2019.08.29. | 

地域の人たちが働く、地域の人たちのためのカフェ〜武蔵野台商店〜

2019年2月、京王線・武蔵野台駅(東京都府中市)の“駅ナカ”にカフェ「武蔵野台商店」がオープンしました。抽出舎の茶リスタ・小山和裕さんとバリスタ・藤岡響さんがドリンクメニューを考案し、スタッフのトレーニングをお手伝いした店舗です。これまでに100人を超えるバリスタのトレーニングや育成に携わってきた藤岡さんですが、今回のトレーニングはちょっと勝手が違ったとか。新たな気づきも多かったという武蔵野台商店について、詳しくお聞きしました。

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駅ナカのスピード感と、居場所としてのゆったり感を

どう掛け合わせるか

ドリンクメニュー開発とドリンク機材のディレクション、そしてスタッフのトレーニングという3つの柱で依頼を受けたという武蔵野台商店。まずはお店のコンセプトについてじっくり話を聞くことから始めたそうです。

 

小山さん:武蔵野台商店には、「店」という場を通じて、地域の人たちといっしょにどのような「場」が必要かを考えつくっていくという、大きなテーマがありました。丁寧に時間をかさねてつくるコミュニケーションと、駅ナカならではのクイックで最小限のコミュニケーション。この二つをどうやったらうまく掛け合わせられるかを考えて、メニューを考案していきました。

 

藤岡さん:都心のカフェではないので、地域の人が親しみやすく、日常的に使ってもらえるようなメニューや価格設定も心がけました。チェーン店よりも質はいいけれど、リーズナブル、というイメージです。同時に、飲食経験のあるプロではなく、地域の人が働ける場にしたい、というクライアントの意向があったので、品質は維持しつつもすぐに作れて、誰でも安定して提供できるオペレーションを考えました。

 

そうしてできたのが、コーヒー、緑茶、オレンジジュース、そしてカフェラテや抹茶ラテというメニュー構成です。地域住民のコミュニティの場というコンセプト上、家族連れが楽しめるように、サイダーやクリームソーダといった、フードコートを連想させるドリンクもメニューに入れ、様々な方がいろんな場面で利用しやすいものにしました。

 

 

バリスタや日本茶の専門家を育てるのではなく、

その店のお客様が満足できるサービスを提供するプロを育てる

さて、メニューが決まれば次はスタッフのトレーニングに入ります。経験のない地域の人たちでも淹れられることを考えて作ったメニューとオペレーションでしたが、それでも、これまでの経験通りには進まないトレーニングだったそうです。

 

藤岡さん:僕がこれまでトレーニングしてきた人たちは、バリスタになりたい、カフェを開きたい、といった志を持った人たちでした。でも今回は、下は10代から上は60代までいる“素人集団”。全くの未経験の人たちに教えるのは本当に初の試みだったので、やはり苦労はありましたね(笑)

これまでは最初のトレーニングでレシピを1枚渡しておけば、2回目のトレーニングの時にはそれを覚えた状態でスタートできたんですが、今回は覚えるのが難しい人もいました。なので、カンペを見ながらドリンクを淹れることも想定したトレーニングにしたりと、臨機応変に変えていきました。お店としては、バリスタや日本茶のプロを育ててほしいわけではなく、その店のお客様に満足してもらえるサービスが提供できる人を育ててほしかったからです。

教える側の自分たちの目線を、教えられる側の目線まで下げるようにもしました。今までのやり方よりもっとわかりやすく、できるだけ専門用語を使わずにかみ砕いて伝えるように心がけたりと、すごく気づきの多いトレーニングでしたね。

 

とはいえ、お店としては常にブレずにいい品質のものを提供しなくてはなりません。そこで、技術が足りない部分をカバーしてくれるような道具や機器の導入をクライアントに提案し、実際に導入してもらうことができたそうです。

 

藤岡さん:もちろん、その分費用がプラスでかかってしまうのでシビアな部分ではあります。だからこそ、なぜこのレベルの器具が必要なのか、その重要性を理解してもらえるように丁寧に説明することはとても大切な部分でした。

 

 

未経験の人たちのトレーニングで感じた

手応えと、喜び

そして2019年2月に、武蔵野台商店がオープン。バタバタする最初の1カ月間は週に2回、藤岡さんがお店に入り、お客様の反応を見たり、スタッフのオペレーションの確認をしたそうです。

 

藤岡さん:実際にオープンしてみたら、ドリンクのレベルはすごく高かったと思います。普通に飲んで美味しいコーヒーや日本茶が当たり前にできていて、品質にはまったく問題がなかったですね。

そういう意味では、経験がまったくゼロの人たちをトレーニングすることにもすごく手応えを感じました。自分たちで品質を向上させようと淹れ方を練習していたりする姿を見るのはとても嬉しかったですね。

 

小山さん:元々、バリスタや日本茶の専門家を目指していたわけではないスタッフのみなさんが、コーヒーや日本茶に興味を示して下さるっていうのは本当に嬉しいですよね。トレーニングした人が西荻窪の「Satén Japanese Tea」に来てくれたりもしますが、それもトレーニングがあったからこその関係性です。こんなふうに、関係がつながっていくのはいいですね。

 

オープンから半年以上が経った現在も、定期的にマシンの調整をしたり、オペレーションを確認したりと、引き続きお店に関わり続けているとのこと。武蔵野台商店のような、抽出舎が立ち上げの支援に関わる店舗は今後、各地で生まれていくことでしょう。

 

 

– Information – 

株式会社抽出舎

東京都杉並区善福寺3-16-13

https://saten.jp/profile

 

Satén japanese tea

東京都杉並区松庵3-25-9

<火~木、土日>10:00~21:00 

<金>10:00~23:00

https://saten.jp/

 

武蔵野台商店

東京都府中市白糸台4-18-4

https://musashinodai-syouten.com/

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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