SERIES
食とカルチャーの交差点
2026.03.10. | 

Mo:take MAGAZINE編集長・大垣 敬之|食とカルチャーの交差点

映画や音楽など好きなカルチャーの向こう側には、その人の考え方や感性が宿っている……そんな視点からお話を伺う、新シリーズ 『食とカルチャーの交差点』。

第2回は、我らが『Mo:take MAGAZINE』の編集長である、大垣敬之(おおがき たかゆき)の登場です。「取材の中で、ご本人も気づいていなかった瞬間に立ち会えた時が一番ワクワクする」と語る彼。その鋭くも温かい眼差しの奥には、どんなカルチャーが流れているのでしょうか。さっそく覗いてみましょう。

孤独な放課後と、MDから流れる「energy flow」

編集部: 今回は身内というか、私たちのリーダーである大垣さんの「交差点」を掘り下げたいなと。大垣さんの発言で印象的なのが、“誰かのためになることが自分の原動力だ”という言葉です。

 

大垣敬之(以下、大垣): そうですね。本質的かどうか、誰の何のためになるものなのか、仕事のスタンスとしては常にそこを自問自答していますね。

最近は動物のドキュメンタリー映像とかを観て癒やされてるんだけど(笑)、根本にあるのはやっぱり「人」への興味なんです。

 

編集部: さて、そんな大垣さんのマイ・バイブルとなっているような、感性のルーツに影響を与えたカルチャーとは、ズバリなんでしょうか?

 

大垣: 音楽家の坂本龍一さんです。出会いは1999年。当時、栄養ドリンクのCMで流れていた『energy flow』に衝撃を受けて、そこから過去の作品をひたすら聴き漁っていく中で『Tong Poo』という曲に出会って。

もともとY.O.M時代(Yellow Magic Orchestra:1978年に坂本龍一、細野晴臣、高橋幸宏の3人で結成された日本の音楽グループ)に演奏されていた曲なんですけど、energy flowが収録されていた『BTTB』というアルバムの中にピアノのみのバージョンがあって。それが本当にカッコいいんですよね!。

 

編集部: 90年代後半ですね。当時の大垣さんはどんな風に教授(坂本龍一)の音楽を聴いていたんですか?

 

大垣: 学生時代、友だちがほとんどいなくて(笑)。土手を散歩したり、家で本を読んで過ごしたり、とにかく、ひとりで過ごすことが多かったんです。そういう時は、自分でお気に入りの曲をセレクトしたMD(懐かしい!)を持って、ヘッドホンで聴きながらいろんな音からイメージできる映像を勝手に空想して。今思えば、すごく贅沢な時間でしたね。

 

編集部: ひとりの時間に、音楽で景色を描いていたんですね。

 

大垣: カッコよく言えばそうなんですね(笑)。その衝動と勢いで、独学でピアノも始めました。教授の曲は、聴くとシンプルなのに、いざ弾こうとすると結構複雑で奥が深い。音楽の深淵に触れた気がして、今でも僕の「原点」を思い出させてくれる存在です。

 

食べたい、と綴ること。死生観の輪郭

編集部: ルーツとしての坂本龍一さんから、時を経て。大垣さんの食の感性に深く刺さっている映画ってなんですか?

 

大垣: 最近のものですが、映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』ですね。

教授が亡くなるまでの3年半を追った作品なんですけど、日記の中に「みかんが食べたい」「〇〇が食べたい」と綴られているシーンがすごく印象的で。健康なら当たり前にできることが、そうではなくなる。「食べる」ということが、これほどまでに「生きる」ことや「死ぬ」ことと地続きで、リアルなものなんだと突きつけられました。

 

編集部:食がテーマのメディアを運営している僕らとしても、刺さるエピソードですね。その視点は、今の活動にどう影響していますか?

 

大垣: 物事をよりフラットに見るようになった気がします。時間も限られているし、自分もいつどうなるかわからない。でもそれを考えていてもしょうがない、だからやりたいことはやろう!って。もともと死生観みたいな感覚は持っていましたが、より輪郭がはっきりしたと思います。「今」を大切にする分、一人ひとりとのコミュニケーションに全力を注ぎすぎて、電池切れになることも多いんですけど(笑)。そのエネルギーの使い方は、これからの課題ですね。

 

完璧な朝は、ジャズと玉子焼きからはじまる

編集部: 最後になりますが、大垣さんが考える「最高に心地いい食とカルチャーのマリアージュ」を教えてください。

 

大垣:ジャズピアニストのオスカー・ピーターソンが演奏する『酒とバラの日々』と、少し照れくさいのですが妻が作る「玉子焼き」ですかね。この組み合わせが、僕にとっての至福です(笑)。

 

編集部: 渋い! でもすごく「生活」の匂いがして素敵です。なぜオスカー・ピーターソンなんですか?

 

大垣: ジャズピアニストのレジェンドである彼が奏でる音ってとても軽快で、無条件にリラックスさせてくれるんです。

ジャズって、その場の空気をふっと軽やかにしたり、落ち着かせてくれたりする、どんなシチュエーションにもフィットする懐の深さがあるんですよね。なかでもオスカー・ピーターソンは、スウィングもバラードもブルースも聴きやすくて、食事のお供に選曲することが多いです。

 

編集部: それに奥さんの玉子焼きが加わると。

 

大垣: コーヒーだけの朝でも彼の音はフィットするんですが、それに妻の玉子焼きがあれば、もうそれだけで完璧な一日のスタートかな…なんか愛妻家で好感度狙っている感じになりそうだけど(笑)、本当に美味しいんですよ!

背伸びしない、でも自分にとって一番大切なものがそこにある。僕にとっての「食とカルチャーの交差点」は、そんな日常の何気ない景色の中にあるのかもしれないですね。

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独創的な坂本龍一さんのピアノと、どこまでも軽快なオスカー・ピーターソンのジャズ。一見バラバラなようですが、その両方が大垣さんのなかで「今をどう生きるか」というひとつの軸に繋がっているのがとても面白いなと感じます。

「誰かのために」と全力を注いで、たまに電池切れしちゃう編集長。そんな彼が編み出す記事には、きっとこれからも温かな血がかよい続けていくはずです。

さて、私も次の取材の前には、美味しい玉子焼きでも食べて気合を入れようと思います。

 

—– インタビューに登場した食とカルチャー —–

・music:『Tong Poo ピアノソロver』/坂本龍一・movie:『Ryuichi Sakamoto: Diaries』

・food:妻が作る「玉子焼き」

・music:『酒とバラの日々』/オスカー・ピーターソン

ライター / 佐々木 彩子

ウェルネスメディア「MYLOHAS」(現:ROOMIE KITCHEN)編集長、ママ向けメディア「ウーマンエキサイト」のデスクを経て、フリーランスに。食、子育て、サスティナブルな暮らしを中心に執筆中。一男二女(双子)の母。鎌倉のオーガニック料理教室「ワクワクワーク」認定・食のお話アドバイザー®。ホームユースうつわマスター®。

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