2023.08.10. | 

[Vol.1]伊勢五本店から独立し、居酒屋の店長へ|日本酒のプロたっちゃんと巡る、おいしいたのしいお酒の世界

突然ですが、日本酒は好きですか? 
「大好き!」「日本酒しか飲まない」という方から、「うんちく語るおじさんが面倒くさい」「お正月しか飲まない」「毛嫌いして飲んだことがない」という方までいるのではないでしょうか。

日本酒に対する印象や思いは人それぞれだと思いますが、これまで体験したことのない、新しい日本酒の世界をのぞいてみませんか? 

ナビゲーターは、日本酒のプロで、創作和食「地のものバル MUJO」の店長、たっちゃんこと小原辰生さん。自ら料理もする小原さんだからこそ、日本酒がもっと身近に、そして楽しくなるお酒の世界を案内してくれることでしょう。

シリーズの初回は、小原さんが日本酒の世界に飛び込んだきっかけや、MUJOについて語っていただきます。

「日本のことを知らなくて恥ずかしい」
伊勢五本店の2年間で飲んだ日本酒は1600種類

−−小原さんは、なぜ日本酒の世界に入ったのですか。

小原さん:大学卒業後、2年間と決めて司法書士試験の勉強をしていました。すごくハードな試験だったので毎日ずっと部屋に缶詰でした。ひたすら机に向かう日々の中で、あるとき息抜きに近所の酒屋で買って飲んだ日本酒がすごくおいしかったんです。

結局試験には落ちて、「もうあとは好きなことをやろう」と思ったんですね。日本酒に惹かれていたので、せっかくなら酒屋に行って勉強しようと考えました。

 

−−日本酒好きでも、美味しいお酒を楽しんで満足する人がほとんどなのに、小原さんは勉強が好きなんですね。

小原さん:海外に3年ほど行っていた時、日本のことを聞かれて知らなくて恥ずかしい、と思ったことがちょくちょくありました。ワインを勉強していた時期もあったので、日本酒の味を知った時に「海外のワインを勉強してうんちくを垂れてたのに日本のことを知らなくて恥ずかしい」という感情がまた戻ってきたんです。

試験に落ちたと同時に日本酒の仕事をしようと就職活動を始め、東京の老舗酒屋である伊勢五本店に入りました。試飲会やイベントもあるので、2年間で1600種類の日本酒と出会いましたね。

 

−−2年間で1600種類はすごいですね! 伊勢五本店では具体的にどんなことを?

小原さん:小売なので個人のお客さん、飲食店さん、それぞれの要望を聞きながらお酒を選んでいく仕事ですが、自分の店で扱いのない銘柄も知らないと「この味なら、うちで扱っているこれに近いので、これを紹介できますよ」と言えません。なのでプライベートで飲みに行ったり家で飲んでいる時も、いつも仕事モードになっていましたね(笑)

最初は飲みながらメモもしていましたが、300種類飲んだくらいからは「これはあれと近い」という味の種類が脳内にマッピングされていきました。

 

お客さまの好き嫌いをなくしたいから
あえて嫌いなものを出す

−−伊勢五本店を辞めてMUJOの店長になったのは、やり切ったと思ったからですか?

小原さん:MUJOの前身のお店が閉店する時に、シェアハウスのルームメイトを通じて「新しいお店の店長をやらないか」と声をかけてもらったんです。僕が酒屋の人間で料理もできるから、ということでのお誘いでした。伊勢五本店には申し訳ない気持ちもありましたが、すぐに決め、2日後には辞表を出しました。繁忙期の前だったので、すごく怒られましたけど(笑)

 

−−迷いは一切なし?

小原さん:なかったですね、面白そうだったので(笑) 

当時住んでいたシェアハウスでは、余っている1部屋に外国人旅行者を無料で泊めてあげる代わりに、自国の料理を紹介してもらうという文化交流をやっていました。旅行者が料理を作ってくれるので、僕も日本酒や焼酎を出してみんなでご飯を食べたりしていたんですが、MUJOの店長という仕事には、そういう面白さを感じました。

 

−−料理はいつ覚えたんですか?

