フルーツでもワインでも麺料理でもなく…。
山梨は富士山だけでなく、八ヶ岳や南アルプスなどの高い山に囲まれ、県土の約8割が森林という自然豊かな県です。そのため、ぶどうや桃は日本一の生産量を誇り、有数のフルーツ王国としても知られています。中でも山梨産のぶどうを使い、山梨で作られるワインは地理的表示(ブランド産品が持っている価値を国が認め、地域共有の財産として保護する制度)に指定されるほど。
さらに、山梨といえば、麺料理を思い出す方も多いでしょう。「ほうとう」は平打ち麺と野菜を味噌仕立ての汁で煮込んだ山梨ならではの逸品。
富士山に最も近い街、富士吉田市の「吉田のうどん」は、日本一硬い麺といわれる、歯ごたえとコシの強さが特徴。どちらも、山梨の厳しい冬に食べたくなります。しかし、今回は、しっかり栄養が摂れて夏にぴったりのローカルフードとして、「カツ丼」を紹介します。
まさか! カツ丼と山梨の深い関係とは!?
山梨でカツ丼!? そう思ったあなた、意外にも山梨とカツ丼は深い関係にあります。そもそも、カツ丼のルーツというのは諸説ありますが、なんとカツ丼発祥の地が山梨県の中心都市・甲府市であるという「甲府発祥説」なるものが有力なのです。
明治32年に日本で初めて生まれ、瞬く間に全国で評判となったカツレツ。それを東京で食べた、甲府のとある蕎麦屋の店主が、自店でカツレツを提供しようと試みた際に、アレンジしたのがカツ丼の始まりであるというものです。それにしても、なぜ丼なのでしょうか? その答えは、当時の蕎麦屋は出前が主流で、器がひとつで済むごはんもの・丼ものが定番だったからだといわれています。
この夏食べるなら洋食のようなカツ丼!
そして、カツレツをルーツに持つ山梨のカツ丼は、皆さんが想像するあのカツ丼とちょっと違います。山梨で「かつ丼」を注文すると、卵とじではなく、ごはんの上に千切りキャベツと揚げたてのトンカツが乗り、お店によってはさらにレモンが添えられた丼が出てくるのです。これはまるで、洋食屋のポークカツレツがそのまま丼に乗ったようなもの。さっぱりシャキシャキの千切りキャベツと甘い脂がジューシーなカツにソースをたっぷりとかけて、ごはんと一緒に頬張る……想像しただけでも食欲が刺激されます。
さて、ここからは余談ですが、一般的な「卵とじのカツ丼」は、山梨県では「煮カツ丼」と呼ばれる別の料理です。お蕎麦屋さんなどでは、カツ丼と煮カツ丼がメニューとして分けられているそうなので、ご注意を。ちなみに、この一般的なカツ丼の歴史も諸説ありますが、意外にも山梨のカツ丼より後にできたというのが定説です。大正時代に入ってから、とある食堂で仕出しの注文を受けて余ったトンカツを、学生のアイデアで親子丼のように卵でとじてごはんに載せたのが始まりとされています。
それはさておき、富士山はよく、山梨から見るか、静岡から見るか、というような論争が起こります。今年の夏は、日本一の富士山を眺めながら、山梨のカツ丼が好きか、一般的なカツ丼が好きか。カツ丼頂上決戦というのもよさそうです!