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Food Experience Story
2025.11.14. | 

【Vol.2】古本からひろがる人と食のつながり。『皿書店』関さんの営み

食の本屋『皿書店』を豪徳寺にオープンした関さん。

Vol.1では、映画や音楽などのカルチャーを好んでいた関さんが、本の世界に引き込まれ、書店を開くに至った歩みをたどりました。

Vol.2では『皿書店』を開店するまでの道のりと、オープンしてから半年が経過した『皿書店』について、お客さんとの関わりや古本屋であることの魅力に触れながら語っていただきます。

食の本屋が生まれるきっかけとなった一冊のルポ

−−今年の4月に『皿書店』をオープンするに至ったわけですが、準備はどのように進めていったのですか?

関さん:実際に本屋をやろうと決意したのは、オープン半年前の、2024年の10月です。

実は当初自分の中では、3年後くらいに本屋をやりたいなと思っていました。それを知人に話したところ、「すぐにやった方がいいんじゃない?3年後に同じモチベーションがあるかはわからないから」と言われて、「たしかに!」とその友人の言葉に妙に納得したんですよね。そうとなれば、「もうとりあえず勢いでやっちゃおう!」と思って、まず最初に物件を確保したんです!物件を確保してしまえば、もう逃げられませんから(笑)!

 

−−なるほど(笑)!退路を自らふさいだんですね!ちなみに、その時点で、食に特化した本屋さんというコンセプトはすでに決まっていたんでしょうか?

関さん:いや、その時点では食に特化するというコンセプトはなかったんです。はじめは普通の古本屋をやろうと思っていたんですが、やっぱりどうせ自分らしくやるならコンセプトがあった方が、自分もお客さんも面白いだろうなと思い始めて、なにかお店のコンセプトを考えようと思ったんですよね。

 

−−そうだったんですね!結果的に「食」をコンセプトとした、食専門の本屋さんになっていますが、「食」にしたキッカケはなんだったんですか?

関さん:キッカケは、その時、たまたま読んでいた『もの食う人びと』という辺見庸さんが書いた本でした。この本は、20-30年前に出版され、今でも名著って言われてる本です。世界中を旅して、戦場にも行って、世の中の食の事情を取材したフードエッセイ的なルポなんですが、とにかく面白い本だったんですよ!

そこでふと気づいたのが、自分でも意識はしていなかったんですが、知らず知らずのうちにそういったフードエッセイのような本をたくさん持っていたんです。

僕たちの生活に欠かせない「食」は、世界中でそれぞれ独自の文化があるので、本の種類もすごく豊富で奥深いんです。そんな食をテーマにした本屋をやってみたら面白いんじゃないか、と思ったんです。

 

−−やっぱり「食」の本がキッカケだったんですね!どこか、深層心理のところで、「食」が関さんの中にあったのかもしれないですね!

関さん:確かに!自分の意識してないところでそれはあったのかもしれないですね!

 

「皿書店」と名付け、彩られてきた本屋

−−なるほど!「皿書店」というネーミングも素敵ですよね!こちらも、関さんが考えたんですか?

関さん:はい、僕が考えました。神保町が好きで、よく本を買いに良く行くんですが、神保町には、お店の歴史や時代を感じる懐かしい雰囲気の「〇〇書房」とか「〇〇堂」というネーミングのお店があって、僕はそういうお店がすごく好きなんです!だから、自分のお店の名前を決める時には、「書店」をつけたいなと思っていて、そこにこだわりました。

あとは“食”がコンセプトの本屋なので、「書店」の前には「サラダ」という単語を使って当て字で「皿多」と表現しようと当初は考えていました。

 

−−面白いですね!「サラダ」ってその時々で、シーンや気分によっていろいろな食材やドレッシングで構成されている料理だと思うんです。だからこそ、「サラダ」のようにさまざまな要素の「食」の本があるというイメージもできますね!

関さん:そうなんです。来てくれるお客さんが、その時々の気分やシーンに合わせて、いろんな角度から「食の本」を通して新しい発見をしてもらえるように、という想いがありました。 それに、「食」には欠かせない“皿”という文字を使って、“皿が多い”と書く「皿多書店」にしようと考えていたんです。

でも、「皿多書店」って、実際に口にすると少し言いづらくて(笑)。最終的には“多”を取って、今の「皿書店」に落ち着いたんです。

 

−−素敵ですね!「皿多書店」も個人的には全然ありですが、シンプルに「皿書店」となることでよりインパクトも感じますね。ちなみに、お店のロゴデザインも、関さんが手がけてらっしゃるんですか?書体がすごく素敵だなと思いました!

関さん:そうですね、これも自分でデザインしました。

 

−−関さん、全部ご自身でやっちゃうんですね(笑)!デザインの勉強もされてたんですか?

関さん:いえいえ!全然デザインの勉強はしていないです。これは単純に「皿」という字を眺めていたときに、なんか本棚みたいだなと思って自分でつくってみたんですよ!

