料理そのものというよりシーンから着想。
−−ここから少し食とクリエイティブへの影響みたいなところでお話を伺っていければと思います。早速ですが、YUNOSUKEさんは食体験を通して「閃いた!降ってきた!」みたいにインスピレーションが湧いてくるっていうこともあるんですか?
YUNOSUKEさん:食体験でも“料理そのもの”というよりは、食べている人の様子や、そこにいる人たちのことを見てイラストにしてみたりすることが多いかもしれませんね。その人の動きやシーンの背景にあるストーリーに何か面白いことがあるんじゃないなぁと考えたりして、すぐメモをすることもありますよ。
−−料理そのものというよりシーンなんですね。お店によって客層も異なるからシーンも変わってきますよね。YUNOSUKEさんは、どんなところによく行くんですか?
YUNOSUKEさん:ある程度ちょっと大胆なお料理を出すところ?かもしれませんね。なんだろう、ちょっと乱暴な盛り付けというか。そういうところの方が自分の作風にリンクしていくんですよね。なので逆に料理でいえば、コースが中心のフレンチレストランみたいなすごく洗練されて、整っている感じのお店にはあまり行かないんですよね。
さきほどお話ししたアメリカ留学のときに衝撃を受けた“雑なデザインがかっこいい”(Vol.1)っていうのと同じで、料理も緻密に計算され尽くされたものよりはある程度、大胆で、いい意味で雑なものが好きなのかもしれませんね。
イタリアンでは、よく“ムラの美学”って聞きますけど、その“ムラ”の雑な余白の部分がやっぱり面白かったりするんですよね。だから自分でもよく作るんですけど、パスタが大好きなんですよね!
−−料理でも、雑な余白が楽しめるという点がポイントですね!なぜパスタにハマったのでしょう?
YUNOSUKEさん:そもそもは、アメリカ留学をしていた時に、シェアキッチンだったのでサクッとつくらなきゃと思って作ったのがパスタを作り始めたきっかけなんです。その頃はコロナ禍で、動画サイトには“簡単で時間をかけずに美味しいパスタを作る”みたいな動画が結構たくさんあったんですよね。実際につくってみたら色んな人の色んなやり方があって、それによってできたものも違うから、本当に奥が深くてどんどんハマっていきました。今朝も食べてきましたし、中毒っていうくらい本当に好きです!
デザインとパスタの共通項
−−その中でも特にハマっているパスタの料理はなんでしょうか?
YUNOSUKEさん:そうですね、好きなのはカルボナーラなんですけど、、作るっていうのも踏まえると、やっぱりパスタの原点ともいえるペペロンチーノですね。
1日3食たべても良いくらい、こだわるポイントがあって面白いんです!朝食を自分で作って食べて、お昼はイタリアンのお店で食べて、自分の作ったものと比較して答え合わせをしてみて。
夜はそれを踏まえてもう一度作ってみて調整するみたいな、そんなこともしていました。
パスタは実際作ってみると、シンプルなレシピで時間がかからないけど、“こだわりがい”がめちゃくちゃあるっていう面白さがあるんですよ。
シンプルだからこそ何かこだわるポイントが発生して、同じレシピでも毎回少し違う作り方をしてみたり、ここを変えてみたらどうなるだろうかとか。ここはこの人のやり方、切り方はこの人のパターンっていうふうに、いろんな人の料理動画から、良さそうなところをピックアップして、自分で作る時にそれぞれを活かして作るっていうのを良くやるんです。
そうすると、次第にオリジナルになっていって、それが本当に楽しいんですよね!
−−パスタへの探究心、かなり本格的ですね!そういえば先ほど絵のお話で、色々なところから好きなものや、良いものを参考にして絵を描いていたとおっしゃっていましたよね。これってもしかすると、パスタとデザインって同じようなスタイルで作られるのかなって思いましたが、いかがでしょうか?
