツ煮込み、茹でこぼす。3回ほど繰り返してアクを取る。その後、外皮と薄皮、果汁と水、甜菜糖を入れ、とろみづけにお茶パックに入れた種も入れて、再びコトコト煮込む。種は途中で取り出しつつ、だいたい15分ほど煮込んで、出来上がり。熱いうちに瓶詰めする。

今年は、大きな瓶にちょうどいっぱいの柚子ジャムができた。甘さもほどほど。とろみもばっちり。できてしまうとまるで宝物のようにかわいくて、もうコンビニでおやつを買う気などしなくなってしまう。冬の間、パンやクラッカーに塗ったり、お湯を注いでゆず茶にしたりと、大活躍してくれることだろう。

たくさんあったら保存食にする、は山の鉄則だ。そのときはちょっぴり大変でも、食べ物を腐らせることなく、日々の料理の手間も省けるから、結果的にとても楽になったりする。つい目の前の出来事を優先してしまうけれど、「先を見通して動く」ことがもう少しうまくなれたらと、保存食をつくるたびに、そう思う。

ライター / 平川 友紀

リアリティを残し、行間を拾う、ストーリーライター/文筆家。1979年生まれ。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごし、生き方や表現について多くのミュージシャンから影響を受けた。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。その多様性のあるコミュニティにすっかり魅了され、現在はまちづくり、暮らしなどを主なテーマに執筆中。通称「まんぼう」。

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