 

−−インスタのアイコンやにも使用されていて、すごく可愛いいですよね。お店のコンセプトから名前、ロゴまで、「皿書店」には関さんのこだわりが本当に詰まっていますね!

 

手から手へ、本が移りゆく古本

−−そうして皿書店が誕生していくわけですが、皿書店の本は、どんな基準で選んでいるんですか?

関さん:まんべんなく様々な本を集めていて、基準というほどのものではありませんが、あえて言うとしたら表紙は重視していますね。

たとえば『サメを食った話』という本があるのですが、タイトルはもちろんですが、何よりもお婆さんのなんとも言えない表情の写真のこの表紙が凄くインパクトがあるので、僕は一番好きなんです!

 

−−確かに!インパクトすごいですね!他にもお店に並んでいる本を見ると「これはどんな本なんだろう?」と興味をそそられるものばかりですね!店内には、関さんの感性にピンと来たものが並んでいるわけですね!本当にいろいろな種類の食関連の本が並んでいますが、こういうのってどうやって見つけているんですか?

関さん:基本的には、古本の卸しをしているところに毎週行って、そこで見つけて買い付けてきてるんです。あとは、最近はお客さんが持ち込んできてくれたものを買い取るというのも増えてきてますね。店内で取り扱っている本の数も4月のオープン当時は1000冊くらいでしたが、そこから500~700冊は増えてきました。

 

−−そんなにたくさんあるんですね!ちなみに基準はないものの、ジャンルとしては関さん自身が興味のあるジャンルを探していくイメージですか?

関さん:いや、これは古本の特徴なんですが、まず今は古本屋の棚に並べることを考えたら、自分が興味あるジャンルの本ばかりにこだわれないんですよ。新刊なら欲しい本を取り寄せできますが、古本の卸しで扱う本は基本的にランダムです。

だから、興味のあるジャンルだけにこだわると、冊数を十分にそろえるのが難しくて…そこが少し悩ましいところですね。

ただ、そのランダムなところが逆に面白く感じている部分なんです。たとえば、新刊書店だと毎月出版社から発行される新刊を買うので、似たような品揃えになりやすいのですが、古本屋だとそのお店ならではのラインナップを作ることができるんです!

そしてなにより自分が興味あるジャンルのモノ以外も買い付けることで新たな興味を見つけられたり、発見できるんですよね。そこが魅力だと思います!

 

−−なるほど! お客さんにとっても、「これまで興味のなかったジャンルの本と出会える場所」になりそうですね。 「皿書店」に来れば、新しい発見や出会いがあるかもしれない。 しかも、食に関する本がこんなにたくさんあって、どれも見たことのない本ばかりです!

関さん:僕自身もまだ出会っていない食の本は、本当にたくさんあるんです。
高輪に味の素さんが運営している「食の図書館」があるんですが、そこには4万冊くらいあるんですよ。

そう考えると、「食の本」のネタ探しにはまだまだ困らないと思います(笑)!この先、できれば味の素の図書館でも持ってないような本を集めたいという想いはありますね。

 

−−4万冊もあるというのも驚きですが、関さんならそこにない本も見つけられそう(笑)!ちなみに、今お店にある本の中で“これは珍しい”というものはありますか?

関さん:そうですね…例えばこの“コミュニティブック”というジャンルの本はなかなか手に入らないという意味でも内容としても貴重だと思いますね。

 

−−本というより、個人のノートのような見た目ですね!このコミュニティブックってどんな本なんですか?

関さん:簡単にいうとコミュニティブックとは、地域や仲間など“コミュニティ”をつなぐために作られた本や冊子 のことなんです。

これは、大学や教会によって作られたアメリカの家庭料理を集めたレシピ本で、この本の売上金は恵まれない人に寄付されるという仕組みになっているんです。この本の面白さは、一般の人がレシピを寄稿しているってところなんですよね。

 

−−現代でいうレシピ投稿サイトのアナログ版みたいなイメージですね!当時の現地で本当に作られていた家庭料理のレシピがそのまま残っているというのもなんとも貴重ですね!

関さん:実はこのコミュニティブックは、アメリカの文化なんです。アメリカにも本格的なレシピ本はあるんですけど、そういったレシピ本はだいたいが、料理人の人や研究者向けの本になっているんです。でも、一般のアメリカの人は、コミュニティブックのような本で料理の勉強をする人も多いみたいです。

 

−−そういった文化があるんですね!そう考えると本当に貴重な一冊ですね!でも、この本も売ってしまうんですよね?ちょっと気になるのが、貴重でなかなか巡り会えない本に出会えたとき、「これは売りたくない」と思うことはないんでしょうか?

