2020.03.03. | 

[Vol.1] 都会で野菜を育てるだけではない。URBAN FARMERS CLUBが目指すもの

ビルの屋上やベランダなど、都会のわずかなスペースを利用して野菜や穀物を育てる、アーバンファーミング=都市農業。欧米ではすっかり定着しているこのスタイルを、渋谷の地から発信し、じわじわとメンバーを増やしている団体があります。NPO法人アーバンファーマーズクラブ(UFC)。なぜ今、都市農業なのか、そして、目指すものとはーー。代表理事の小倉崇さんに渋谷の畑を案内してもらいながら、活動への思いを聞かせて頂きました。

ルッコラやサラダ菜がわさわさ育つ
渋谷のど真ん中にある、小さな畑

再開発が進む渋谷駅の南側エリア。渋谷ストリームと渋谷ブリッジの間、渋谷川沿いのオープンスペースに、二つの箱型のプランターがあります。ここがアーバンファーマーズクラブ(以下、UFC)の畑の一つ、「渋谷リバーストリートファーム」。プランターを網越しにのぞくと、7種のルッコラを中心にサラダ菜、小松菜、水菜などが、瑞々しい緑の葉をたくさん広げています。

この場所のほかにも、道玄坂のビルの屋上や原宿、恵比寿に畑や田んぼがあり、380人を超えるというメンバーが、共同で野菜やお米を育てたりしているそうです。

 

 

小倉さん:メンバーの大半は都内の人ですが、千葉や埼玉、神奈川などに住んでいて職場が都内にある人もいます。朝8時ぐらいにここに来て、ちょっと雑草を抜いたり間引きをしてからそのままオフィスに行かれる方もいますよ。

有志のメンバーが自分が行きやすい畑や田んぼのお世話係になっているので、オンラインのスレッド上で「今日、私何時に行きます」とか「明日行けます」と自主的に手を挙げて、調整しながらお世話をしています。

UFCを立ち上げて2年半で400人以上にまで増えたメンバーを見ていると、やっぱり都市で生活している人たちも土に触れたいとか、野菜を育てたいという共通した思いを持っているんだな、と実感しますね。

 

 

小倉さんが、摘んだばかりの2種類のルッコラを、手の平に載せてくれました。早速、渋谷で育った、国内の固定種のルッコラを口に入れてみると、味の濃厚さと、ゴマのような独特の香りの深さに驚かされました。普段スーパーで食べているルッコラにはない美味しさです。

そして、初めて味わうイタリアで生まれた「わさびルッコラ」。ルッコラなのに、鼻の奥がツン! 新しい美味しさを教えて頂きました。

 

 

店から食べ物が消えた時に思った
「自分で野菜を育てられるようになろう」

ドカジャンにスコップ姿がぴったりハマっている小倉さんですが、実は、本業は農家ではなく編集者。自分で野菜やお米を作ろうと思ったきっかけは、2011年3月11日の、東日本大震災だったといいます。

 

 

小倉さん:震災の前月に子どもが生まれたばかりだったので、原発事故の後、妻の実家の関西に子どもと妻をすぐに送って行きました。僕も3日ほど滞在して東京に戻ったんですが、スーパーに行ったら食べ物が何もなかったんです。

あれ?と思ってコンビニに行ったらコンビニにも何もない。せめて水だけでも、と思ってドラッグストアに行ったら、「お一人様1本まで」と書いてありました。

その時に、人間が生きるために一番大事なことは食べることなのに、東京には食べ物を育てたり生産するという根源的な機能が一切ないんだなって改めて感じたんです。それで、震災の影響が落ち着いたら、自分で自分の野菜くらい育てられるようになろうと思いました。

 

 

2013年になり、小倉さんが野菜作りを教わりに行ったのが、神奈川県相模原市の藤野で自然栽培で野菜を育てていた油井敬史さん。編集の仕事の取材で出会い、野菜の美味しさに惚れ込んだといいます。ところが、新規就農して間もなかった油井さんは農業だけでは3人の子どもを育てられず、夜は道路の交通整理のバイトをしていました。

 

 

小倉さん:これだけ情熱を持って仕事をしている人間が飯を食えないのはおかしいよな、と思ったんです。同時に、僕が広告の仕事をして稼ぐ1万円と、彼が人参を売って稼ぐ1万円って、同じ1万円だけど込められている価値が違うんじゃないかと、思えてきて。

じゃあ、彼が飯を食えるようにしてやろうって思ったんです。

 

 

渋谷で最初の野菜作りは、
ラブホテル街のビル屋上で始まった

小倉さんと油井さんらは早速、UFCの前身となる「ウイークエンドファーマーズ」というユニットを発足。週末になると油井さんの畑に都会の友人や知人を招いては畑に音楽を流し、ビールを飲みながら種まきや収穫をするようなイベントを開催しました。

そんな時、活動を知って「渋谷で一緒にマルシェか何か、やりませんか?」と声をかけてきたのが、道玄坂のラブホテル街でライブハウス「TSUTAYA O-EAST」の運営会社。

「ラブホテル街でマルシェをやっても誰が野菜を買いにくるかな(笑)」(小倉さん)ということで、ライブハウスの屋上に畑を作らせてもらうことになりました。

 

 

小倉さん:当時は自分の事務所を渋谷に構えていて、あちこちの工事現場通るたびに「アスファルトを剥がせば、渋谷も土でできているんだよな」と思っていたんです。そこから、屋上に畑を作るアイデアが生まれました。

実際に屋上でイベントを始めると、地元で暮らす人や料理人たち、それに渋谷ならではのクリエイターたちが200〜300人が毎回来てくれたんですよね。それと、イベントがない時でも、『渋谷の畑を見学したい』と、高校生〜ビジネスマンまで実に多様な人が毎日のように来て。料理人の方も来てくれたので、彼(油井さん)が自然栽培で育てた野菜の味を知ると、相模湖から彼の野菜を仕入れるようになっていきました。

お陰様で、当初の目標だった「彼が農家として飯を食えるようにする」というミッションは達成できました。

 

 

目標を達成した小倉さんは、イベントにたくさんの人が来てくれることから、都市生活者は土に触れることを求めているのでは、と考えるように。調べてみると、欧米ではアーバンファーミングがすでに定着し、都会の中での農業が広がっていることを知ったそうです。

 

 

小倉さん:世界中の都市生活者が同じことを求めていることがわかったので、これからは一人の農家のためではなく、都市生活者のために活動を広げていこう、と決めました。そこで2018年に立ち上げたのがUFC、アーバンファーマーズクラブです。

 

 

3/10(火)に公開予定の次回は、メンバーが増えていく中でもUFCとして大切にしていることや、渋谷の田畑を飛び出して広がる“部活”のストーリーです。(つづく)

– Information –

NPO法人URBAN FARMERS CLUB
https://urbanfarmers.club
https://www.facebook.com/cultivatethefuture/

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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