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Food Experience Story
2026.07.07. | 

[Vol.2] Pizza 4P’s、おいしいの“その先へ”

ベトナムへと移住し、ピッツァを囲むレストラン「Pizza 4P’s」を形にした益子陽介さんと高杉早苗さん。Vol.1では、お二人の生い立ちから出会いまでを辿りながら、起業のキッカケとなったピッツァパーティー、そしてベトナム移住への想いを伺いました。

Vol.2では、“まるで文化祭のように”手探りで進めたという4P’s流の店づくりの歩みと、お二人が目指す“場”のあり方を語り尽くしていただきます。彼らが本当につくりたいものは、果たして飲食店としてだけの『レストラン』なのでしょうか。その答えの輪郭を探っていきます。

ピッツァパーティーの延長線上に

2011年5月。ベトナム・ホーチミンで「Pizza 4P’s」は産声を上げました。

当初のコンセプトは、和の要素を取り入れたフュージョンピッツァ。定番のイタリアンをベースに、「サーモン味噌クリーム」や「海苔とイカ」など、料理責任者の吉川貴朗さんを中心に現地の人々に何度もアンケートを取り、試食会(これもピッツァパーティー!)を重ねながらラインナップを決めていったそうです。

今や店のフラッグシップとなった「ブッラータチーズのピッツァ」も、実はお店に通うお客様の一言から生まれたといいます。

 

−−お店づくりという工程だけでも大変なパワーを使うのに、異国ベトナムの地での開業はきっと様々なご苦労があったと思います。そんな中で、お二人が店づくりで大切にしたのはどんな点でしょうか。

益子さん:最初は本当に、あの「ピッツァ窯を作って仲間が集まった楽しさ」の延長線上にいる感覚だったんです。

何より大切にしたのは、「お店に来てくれたお客様がいかにテンションを上げて、笑顔で帰ってくれるか」でした。これまで友人たちと開催してきたパーティーは自分がお金を払って準備する側でしたが、プロとして「対価をいただく側になってしまった!」というプレッシャーは凄まじかったです(笑)。

だからこそ、絶対に満足して帰ってもらいたいという必死さが原点にありますね。

 

高杉さん:メニューを考えるのも試行錯誤の連続でした。オープン当初は12種類ほどピッツァを用意したのですが、移住したばかりの私たちはベトナム人の方々の味覚がまだ分からなくて……。

様々な世代の方に食べていただいてはアンケートを取る、という作業をとにかく繰り返しました。

現地の方にとっては初めて体験する味ですから、受け入れられるまでには少し時間がかかりましたね。それでも、オープン当初は現地に住む日本人の方々が応援してくださって、次第に口コミで欧米の観光客の方が来てくださるようになり、そこから徐々にローカルのお客様へと広がっていきました。

 

益子さん:ちょうどベトナムに大手のピッツァチェーンが進出し始めた時期で、現地で「ピッツァ」という食べ物自体の認知が広がるタイミングだったことも運が良かったのだと思います。

 

−−なるほど。試食やアンケートで現地の声を取り入れながら形にしていったのですね。その中で、お客様の声から生まれたメニューなどもあったのでしょうか?

高杉さん:はい!実は、この「ブッラータチーズのピッツァ」もお客様のリクエストから生まれたんです。私たちはピッツァにのせるチーズも自社工房で手作りしているのですが、一号店時代、イタリア人の常連のお客様に「モッツァレッラが作れるなら、ブッラータ(モッツァレッラの中に生クリームと繊維状のチーズを包んだもの)もできるよね!」と言われたのがキッカケです。

熱々の生地に冷たいブッラータをのせ、生地を折り曲げて被りついた瞬間に広がるフレッシュな味わいは、手作りだからこそ味わえる贅沢ですよね。国によってメニュー構成は変えていますが、このピッツァだけはどの国でもグランドメニューとして提供していて、不動の人気を誇っています。

 

ピッツァは、あらゆる境界線を溶かす

ベトナム・ホーチミンの一号店をじっくりと育て上げた後、ベトナム国内はもちろん、カンボジア、インドネシア、インド、そして東京へと拠点を広げてきた「Pizza 4P’s」。

単に同じような店舗を増やしていくのではなく、国や地域ごとに異なるメッセージを店づくりに込めているのも、4P’sの特徴です。例えば、ゴミ問題が深刻なカンボジアでは「ゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)」を掲げた店舗を展開。2023年にオープンした東京店(麻布台ヒルズ)では、食への関心が高い日本の食べ手に向けて、生産者を前面に出した仕掛けを作りました。

 

−−40店舗以上を展開するまでには、国ごとの文化の違いによる苦労も多かったのではないでしょうか。もう苦しくて「辞めたい」と思ったことはありませんでしたか?