関さん:これは僕は本当に“ない”ですね!いろんな人に読んで楽しんでもらいたいですし、どんどん面白い本を手に入れて次に読んでくれる人に手渡していけるところが、古本屋のいいところなんじゃないかと思っています。

皿書店としても、いろんな本が出たり入ったりすることで、いつ来ても新鮮に感じてもらえる状態が作れるから、いいなぁと思っています。

 

1つの写真集から得たインスピレーション

−−ずっと気になっていたのですが…お店には昭和を匂わせるレトロな冷蔵庫に本がディスプレイされていますよね!すごく印象的ですね!

関さん:これは、潮田登久子さんという写真家さんが、知り合いの冷蔵庫ばかりを撮った、その名も『冷蔵庫』というタイトルの写真集からインスピレーションを得て、このディスプレイ方法を思いついたんです(笑)。ちなみに、表紙の冷蔵庫は潮田さん宅の冷蔵庫と言われています。

 

−−面白い発想ですね!ただ陳列しているのではなく、本を冷蔵庫で保管するって、食の本屋だからこそ生きるディスプレイですね!しかも豪徳寺の冷蔵庫…この本との出会いも必然だったのかもしれませんね!

 

関さん:そうかもしれませんね(笑)。この写真集、すごく面白いんですよ。

様々なお家の冷蔵庫が閉まっている写真と開いている写真が、淡々と並べられているんですが、人の家の冷蔵庫を見ることで、その人がどういうものを食べているか、その人がどんな生活をしているのか想像できるというか。

この本の帯のコピーにもあるように「覗き込む」感覚が冷蔵庫にはあるのかもと思うんです。だから、皿書店では冷蔵庫を本棚にして、皿書店ってこんな所ですよって表現したかったんです!

 

本棚からひろがる、一人ひとりの食談話

−−実際にオープンから半年が過ぎましたが、やりたかった本屋さんをやってみて手応えはいかがですか?

関さん:本当に楽しいですね。本を売って儲けようと思うと大変な部分もありますが、いろいろな本を見つけて、まだその本に出会ったことがない人に届けられると思うと、とてもやりがいもあります!

ここに来てくれるお客さんの多くと、食べ物の話になるんですが、自分の好きな食べ物や、嫌いな食べ物、店内にある都道府県別の郷土料理の本をみて、自分の地元にあった食べ物の話をしたりするんです。

この場に来てくださったお客さんと食べ物の話で盛り上がることが、本当に嬉しくて楽しいです!

 

−−関さんは、小さい頃は、食に強いこだわりはなかったとおっしゃっていましたが、たくさんの食の本に触れて、食への興味やこだわり度合いは変わってきましたか?

関さん:そうですね。「食べること」に対しては今も変わりないですが、今はいろいろな食べ物の知識を得ようとしているんだなというのは自覚していますね!僕もお客さんから教えてもらうことも多いので、食について知ることが今はすごく楽しいですね!

 

ちいさな本屋から広がる、つながりの輪

−−いいですね!そんな風にお客さんとのコミュニケーションを楽しみながら、今後やっていきたいことはありますか?

関さん:最近は、定期的にイベントを企画したり、どこかに出張出店するなど活動の幅を広げています。あとは、すでに動き始めているんですが、お題の本を決めて、あらかじめ読んできてもらい、その本についての解釈や感想を自由に話し合う読書会を、継続的に開いてみようと思っています。

読書会をしてみると自分が思っていることと他の人が思ってることが全然違ったりして、こういう見方もあるのかと気づく時間がすごく面白いんですよ。この机を囲んで皆さんとお話してみたいなと思っています。

その他にも実は今度、先ほどご紹介したようなコミュニティブックに載っているレシピの料理を実際に作って発信してみようと思っているんです!それを一人でやるのは難しいのですが、うちのお店のオープン初日から来てくれた近所の店舗の方が協力してくださるということで、実現できそうなんです。

そんな風に自分一人ではできないことも、「食」や「本」を通して周囲のお店の方々との繋がりの中で、一緒に面白いことをやっていきたいと思っています!

 

−−すごく楽しみですね!豪徳寺駅から皿書店に辿り着くまでにも興味深いお店がありましたし、そうした方々と連携してここからまたカルチャーが広がっていくんじゃないかとワクワクしました!関さん、本日はありがとうございました!

映画や音楽といったカルチャーに親しみながら、自らの感性を磨いてきた関さん。そんな関さんがコロナ禍をきっかけに本の世界に惹かれ、「読む楽しさ」に目覚めていくエピソードが印象的でした。

店内には、そんな関さんの好奇心とセンスが反映された多彩な食の本が並び、訪れる人々と本を介したコミュニケーションが生まれています。

いつも新鮮な品揃えで訪れる人の好奇心を刺激する存在としてだけでなく、人と食、本を結ぶコミュニティとして『皿書店』が今後どう発展していくのか。編集部ではこれからも注目していきます!

– Information –

皿書店
所在地:東京都世田谷区赤堤2丁目2−8 第13通南ビル 102号室
営業時間:平日14:00~19:00、土日祝13:00~19:00
定休日:木曜日

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ライター / Mo:take MAGAZINE 編集部

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