2019.08.13. | 

[Vol.1] 「美味しいもの」を「選ぶ」世の中に。生産者の想いの温度感を発信するイベントを開催

この夏、量り売りの八百屋「HACARI」を中目黒にオープンしたyolozの片山由隆(かたやま・よしたか)さんと、「HACARI」と関わる生産者やワイナリーが集まるイベント「Food Meet Up!!」が、原宿のWework アイスバーグで開催されました。全国各地から集まったこだわりの食材を使って、料理をコーディネートしたのは、Mo:takeヘッドシェフの坂本英文(さかもと・ひでふみ)です。今回、主催したyolozの片山さんや生産者の方々にそれぞれの取り組みなどについてお話を伺いました。

産直食材の鮮度や、生産者さんの想いを体感してほしい

イベントの主催者である片山さんは、産地直送の野菜・果物をほしい分だけ購入できる八百屋「HACARI」を7月20日に立ち上げたばかり。「規格品・規格外品という枠を壊し、野菜や果物の物語まで味わってほしい」という想いを込めてつくった、新しい形の八百屋です。今回のイベントでは、「HACARI」の野菜を作っている生産者さんたちが顔をそろえています。そこには片山さんのどんな想いがあるのでしょうか。

 

片山さん:野菜を取るというより、「美味しいものを食べる」という循環となる世の中になってほしい。そのきっかけとなることをやってみたい。そんな想いだけでイベントを開催しちゃいました(笑)。

消費者さんがスーパーで購入する食材は、基本的に産直より鮮度が落ちています。一方、産直は収穫から次の日に消費者さんの元に届きます。だから鮮度が高く、美味しいんです。他にも、市場を介して食材を扱うと、規格品・規格外品という区別が生まれます。規格に合うかどうかではなく、「美味しいものを食べる」という循環を作るにはどうしたらいいのか。それにはまずは消費者と生産者がつながったり、生産者の想いや食材そのものについてもきちんと知ってもらう必要があると思うんです。「あの人が作っている、あの野菜が美味しいから食べたい」。こんなシーンが生まれるよう、今日はその第一歩になればと思っています。

 

 

「美味しい野菜」がある、「選べる」ということを知ってほしい

野菜ソムリエと農業人(2019年エコファーマー認定)の渡邉剛(わたなべ・たけし)さんは約60種類の野菜を作っている専業農家さんです。農業を始める前はインドネシアでCDのエンジニアだったという、異色の経歴をもっています。2016年、実家の家業であった農業をスタート。現在は収穫体験や自家製野菜を使用したピザ作り等の食育体験などに力を入れているそうです。

エンジニアの仕事を辞めて農業を始めたその理由は、渡邉さんの消費者としての目線がきっかけでした。

 

渡邉さん:インドネシアの野菜は高額で、当時、何を食べても美味しいとは思えませんでした。時々、実家に帰った時の野菜の美味しさが際立っていたんですけど、シンガポールやタイなどでは群馬県産の小松菜などが1個400円といった価格で売られていました。そういうのを見て、「海外で販売したら何かおもしろいことができそう」と日本の野菜に可能性を感じたんです。

 

それでも、農業に打ち込んでいることに限界を感じる時もあるのだそう。

 

渡邉さん: 普段、農業をしていると、その地域以外の人と出会う機会があまりありません。専業農家を続けていくなかで正直、視界が狭まってくるのを感じる時があります。情報が目まぐるしく変化していくなかで、自分だけが止まっているように思う時があるんです。消費者さんは何を欲しているのか、自分は何が楽しくて農業を続けているのか。そういったところが、生産者としては消費者さんと関わらないと、時々わからなくなる。今回のイベントはそのことを再確認できるいい機会だなと思いました。

 

消費者に美味しい野菜を買い続けてもらうために、知ってほしいこともある。イベントはそのことを伝えるきっかけにもなれば。そんなふうに渡邉さんは話します。

 

渡邉さん:スーパーで一年中並べられている野菜にも理由があるんですよ。スーパーの野菜は誰がどんなふうに作っているか、わからないものが多いと思っています。たとえば高原キャベツはたくさんの農薬を使用している場合がある。今日、イベントで出している紫キャベツなどは農薬を使っていないのですが、虫食いだらけですよ。でも野菜ってそういうもんなんです。季節によっては野菜が作れない時期もあるから、農薬を使って作っていることも少なくない。そういうことも消費者さんには知ってもらえたらと思います。