益子さん:うーん、実はコロナ禍の時に、一度だけ「4P’s」を辞めようかと真剣に考えたことがあったんです。

 

高杉さん:ありましたね。でも、その時二人で「じゃあ辞めて何する?」と突き詰めて話し合ったら、結局「また4P’sと同じようなことを始めそうだよね」という結論になりました(笑)。形を変えたとしても、私たちは一生「食」に関わっていたいんだと思います。ただ、一人で何かを表現するというよりは、食を通じて人々が集まり、つながることで幸せになる。そんな「場」を作っていきたいという想いが、私たちの強い軸になっています。

 

−−お話を伺っていると、お二人はレストランをただ飲食する場所としてだけではない「場」と捉えていらっしゃるのですね。その空間づくりへのこだわりは、どこから生まれているのでしょうか?

高杉さん:繰り返しになってしまいますが、イメージの根底にあるのは、やっぱりあの頃のピッツァパーティーの高揚感なんです。

あのラフでオープンな空気感をレストランという空間でどう再現するか。私たちはずっとそんなことを考えてきました。料理のおいしさはもちろんですが、椅子の座り心地、流れる音楽、すべてが「心地よい滞在時間」のために存在しています。

空間デザインも、初期の店舗は特に「ピッツァ窯を囲む客席」になるよう心がけました。

2階席からでも吹き抜け越しに火が見えるようにしたり、窯を中心に自然と人の輪が生まれる配置にしたり。とにかく窯の存在を意識した設計になっているんです。

 

益子さん:一号店は、本当に面白い「場」になっていましたね。

当時は現地のITスタートアップ界隈が盛り上がっていた時期でした。僕たちもIT出身だったこともあり、ベトナム人の起業家や日本人の駐在員など、さまざまな人たちが自然と集まってきたんです。そして、店をハブとして新しいつながりがどんどん生まれていきました。「ベトナムに来たら、とりあえず4P’sに行けば面白い人に会える」そんな空気感があったんです。

 

−−それはおもしろいですね。日本のコーヒースタンドやイタリアのバルのように自然と人が集まり、交流する場所になっていたんですね。

益子さん:まさにそうなんです。だから僕は、自分たちの店が「究極のファミリーレストラン」になれば良い、と考えたことがありました。これは、日本で言うところのは“ファミレス”とは全く違う概念で使っています。日本で”ファミレス”と言うと「リーズナブル」「便利」「チェーン」というイメージが先行しますが、僕らは全く違う解釈をしていて、「誰に対しても開かれた、インクルーシブなハレの場所」という定義をしています。

実際、4P’sの客席には、三世代で集まる大家族もいれば、国籍の違う友人グループもいらっしゃいます。小さなお子さんが楽しそうに店内を歩いて、隣のテーブルの人に挨拶していたりすることもあるんです。それを周りの大人たちも温かく見守っている。そんな光景を目にすることも少なくありません。

おじいちゃんから孫まで、一枚のピッツァを切り分けて一緒に笑っている。そんなボーダレスな風景が見たくて、店を作っているんだと思います。

 

高杉さん:あと、お店にいるときくらいは、スマホを置いて目の前の会話を楽しんでほしくて……。

その点、ピッツァは最適なんです。一枚のピッツァを囲んで、みんなで「いっせーのーで」と同じ方向に手を伸ばす。手掴みで食べるから、自然とスマホに触る時間も少なくなりますしね(笑)。

 

レストランの壁を越えて。メニューブックと産地ツアーの試み

4P’sの根底には、「すべては繋がっている」という「Oneness=ワンネス」の考え方があります。

ピッツァを囲む人同士のつながりだけでなく、生産者や自然環境など、食を取り巻くさまざまな存在とのつながりを大切にしたい。そんな想いは、東京店(麻布台ヒルズ)での取り組みにも色濃く表れています。