YUNOSUKEさん:そう言われてみると、、確かにそうかもしれないですね。色々な海外のアーティストとかを参考にしつつ、この人のこの線の描き方がいいなぁとか、それこそクライアントや仕事によって、「今回はこの人の線の感じと、この人の色でまとめたらイメージに合うかも」っていう感じで作ることも確かにありましたね。
あとはクライアントワークや自分の作品で、自分のタッチのようなものをあまり出せなかった、出しづらかったという経験もしてきたからかもしれないですね。「この感じで書いてください」「このパターンでお願いします」「誰々さんみたいなデザインで」っていうオーダーも実際にはよくあったので、依頼内容によって、参考にしたものを組み合わせたりしましたね。
そうした中で、少しずつ自分の色を固めてきてるみたいな感じでもあるので、、うん、確かにパスタを作るときのやり方に近しいかもしれないですよね!もう今の自分の作品は、わりと自分っぽいというか、昔よりはだいぶ変わってきたかなと思います!
作品作りでは国や地域、ルーツを大事に。
−−やはり、そうなんですね!ちなみに、これまで飲食店や食がテーマとなるオファーもあると思うのですが、YUNOSUKEさんのデザインははどんな風にうまれるんでしょうか?
YUNOSUKEさん:デザインをするうえでは、そのお店の人のルーツや、お店がどんな地域や国の影響を受けているのかを意識することがありますね。例えば、パン屋さんであれば、作り方としてどこの国からインスピレーションを受けてるパン屋なのか。どこで修行してきたのか、そういった背景がお店づくりに直結してることがあるんですよね。だから国やその修行をしていた場所、そこの地域のことを調べてみたり、現地をGoogleEarthで探ってみたりしてイメージしますね。
−−そこの店長さんやオーナーさんのルーツっていう部分も重要なポイントなんですね。
YUNOSUKEさん:はい、その人がどういうカルチャーが好きなのか、どういうファッションが好きなのか、そういうのも作品への意識に関わってきます。人となりでいえば、今はすごい真面目な人って感じの料理人さんだけど、実は昔すごい“やんちゃでした”っていう人だったら、デザインもちょっと大胆なイメージのものが好きなのかな?とかそういった部分もデザインをする時には大事にしているポイントです。
食の体験でアイデアが思いつく。
イラストで描いてると食べたくなるんです。
−−ちなみに飲食店に関する作品をつくるときは、やっぱりそのお店の味を食べてイメージを膨らますということになりますか?
YUNOSUKEさん:本当はそうしたいところですが、僕は関わることが多いロゴ制作とかだと、オープン前なので食べられないことが多いです。メニューを見たりはしますけど、オープン前でまだ食べ物がないというようなタイミングだったりするのでちょっと残念なんですよね。。でも、食べ物のイラストを描いているときに、そのイラストのジャンルの食べものが食べたくなって食べるっていうことはありますね。例えば、ハンバーガーが関係するときは、ハンバーガーばっかり食べていました。
−−そうかぁ、ロゴ制作をするタイミングではお店のメニューを食べるというのは難しいことが多いんですね。ちなみに、依頼として、ロゴなどデザインに関することだけでなく、メニュー開発に関わることもあるのでしょうか?
YUNOSUKEさん:そうですね、以前アメリカのダイナーをイメージしたお店のグッズをつくったり、POPUPをした時は、「ALL DAY BREAKFARST」っていうイベント会期中の限定メニューにも関わらせていただきましたよ。そのときは、見栄えというよりはカリカリのベーコンに目玉焼き!といったリアルな現地感のあるものを提案しました。
−−やはりメニューに関わることもあるんですね!YUNOSUKEさんが、クリエイティブに関わるうえで食べるっていう体験は大事になるわけですね。食べるのが大好きなYUNOSUKEさんにとっては“オイシイ話”ですね。
YUNOSUKEさん:情報を得るためにも、実際に食べる過程で気づきや閃きが起こる事が多いので、その制作期間は同じものを食べに行く事が多いです。言い訳にして食べてる部分もありますが。
デザインのオーダーとしても、「ラーメンっていうお題で描いてください」っていうようなザックリしたお題もあるので、色んな角度から見たり体験をしていると、アイデアも湧いてくるんです。写真も撮ってあとで家でもう一度考えたりしますね。
−−やはり後で写真を見るとまた違った視点で見えたりしますか?
