2019.08.27. | 

[第7回]藤野のお山の食まわり:「一品持ち寄り」のレベルが高すぎる

移住者があとを絶たない神奈川県の山あいのまち、旧藤野町。13年前に移住し、現在は山奥の古民家に暮らすライター・平川まんぼうが、藤野での、食にまつわる日々を綴ります。

藤野には「一品持ち寄り」の文化がある。誰かの家や施設に集まってのランチ会や飲み会、夜の会議、イベント準備の際の賄いに地域の行事。多いときには月に何回も、一品持ち寄りの機会がやってくる。集まる人数によって分量を調整したり、ほかの人が持ってくるものを予想して、被らないような一品を考えたり。準備は楽しくも、結構大変。だけど、みんなが持ち寄ったごはんをつつきながらテーブルを囲むのは楽しいし、ぐっと関係が縮まる気もする。すごくすてきだし、必要な文化なんだなと、ここで暮らすようになって思う。

先日も、住んでいる集落で、祭礼前の草刈りがあった。草刈りのあとは、集会所に集まって一品持ち寄りでの懇親会が開かれる。そこに次から次へと持ち込まれる料理の豪華なこと! 手羽の煮物にじゃがいものオーブン焼き、郷土料理のせいだのたまじ、いなり寿司にかた焼きそば、スパイスの効いたピクルス、煮こごりにサラダ、マリネに酢の物。もはや小さな集落のちょっとした懇親会とは思えない。センス良く盛り付けられ、味付けも絶妙なさまざまな料理は、どこぞのレストランにも引けを取らないおいしさと華やかさだ。

総じて藤野は、持ち寄り料理のレベルが高すぎるのである。

これは、食べ手としてはとても楽しいわけだが、つくり手としてはプレッシャーでもある。素朴な料理しかつくれない私は、何をつくっていけばいいのかと、毎回ドキドキするのである。みんなはそんなことないのだろうか。料理好きな人ばかりが住んでいるのか、住んでいるから料理が上手になるのか、いったいどっちなのだろう。

山には自然の恵みがたくさんある。新鮮な野菜に、山で採れる山菜や庭で採れる果実、捕獲された野生の猪や鹿の肉、手作りする味噌や醤油などの調味料に、ジャムや漬物、乾物などの自作の保存食。その恵みを前に料理が楽しくなる気持ちは、私にもわかる。命の有り様を目の前で見ているからこそ、おいしくいただこうという気持ちに、自然となる。

おまけに飲食店は少なく、夜遅くまでやっている店となるとほとんどない。どこに行くにも車で行かなくてはならないから、家でごはんを食べたり、一品持ち寄りの機会も多くなる。そうすると「ごはんをつくる」という行為は、暮らしの中でも大きな割合を占めるようになる。単純につくる回数も増えるし、おいしいものを食べてもらいたいと思いながら、あれこれ工夫するようにもなる。やはり「誰かのためにつくる」ということが、料理の腕が上がるいちばんの近道なのかもしれない。

食というのは、暮らし、というか、生きるということの根幹を成す。一品持ち寄りは、その食を誰かのためにつくり、誰かと分け合い、誰かがつくったものをいただく場だ。料理のレベルがやたらに高いということは、そこに相手を思う心がこもっているということではないだろうか。ひとつのテーブルを囲むことで、そうした思いの循環が当たり前に起き、自然とコミュニティが育まれていく。「誰かのため」の食が、私たちの暮らしをつないでいるのだ。

そう考えて振り返ると、さすがの私も、移住してきた13年前よりはずっと料理のレパートリーも増えたし、味付けも上手になっている気がする。ただ、周りのみんなのレベルが高すぎるのだ。うん、きっとそうだ。少しずつだが着実に、私の食も豊かさを増している。

ライター / 平川 友紀

リアリティを残し、行間を拾う、ストーリーライター/文筆家。1979年生まれ。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごし、生き方や表現について多くのミュージシャンから影響を受けた。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。その多様性のあるコミュニティにすっかり魅了され、現在はまちづくり、暮らしなどを主なテーマに執筆中。通称「まんぼう」。

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