2020.07.21. | 

[Vol.1]「突き抜けたケーキを作りたい」お菓子プロデューサーの実験と挑戦

新宿から電車で30分の国分寺。駅から歩いて3分ほどのところにある、一風変わったケーキ屋さん、Ngram(エヌグラム)。なぜかケーキや焼き菓子の隣には地元国分寺で採れた野菜も売っているという、ちょっと不思議なケーキ屋さんです。今回はNgramのオーナー、生野敬介(いくの・けいすけ)さんにお話を伺いました。

何にも囚われない、「Ngram」という店名に込められた意味と思い

JR中央線国分寺駅から歩いて3分ほどの場所に、今回紹介するお店Ngram(エヌグラム)があります。まず気になるのが、そのケーキ屋さんらしからぬショップ名。ロゴも直線的でスタイリッシュです。店名の意味について、生野さんに伺いました。

 

生野さん:「gram」は、重さの単位の「グラム」です。ケーキ屋さんで一番使われる言葉が、「グラム」なんです。料理と違い、お菓子づくりではすべての材料を計量します。私たちにとって一番ベースになるものだと思い、店名に入れました。

 

すると、gramの前の「N」にはどんな意味が込められているのでしょうか。

 

生野さん:学生時代に、数学で「任意の数 N」ってやりませんでした?あの「N」です。1gram, 0gram など、数字を入れる事もできましたが、その数字に囚われたくなかったんです。「N」ならば、砂糖の「5g 」でも、小麦粉の「100g」でも、色々な数字をあてはめることができます。

 

お菓子作りで最も大事である計量の「グラム」。作るものによってどんな数字でも入る「N」。基本は忘れずに、でもそこに囚われ過ぎずに。生野さんの姿勢を感じる店名です。

 

 

たとえ品数が少なくても、他にはないストーリーがあるものを作りたい

生野さん:何かしら突き抜けた商品を作ることで、Ngramとして私たちが携わる意味を見出したいと思っています。

 

そういって紹介していただいたのが、Ngramの売れ筋商品「Barsac」です。

 

生野さん:これは、作り手であるNgramのパティシエの池信が、偶然出会った美大生からアイディアを得た作品です。池信はこの作品で洋菓子のコンテストでも賞をいただいたんですよ。

 

ケーキ屋さんと美大生。なんだか異色の組み合わせです。

 

生野さん:同じビル内のカフェの「SWITCH」で、美大生のイベントがあったんです。作品の説明書きの上には、袋に象ったアクリル製の文鎮が乗っていました。それを見て、シェフの池信が「この形をケーキにできる!」とアイディアを得ています。

 

商品名「Barsac」の「Ba」は原材料の中に入っているバルサミコ酢から、「r」はルビーチョコから、「sac」は袋の意味から来ているのだそうです。

 

生野さん:お菓子屋さんがお菓子の世界だけを見てお菓子を作るのではなく、もっと、お菓子以外の人々との関わりの中で新しいものを生み出していきたいんです。それが、Ngramでやりたいことです。

 

パティシエと美大生という違う畑の者同士が関わったことで、これまでにないインスピレーションを得たと語る生野さん。そうした外との関わりにNgramのケーキのストーリーが詰まっているのですね。

 

生野さん:Ngramの「N」の部分は、当てはめる数字を変えることができます。gramは数で変化してもいいし、人で変化してもいい。外部の人をもっと巻き込みたいですから。Nは、人・場所・物でも、何にでも置き換えられるところが、気に入っています。

 

生野さんにとって、Nは変化の象徴なのですね。

 

 

お客様にとって、「なにこれ!面白い!」という発見のあるケーキを作りたい

本店だけでなく、国分寺のマルイにも出店中のNgram。ブースの周りには、有名どころのパティスリーがずらりと並んでいます。

 