YUNOSUKEさん:そうですね、写真にして見返すと、その時見過ごしていたようなことにも気づけたりするんです。箸をとって食べる仕草、食べた後の器のソースが残った感じ、食べ終わったあとの器とか面白いかもとか。
食べている時は気付けないけど、家に帰ったら気づくこともあるし、家では気づけないことに外では気づけるっていうこともありますよね。そういう日常を切り取ることで色んなアイデアが湧いてきますね。
美味しいものを食べることが楽しみで生きていると言っても過言ではないほど、食べることが大好きというYUNOSUKEさん。
食体験からの着想は料理、盛り付けというビジュアル的なもの単体ではなく、食体験をする空間で起きた色々なシーンそのものが、アイデアの源泉となっているようです。日常にある様々な出来事がデザインになっているからこそ、親しみや懐かしいものを感じる作品として、人を魅了するのかもしれませんね。
リアルな日常をイラストで面白く。
−−食のお話であったように、YUNOSUKEさんの作品は日常を切り取ったものが多くみられますよね。これは想像ではなく存在するものなんですか?
YUNOSUKEさん:はい、基本的には日常のリアルな風景をベースに、浮かんできた非現実的なアイデアをやりすぎない程度に足すという手法がこの作品集では多いです。
例えばこのイラストは、カフェで会話をしているシーンは実際にあったものですが、ポートランドという場所柄や人々の背景を汲み取り、シチュエーションを非現実的なものにしています。
もう売り切れてしまったんですけど、初作品集として販売したアートブック『FAR COAST』は デザイン事務所から独立後の留学中に遭遇した風景で、サンフランシスコをインスピレーションの源泉に描きました。もともとアメリカのロードトリップのような写真集が好きで、そういったものを意識して作りましたが、結構面白いアートブックになっていると思います。
−−ちなみに、直接的に飲食ではないのですが、Yuinchuの『PARK SPOT』のクリエイティブを制作していただきましたよね。『PARK SPOT』は“どこだって公園”というブランドの概念自体、余白が多いものですけど、こちらはどんなオーダーだったのですか?
YUNOSUKEさん:小野さんとのお仕事では、デザインについてはある程度自由に任せていただく事が多いです。 PARKSPOTのロゴも意図的に具体的な要望は伝えられていないですね。
−−なるほど!「自由に」というオーダーは逆に難しそうな気もしますが、どうですか?
YUNOSUKEさん:本来は、自由なうえで好きなことをやれるのが一番楽しいんです。でも意外と「自由に、何でもいいです!」っていう人ほどデザインを出したら「これはちょっと違います」みたいな反応をされることもあるんですよ。
好きなようにっていうのは、相手の“好き”のトーンと僕の“好き”トーンが違うから、そのまま僕の好きなものをやると違ったりしてしまうんですよね。だからそこのバランスをうまく考えながらデザインをしていきますね。ただ、、小野さんの場合は、“僕が好きなデザイン”をあげたら、「あぁこれ好きです!」って言ってくれるので、基本NGをくらったことがないんです。本当に“自由に、好きに”やらせてもらっていますね!
YUNOSUKEさんの作品が現実世界に。
こちらはYUNOSUKEさんがデザインしたクッキー缶。プールサイドコーヒーというお店ということで、プールをイメージしつつ、クッキーにも見えるものをデザインしたといいます。実際に缶の蓋を開けるとイラスト同じデザインのクッキーが入っているこの商品。「ここに描かれたクッキーがこの缶の中にはいっていたら面白いよね」というクライアントさんの考えでこの形のクッキー型を制作し、デザインから実際のクッキーになったそうです。
現実世界の日常を描き、そこに非現実的な要素をイラストでプラスして遊ぶのがYUNOSUKEさん。でもこのクッキーのように、現実世界にはないものを描いたYUNOSUKEさんの作品が、現実になることがこれからもどんどん起きるかも。そんなYUNOSUKEさんの遊び心のあるイラストが、私たちの日常のシーンになっていく日も近いかもしれませんね。
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