卵とじでもソースでもなく…デミグラスソース!?
岡山県のご当地グルメといえば、絶対に外せないのが「デミカツ丼」です。ごはんの上にキャベツを敷き、その上に揚げたてのトンカツを乗せ、濃厚なデミグラスソースをとろりとかける――そんな見た目にも食欲をそそる丼です。
東京や大阪ではカツ丼といえば卵でとじるスタイルが一般的ですが、岡山では洋食風のデミカツ丼が長年にわたって愛されてきました。デミカツ丼の大きな特徴は、まず「キャベツを敷く」スタイル。このキャベツがカツ丼という料理の重さをほどよく和らげ、全体をさっぱりと仕上げる役割を果たしています。
店によっては生キャベツ、ボイルしたキャベツとバリエーションがあり、食感や甘味の出方が違います。そして、最も大切なのが「デミグラスソースの存在感」。肉や香味野菜の旨味を引き出したデミグラスソースは、カツの衣やご飯によく絡むだけでなく、家庭的なソースカツ丼と比べると洋食らしい上品で奥行きのある味わいです。
それにしても、「なぜカツ丼にデミグラスソース?」と驚かされますよね!その背景には岡山ならではの食文化の歴史と、洋食への憧れが深く関わっているようです。
歴史に彩られたハイカラな味、「デミカツ丼」。
デミカツ丼の発祥とされるのは、岡山市中心部のとある老舗洋食店です。
創業した昭和初期、当時の日本では、まだカツ丼という料理そのものが珍しく、各地で卵とじやソースかけなど多様なスタイルが模索されていました。
そんな中、そのお店の店主は、東京の洋食店で味わったデミグラスソースのおいしさに感動して、独自にアレンジ。洋食の象徴ともいえるデミグラスソースを、揚げたてのカツと白いごはんに組み合わせるという新しい、そして「ハイカラ」な丼物を考案したのです。
このデミカツ丼の誕生には、岡山市が早くから西洋文化を受け入れてきたという歴史が関係しています。岡山市は山陽地方の交通の要衝として発展してきた都市であり、戦前から洋食店や喫茶店が多く、現在でも老舗洋食店や喫茶店が市内各地に残り、観光資源としても紹介されています。そうした土壌があったからこそ、デミグラスソースを使ったカツ丼が違和感なく受け入れられ、名物として定着していったのでしょう。
岡山各地に広がる「作品」を愛でる!
さて、現在では、岡山市内を中心におよそ30軒もの飲食店でデミカツ丼が提供しているそうです。デミグラスソースだけでも、赤ワインを効かせる店、甘口に仕上げる店、香ばしさを際立たせるなど多岐に渡り、老舗洋食店の正統派から、カフェ風にアレンジしたメニュー、さらにはヒレカツやチキンカツを使う店まで、多彩なバリエーションが生まれているとか。
芸術祭のついでに岡山を訪れたなら、各店の「作品」を愛でるように、どのデミカツ丼が一番か、食べ比べしながら回るのも良さそうです!