 

−−みんながピッツァを囲んで笑顔で過ごす。その時間から生まれるものがある、というのは素敵ですね。東京店では、そうした人と人との関係性に加えて、生産者とのつながりを届ける取り組みにも力を入れているそうですね。

益子さん:はい、東京店では、お客様同士のつながりだけでなく、食材の源である「生産者さんの哲学」とも繋がってほしいと考え、「ディクショナリー」と名付けた分厚いメニューブックを作りました。

ベトナムでも、農薬を使わず有機で野菜を育てるなど、こだわりを持った生産者さんはたくさんいらっしゃいます。ただ、その想いや背景を十分に届けられていないという課題感がずっとあったんです。

日本には魅力的な生産者さんが数多くいる。だからこそ、その哲学や声をもっと届けたいと思いました。

そこで考えたのが、「お客様が席について必ず目にするものは何だろう」ということでした。そして辿り着いたのが、メニュー表だったんです。

 

−−なるほど。毎回手に取るメニューだからこそ、生産者さんの想いや背景を届ける場所としても機能するのですね。

益子さん:ディクショナリーには、食材の背景はもちろん、お店の音楽やアートのストーリー、さらには「食べる瞑想(Zen Eating)」ができる音声ガイドの二次元コードまで詰め込みました。

私たちが「Oneness(ワンネス)パートナー」と呼ぶ、Pizza 4P’s Tokyo を支えるクリエイターさんたちのアイデアと思いが詰まった一冊となっています。

 

−−メニューブックというより、一冊の読み物ですね。他にも日本特有の取り組みとして、生産者の元を訪ねる「ツアー」も企画されていますよね?

益子さん:そうなんです。ベトナムでも提携農家さんを巡る小規模なイベントは行っていましたが、基本的には4P’sのお客様を中心としたものでした。

一方で、日本ではネットを通じて一般の参加者を募集する本格的な産地ツアーに初めて挑戦したんです。2023年から始めて、2026年時点で、6〜7回ほど開催しています。

つい先日も、西伊豆へ行ってきました。西伊豆では、お店でも使っている海藻の生産者「シーベジタブル」さんの開発拠点である海藻の養殖場を見学したり、海藻を使ったピッツァづくりのワークショップを行ったりしました。

また、定期的に開催している埼玉県小川町のツアーでは、有機農家「SOW FARM」さんや自然派ワインのセレクター「KIKI」さんのもとを訪ねています。

ただ、生産現場を見学することだけが目的ではありません。生産者さんが自然と向き合う中で育んできた哲学や価値観に直接触れられることも、このツアーの大きな魅力なんです。

 

−−レストランの中から外へと「場づくり」の可能性を広げたということですね。何かインスピレーションを受けたキッカケがあったのでしょうか?

高杉さん:以前、二人で東京のレストラン「レフェルヴェソンス」さんが企画した「北海道・礼文島の生産者さんを巡るツアー」に参加させていただいたんです。それが本当に素晴らしくて……。

厳しい自然の中で食材がどう作られているかを五感で知ることで、食が完全に「自分ごと化」されました。

東京のレストランで食事をしながらいくら素晴らしい説明を受けても、現地で食材を育てるおばちゃんやおじちゃんの顔を直接見ることには敵わない。

そんな「百聞は一見にしかず」を体感したからこそ、私たちの店でもその架け橋になりたい、レストランという箱の中だけに囚われない活動をしたいと強く思いました。

 

情報だけでなく、直感で「おいしい」の先を描くために

実はインタビューを行ったこの日(2026年5月)、7月にオープンを控えるニューヨーク・ブルックリン店のピッツァ生地の試作会が行われていました。東京店では、生産者やクリエイターの想いを届ける「ディクショナリー」という形に辿り着いた4P’sですが、ニューヨークではどのような形でその価値観を届けていくのでしょうか。そんな話題に及んだ時、益子さんから意外な言葉が飛び出しました。

益子さん:実は、ニューヨーク店では少し違うことを考えているんです。東京店では「ディクショナリー」という形を選びましたが、ニューヨークはメニューブックではなく、別のアプローチで挑戦したいと思っています。

 

