
臼杵名物、赤飯ならぬ「黄飯」に癒される
今回、大分で食べたい料理は別府市から車で1時間とかからない距離にある、臼杵市にあります。歴史的な城下町と国宝の臼杵石仏で知られ、海と山の豊かな自然が共存する臼杵で育まれてきた伝統的な郷土料理「黄飯(おうはん)」です。
くちなしの実で黄色く色づけしたご飯に、白身魚のほぐし身や豆腐、根菜を甘辛く煮た“かやく”を添えた素朴な一膳。全国的に祝いの席で登場する赤飯と並ぶ、臼杵ならではの「ハレの日ごはん」です。赤飯が小豆を混ぜて炊いた“赤いご飯”であるのに対し、黄飯はくちなしの実で炊く“黄色いご飯”。
どちらも「めでたさ」を表しているけれど、その印象はずいぶん違います。黄色は太陽や豊かさを象徴する色であり、臼杵では「穏やかに祝う」ための色として、黄飯は長く親しまれてきました。口にするとほんのりと優しい香りが広がり、白身魚や野菜の滋味がふわっと溶けていく――派手さはないけど、どこか心がほっとする味わいです。

派手さはなくとも華やぎを感じる工夫
さて、黄飯の始まりは、江戸時代までさかのぼります。当時の臼杵藩は、財政の厳しさから贅沢を禁じる「倹約令」を出しました。そして、小豆は高級食材のひとつとされ、赤飯を炊くのは贅沢とみなされていたのです。
そこで、安価で手に入りやすい「くちなしの実」を使い、ご飯を黄色く染めることで“赤飯の代わり”にしたのが黄飯の起源だと言われています。派手なものは控えながらも祝いの心を失うことなく、家族や仲間を思う温かさ。黄飯のやさしい黄色は、そんな人々の気持ちを表しているのです。
「手にあるもので、できる限りの華やぎを」と願った庶民の知恵は、港町ならではの魚介を使った“かやく”と組み合わせるスタイルも生み出しました。かやくは、具材たっぷりの煮込み料理で、単なる副菜ではなく、黄飯の一部として振る舞われ、「黄飯の上にかやくをのせて食べる」のが伝統的なスタイルです。魚のうまみ、野菜の甘み、豆腐のやわらかさ。それぞれが調和して、どこか精進料理のような滋味深さと満足感が得られるのも黄飯の魅力です。

豊かな時代にもさらに増す存在感!
時は経ち、現代は豊かさを超越した飽食の時代とも言われています。そんな中、臼杵の人々にとって、倹約令時代に生まれた素朴な黄飯の存在意義は変わってしまったのでしょうか? いえいえ、まだまだ黄飯は“特別な日のごはん”として食されています。
お正月、入学式や卒業式、成人式、還暦祝いなど、人生の節目やお祝いの場では、赤飯ではなく黄飯を炊く家庭が多く「家族が集まるときは、やっぱり黄飯」という人も少なくないとか。時代が進み、食のスタイルが多様化しても、黄飯は臼杵の人々の心から消えることはない…というよりもむしろ、近年はさらにその存在感を増しています。
学校給食の献立に入ったり、地元の飲食店や旅館で「黄飯定食」として観光客に提供されたり。初めて黄飯を見る人にとって黄色いご飯はフォトジェニックに映るようで、SNSで「黄色がきれい」「優しい味」と話題になることもあります。
倹約の時代に生まれた“控えめな祝い飯”は、人々の豊かな心を今に伝える料理です。もし、大分・臼杵を訪れる機会があれば、ぜひ食べてみてください。花火ほどの派手さはないけど、ぽっと心に明るい光が灯るはずです。