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抽出家、藤岡響さんに聞いてみた
2023.07.13. | 

[第6回]試してみたら意外な味に!抽出のトライ&エラー:抽出のプロ、藤岡響さんに聞いてみた

ドリンクやフードの世界で、近ごろ「抽出」が注目されていることをご存知ですか?美味しさや成分をさまざまな方法でひきだす「抽出」。その奥深さに魅せられ、抽出を探求し、広めているのが、抽出家の藤岡響さんです。Mo:takeサポートクリエイターでもある藤岡さんに、編集部メンバーが「抽出」のことを教わります。皆さんも、藤岡さんと一緒に抽出の世界をのぞいてみませんか?

抽出するとおいしくなるもの、抽出には向かないもの

抽出家の響さん、こんにちは。
抽出の魅力を響さんに教わるこのコラムも6回目になります。いままでいろいろな抽出の魅力を教わってきましたが、響さんのこれまでの抽出研究の中で、「半信半疑で抽出してみたけれど、やってみたら意外と美味しかった!」というもの、逆に、「試しに抽出してみたけれど、正直イマイチだった・・・」というものがあれば知りたいです。(編集部/T)

Tさん
こんにちは。
ご質問ありがとうございます。

意外と美味しかったもの、イマイチだったもの。
自由度の高いお題をありがとうございます!!

まずは意外と美味しかったものを答えていきますね。

ここ最近は薬膳系の素材に注目していて、普段目にすることの少ない珍しいものを買い集めています。

先日は、「茶外茶」と呼ばれるチャノキ以外のお茶系やチャーガきのこやウラジロガシ、玉竹、ヒュウガトウキなど、あまりドリンクで用いられない珍しいものを抽出して、コーラナッツを加えてクラフトコーラに仕立てました。

単体で抽出すると渋かったり苦かったりと扱いにくいものが多いのですが、組み合わせて使うと香りに深みが出て面白かったです。

クラフトコーラに仕立てる際には、酢を砂糖と一緒にメイラード(火入れ)してキャラメルソースにする「ガストリック」というフレンチの技法を用いて、酸と香りのレイヤーを作りました。

シンプルに素材の持ち味を抽出するだけでなく、組み合わせる事でネガティブな要素を補ったり、味わいを強化したりと試してみると、抽出の表現の幅や可能性はまだまだ広がると思いましたね。

また、ほうじ茶と和紅茶をブレンドした茶葉を、コーヒー液を使って抽出してみたりと奇抜な事にも挑戦してみました。

抽出する際の水には、なるべく不純物や成分が含まれていない方が、抽出する成分量が増える(抽出力が高くなる)のですが、お茶とコーヒーでは成分が異なるので液体自体の隙間をなくして密度をあげるようなイメージで抽出していく必要があります。

これは面白くて複雑で、何のベースとも言えないラテが作れたりと、非常に不思議な飲み物が出来上がりました。まだまだ検証してみる価値はありそうでしたね。

次に、「試しに抽出してみたけどイマイチだった」ものですが、これはたくさん体験したことがあります。

ほうじ茶と和紅茶とコーヒーの組み合わせが面白かったので、抽出するものを逆にして、Flairという手動式のエスプレッソ器具で、お茶をお湯の代わりにしてエスプレッソを抽出してみたんです。

ものすごく青臭くて納豆のようなエスプレッソが出来上がりました。笑

酸が綺麗でフルーティーなコーヒーを渋かったり苦くしてしまったり。
旨みの強いお茶を薄くて渋くしてしまったり。
香りの高いハーブやスパイスの香りを引き出さずに抽出してしまったり。

答えになっているかはわかりませんが、どんないい食材でもイマイチになり得るというのが抽出の奥深いところです。

効果的に成分を引き出さないとどんなに魅力ある素材でもイマイチになってしまうので、まずはどんな特徴がある食材なのかを見極めて成分の出方を計算してそれぞれの素材と向き合う必要があります。

コーヒーやお茶も、カッピング※や拝見※を行ってきちんと性質を見極めないと良くない抽出になってしまいます。

※カッピング、拝見…コーヒーやお茶の状態をみたり実際に飲んだり香りを確かめたりしながら品質を判断する方法

スパイスやハーブでも鮮度や質で香りの出方が変わってしまいますし、スーパーで買った野菜や果物が味が乗ってなかったり、そういう意味では美味しいものよりも一見イマイチなものに出会う機会の方が多いのかもしれませんね。

イマイチだと思っても抽出の条件を変えるだけで美味しくなるかもしれません。
お湯の温度だったり、浸す時間をあれこれ試行錯誤してみてはいかがでしょう!!

ライター / 藤岡 響

2005年よりバリスタの道を志す。cafékitsune 等、多くのカフェ、コーヒーショップの立ち上げに携わり、2015年ブルーボトルコーヒー清澄白河の立ち上げに参画。トレーナーとして多くのバリスタの育成に携わる。日本の日常に寄り添う独自のカフェスタイルの構築を目指し、2018年西荻窪に「Satén japanesetea」をオープン。2020年より独立、珈琲に限らず、水を介して抽出する抽出物全般を扱うバリスタとしてコーヒー、日本茶等の商品開発、店舗監修、専門学校講師等を行なっている。ユニット香飲家としても活動し、著書に「飲食店の為のドリンクの教科書」がある。

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