小原さん:小学生の時から趣味で作るのが好きだったんです。ちょっと小腹が空いたら、「何か作ろうかな」って。

家に色々あった調味料を入れて「あ、これ入れたらまずい」というのも楽しかったですね。実験感覚で遊びながら料理していました。

 

−−MUJOの店長という立場になってからも、日本酒の世界は深くて面白い、という思いは変わりませんか?

小原さん:今は日本酒が面白いというよりは、お客さんの好き嫌いをなくしたい、という方向にシフトしています。

嫌いなタイプの日本酒がある人や、焼酎が飲めないという人に、僕の知識やもてる力の全てを出してお酒を選び、「甘口の日本酒は嫌いだと思ってたけど意外といける」とか、「おかげで焼酎飲めるようになった」などと思ってもらいたいんですよね。嫌いだった場合はお金はいらないのでとりあえず試してくださいって。

嫌いなものを出すお店って、なかなかないですよね。

 

コミュニケーションから生まれる居心地の良さ
「ラクできる」場所であるために

−−「地のものバル MUJO」はいわゆる居酒屋というカテゴリーに入りますか?

小原さん:そうですね、創作和食の居酒屋みたいな感じです。

 

−−MUJOはどういう意味ですか?

小原さん:諸行無常の無常で、変わり続けるという意味を込めています。なので手を変え品を変え、1日1品は、新しいものを作り続けています。だし巻き卵とか唐揚げとか、いわゆる定番商品はなく、今までにないものを作りたいんです。なので開店以来、新しいものを作っていない日は10日もないと思いますよ。

 

−−毎日新しいものってすごいですね。

小原さん:常連さんに「いつもの頂戴」と言われても、いつものじゃないものが出てくるみたいな(笑) 

日本酒も定番商品がなくて、基本的には新しいものを入れ続けています。でも、バイトの子が覚え切れないので、そろそろ定番商品を置こうかなとも思ってます。

 

−−常連さんが多いんですね。

小原さん:半数以上は常連さんですね。多い時は9割が常連さんの時もありました。

 

−−これは常連さんに聞いた方がいい質問だとは思いますが(笑)、リピートしたくなる魅力ってなんでしょうか。

小原さん:僕の人柄とよく言われますが、「ラクをできる」を意識しているからだと思います。

目の前に座っているお客さんがメニューを見て決めるのではなく、「今日疲れてます?」「それだったら、これどうですか?」とか話しながら勧めたり、お客さんも「なんかお願いします」と、家のお母ちゃんに頼む感じで頼んだり。

とにかく座っていれば大丈夫、というのを意識して作ってきたので、それは他のお店ではできないことだと思っています。

 

−−ラクできるって、いいですね。何回か来て、話していくうちに、どんどんラクになりそうです。

小原さん:コミュニケーションなんですよね。そういう意味であまり小料理屋さんや居酒屋と思っていないというか、ふらっと寄ったら誰か知り合いがいる、そんな場所です。

 

小原さん:MUJOのロゴは、Mでもあり、代々木八幡宮の鳥居の形でもあります。神社は昔、地域の人が集まって話をする場、という機能も持っていたので、MUJOもそういう場所になるように、という思いが込められています。

 

次回は8/24(木)に公開予定です。小原さんが提案する「ちょい足し」やブレンドの極意、日本酒の味をヒトに例えて表す“たっちゃん流の味の表現”も披露していただきます。(つづく)

 

– Information –
地のものバル MUJO

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

Mo:take MAGAZINE > [Vol.1]伊勢五本店から独立し、居酒屋の店長へ|日本酒のプロたっちゃんと巡る、おいしいたのしいお酒の世界

Mo:take MAGAZINEは、食を切り口に “今” を発信しているメディアです。
文脈や背景を知ることで、その時、その場所は、より豊かになるはず。

Mo:take MAGAZINEは、
食を切り口に “今” を
発信しているメディアです。
文脈や背景を知ることで、
その時、その場所は、
より豊かになるはず。

みんなとともに考えながら、さまざまな場所へ。
あらゆる食の体験と可能性をきりひらいていきます。

みんなとともに考えながら、
さまざまな場所へ。
あらゆる食の体験と可能性を
きりひらいていきます。

さあ、いっしょに たべよう

OTHER SERVICE

様々な形で「食」が生む新たな価値を提供します。

ブランドサイトへ