 

そう話す渡邉さん、今は、海外に野菜を出すことを目指して、これまでになかった発想での開発にも意欲的です。

 

渡邉さん:イベントではみなさんにビーツを食べていただきましたが、ビーツは栄養価が高いけれど、国産のものはあまりないんですよ。そのなかで、うちの農場がある九十九里は海が近くて潮風が感じられるから、その環境を活かして、ビーツやその土地でできる特性のある野菜を作りたいです。

土づくりでも、来年から、イワシの鱗を肥料に入れようかなと思っています。イワシはリン酸がすごく豊富で、土との相性もいいんです。「イワシの鱗で作った野菜」って面白いじゃないですか!(笑)これをブランド化していければいいです。

 

 

美味しい豆腐の基準を作りたい

斎藤嘉人(さいとう・よしと)さんは、嘉平豆腐店の7代目。現在はインターネット通販を支援する会社に勤めながら、農a学部で豆腐の研究をしています。お店は明治初期の創業以来、百年余りにわたり豆腐作り一筋。今も変わらない製法で、伝統の味を消費者に届けています。

 

斎藤さん:嘉平豆腐店は3年後に継ぐ予定です。後を継ぎたいという想いは、ずっと前から持っていました。5歳くらいから現場の仕事を手伝っていて、父親が働いている姿とか、お客さんが来て父親が喜んでいる姿とかを見て、豆腐もすごく美味しいし、こんないい職業は他にないなって思っていました。スーツをカチッと着て、会社に行くサラリーマンというのは自分の中では想像できなくて、「僕も美味しい豆腐を作ってかっこいい大人になりたい」と思っていました。それは大人になってからも変わらなかったですね。それと合わせて研究が好きで、今は大学の農学研究科の研究室で、豆腐の品質評価の研究をしています。

 

実家が豆腐屋という環境に生まれ、豆腐の研究者としての一面も持ち合わせている斎藤さん。家業を継ぐ3年後には、その個性から何か新しいものが生まれそうです。

 

斎藤さん:個人的には「アカデミックな豆腐屋になる」というビジョンを持っています。今、ビジネスのことは東京で勉強していて、アカデミックな部分は大学で勉強をしています。その両輪ができる豆腐屋になりたいです。

豆腐業界の話をすると、豆腐は廉価販売や安売りセールが地方でまだ残っている状態です。1丁19円という商品もあります。「1丁200円の豆腐と何が違うの?」と聞かれると、製法の違いとか、どのくらいの濃度なのかといったことは、パッケージにある表示だけではわからないので「値段が違います」としか言えない。ビールだったら、生ビールや発泡酒など表記されているので違いがわかるのですが、豆腐は品質評価の基準がないというのが現状なんです。これまでその研究がされてこなかったから、美味しい豆腐の「基準」がない。そのことが個人的には課題だと思っているので、その指標を作りたいと思っています。自分が生きている間に実現したいですね。

やることはたくさんあるんですよ。たとえば今日のようなイベントでも、僕一人ですべてのイベントに足を運ぶのは難しいので、今勤めているインターネットの会社で得た経験などをもとにいろいろと展開していきたいです。たとえばブログを書いて、SNSで拡散する。それだけで何万人にも発信することができます。既存のやり方にこだわらずに、豆腐の世界を変えていきたいですね。

 

次回は8月15日公開です。同じくイベントに参加した岡山の卵屋さん「卵娘庵」のお話や、江東区でワイン作りをしている「深川ワイナリー」のお話を伺っています。今回のフードコーディネートを担当した坂本にもこだわりの食材を活かす調理のポイントなどを聞いています。お楽しみに!

 

 

 

-Information-

 

株式会社yoloz

東京都港区虎ノ門4-3-1 城山トラストタワー 21階 WeWork 城山トラスト

https://www.yoloz.co.jp/

 

HACARI

東京都目黒区中目黒4-4-10

 

ソムリエファーム〜わたなべさん家の野菜たち〜

千葉県山武市小松4036

https://watanabeyasai.jimdo.com/

 

嘉平(かへい)豆腐店

新潟県燕市吉田上町3-5

https://www.kaheitofu.com/

 

ライター / たかなし まき

愛媛県出身。業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。人の話を聴いて、文章にする仕事のおもしろみ、責任を感じながら活動中。散歩から旅、仕事、料理までいろいろな世界で新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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