生野さん:国分寺マルイには多くのケーキ屋さんが入っているので、同じ様なケーキを出しても埋もれてしまうだけなんです。埋もれてしまう位なら、アイテム数こそ少なくても、Ngram独自のストーリーがあるケーキ、自分たちの気持ちの入り込んだケーキを出したい。ただ美味しいだけではなく、「Ngram だからこそ、このケーキは生まれたのだ。私達だからこそ、この商品は生まれた」というお菓子を作りたいんです。そのことはいつも考えています。

 

美大生との関わりから生まれたBarsacというケーキはまさに、Ngram独自のストーリーといえます。

 

 

経営者にも負けない、職人の熱意によって生まれたのが「石窯ロール」

ショーケースを見ているうちに、1つのケーキに目が止まりました。Ngramの看板メニュー、「石窯ロール」です。

 

生野さん:石窯ロールは、めちゃくちゃ高いオーブンを使って焼いています。かなり高価なので、購入は結構迷いました。

 

石窯のオーブンの価格は、通常のオーブンの価格の4倍程で、なんと車が買えるほどのお値段だとか。それでも購入に踏み切ったのは?

 

生野さん:現場の職人の熱意からですね。「Ngramでなければ作れないものを作りたい!」という気持ちに負けました。

 

笑いながらそう話す生野さん。折れない現場の職人さんたちへの愛を感じます。

 

生野さん:石窯ロールの生地は、遠赤外線を使って焼き上げます。ケーキの中心まで火が通りやすく、焼き時間を短縮できます。焼き時間が短いと、生地の水分蒸発を抑えられます。40分焼いたケーキと、30分で焼いたケーキではしっとり感が全く違います。水分飛びも少ないんです。

 

この味、このしっとり感のケーキが生まれるのは、機材へのこだわりがあってこそなのですね。
「石窯ロール」は、経営者を負かすほどのNgramの職人さんのこだわりがあってこそ、生まれた商品なのだということがわかりました。

 

 

現場のパティシエと経営者、お菓子に携わるみんなが納得いくものを作りたい

生野さんのお話には「現場」というワードが沢山出てきます。現場の職人さんとのコミュニケーションも密な様子です。

 

生野さん:現場とは日頃から沢山話しています。今は、店舗運営などマネージメントもしていますが、長くお菓子の作り手の側にいました。だから、現場の気持ちも凄くよくわかるんです。もちろん誰かが折れないといけない事もありますが、最終的にはみんなが納得できるお菓子を作りたいんです。

 

トップダウンな運営は好きではないと語る生野さん。
お菓子作りの職人を経たからこそ、現場の意志を尊重した経営ができるんですね。

 

生野さん:マネージメント側、販売側、現場の職人って、
同じ店にいてもそれぞれまるで違う言語を喋っている様に違います。そして、どちら側の言い分もわかる人が少ない。私が、間に入って通訳のように両者の言葉を伝えて、お互いの良さをもっと引き出したいです。

 

次回は7 / 28 (火)に公開予定です。

生野さんがパティシエを目指した理由はなんだったのでしょうか。どんな経緯で、お菓子作りの現場からマネージメント側に行き、現場と経営の「通訳者」になったのでしょうか。
次回はNgramを開店した経緯や生野さんのこれまでのストーリーをお話しいただきます。(つづく)

 

– Information –

Ngram本店
東京都国分寺市南町3丁目22−31島崎ビル 1F
042-316-8788
営業時間 11:00 〜 19:30  定休日 なし(不定休)

Ngram 国分寺マルイ店
営業時間 10:00〜20:30 (国分寺マルイの営業時間に準ずる)

HP : https://ngram.storeinfo.jp/
Instagram: https://www.instagram.com/ngram_0g/
Facebook : https://www.facebook.com/0gram/

ライター / 川口 香織

1987年生まれ、東京都の下町出身。6 年間の英国留学により、イギリスかぶれの江戸っ子となる。8年間勤めた外資系 IT 企業では、一万件を超えるメール対応、ヘルプ記事の翻訳、マニュアル作成などにて「書く」を鍛えた。現在ファッションアドバイザーとして活動中。 趣味は古代ローマ史、パズルゲーム。心の声だだ漏れ系の育児ブログを書いている。

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