−−えっ!?そうなんですか?どのような表現を考えていらっしゃるのでしょうか。

益子さん:実は、ディクショナリーを作ったことで見えてきたこともあったんです。

僕たち「Pizza 4P’s」が掲げる「Oneness(ワンネス)=すべては一つに繋がっている」という考え方は、言葉で説明しすぎると、どうしても頭で理解するだけで終わってしまう気がしていて……。ディクショナリーにもその良さはある一方で、少し「説教くさく」感じられてしまう難しさもありました。もっと直感的に、パッションとして五感で感じてもらう方法はないだろうか。そう考えるようになって、ニューヨークでは「アートの力」を取り入れたアプローチに挑戦しようと思ったんです。

 

−−確かに、読むことって、頭で考えて想像することが求められるので、人によってはハードルに感じるかもしれないですね。

高杉さん:はい。でも例えば、私たちが幼少期の味覚の記憶や自然体験の話をしたように、きっとみんな人生のどこかに似たような原風景を持っていると思うんです。

野山を駆け回ったこと、お父さんやお母さんと見た風景、その時食べたものとか。

そんな人間の本能的な記憶を呼び起こすようなストーリーブックや空間を、五感に語りかける形で届けたいなと思っています。

 

益子さん:情報は頭では理解できる。でも、本当に感じられているかというと難しいですよね。だから、まずは直感で感じてもらうことを大切にしたいと思っています。

 

−−なるほど。そうした考え方の先に、お二人はこれからどんな場をつくっていきたいと考えているのでしょうか?

益子さん:ピッツァを起点に、お店を訪れた人たちの心が1%でもいいからポジティブに動くような体験をつくっていきたいんです。

そのためには、お客様と私たちが共有する時間を、もっと長く、もっと深くしていくことが大切だと思っています。それが産地ツアーという形かもしれないし、将来的には宿泊できる場所、例えばホテルやリゾートのような形かもしれません。

食事の時間だけではなく、その前後も含めて、もっと深くインスパイアされる「場」をつくっていきたいですね。

 

高杉さん:実は、ホテルやリゾートの展開は、私たち二人の最終的な目標なんです。

今もそのための場所を探しています。レストランという枠組みだけでは難しかったことにも、どんどん挑戦していきたいですね。

 

−−宿泊できる4P’s、それは楽しみですね!

益子さん:そうでしょう(笑)!

でも、どんなに規模が大きくなっても、始まりはあくまでもピッツァを囲むこと。「レストラン」という箱に囚われなくても、僕たちが大切にしたいのは、これからも“ピッツァを基点とした場づくり”です。先日も家族でピッツァパーティをしたんですけど、子どもたちも「やっぱりおいしいね」って言っていました。人が集まって、同じものを一緒に食べて、笑う。僕たちがやりたいことって、今も昔も結局そこなんだと思います。

 

−−人が集まって、同じものを食べて、笑う。お二人のお話を伺っていると、4P’sの原点も、これから目指す未来も、すべてその風景に繋がっているように感じました。

レストラン、産地ツアー、そしてこれから挑戦するホテルやリゾート。形は変わっても、その中心にはいつも「人が集まり、つながる場」があるのかもしれません。4P’sがこれからどんな風景を生み出していくのか、とても楽しみです。益子さん、高杉さん、本日はありがとうございました!

 

食べることは、本来とても個人的な営みです。

けれど、一枚のピッツァを囲めば、人と人との境界線は優しく溶けていく。

ベトナムから世界へと活動の可能性を広げる4P’s。けれど、その壮大なビジョンの原点には、今も変わらず、一枚のピッツァを囲む小さな食卓から始まっています。

レストランという枠組みを越え、人と人を繋ぐコミュニティとして、彼らの「場づくり」は今後どのような風景を生み出していくのでしょうか。

編集部ではこれからも注目していきます!

 

– Information –

Pizza 4P’s Japan

ライター / 加納 史子

広告映像制作会社に勤務した後、出版業界へ。男性ファッションカルチャー誌のグルメムック担当を経て、月刊誌『料理通信』編集部にて食を中心とした企画・取材に携わる。雑誌休刊後は、地域活性事業を手がける株式会社キッチハイクにプロデューサーとして参画。現在はフリーランスの編集者として、紙・WEBを横断した編集・執筆を行う。酒と本を愛する二児の母。

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